朝海 / 第5話

Code5

 サラは歩いていた足を止めた。人気のない方向から断末魔が聞こえてきたからだ。  ――まさか、ゼインさん!?  予感は的中した。  ゼイン――いや、違う。  カイルが銃を持ってそこにいた。サイレンサー付きの銃からは煙が立ち上っている。足元には死体が転がっていた。  話題となっているキサラギは、血に濡れているカイルそのものだった。タブレットで人工知能を起動させて入力をする。    キサラギ  本名:カイル・コールエン  性別:男  年齢:十六  家族構成:同業者によって両親が死去  参考:胸元にはコールエン家特有の呪いの紋章が刻まれている  もう、隠す必要ないと判断したみたいである。本気でいかせてもらうと、言っているみたいだった。よくぞ、レインが作り上げた人工知能を騙し通せたものである。    プログラム技術も格段に上だった。それに、あの時感じた胸の奥が、ざらりとした感覚と違和感がこれだったのだと気付いた。 「事実を知って怖くなりましたか? 今なら、契約解除も間に合いますが」 「ゼインさん――いいえ、カイルさん。あなたは私の物ですわ」 「聞いてもらいたいものがあります」  サラはイヤホンを受け取った。  何でしょう? と首を傾げる。 『社長。なかなかやりますね。あのキサラギを手の中で転がすなんて』  リーダーの声はどこかで聞いた気がした。  まだ、若い男の声だ。 <コールエンの両親が、最初から鬱陶しくて仕方がなかった。人工知能が日本を支配する日が来たら、あんな正義の味方なんていらないからな。リーダーもそう思うだろう?> 『あなたもなかなか人が悪い。それに、娘を差し出したと聞いた』 <あの子も私の駒でしかない。お前だって両親を自殺するまで追い詰めたじゃないか> 『俺たちは会社と世間では、こんなに善人なのに』 <私はアイズリーの未来を思っているからこそ> 『ただ、一つ気がかりがあります。二人が手を組んだらどうするつもりですか?』 <必要にならなくなったものは消す。それが、私のポリシーだ>  優しかったレインがこんな風に、思っていたなんて夢にも思わなかった。  怒りで手が震える。    サラだけでも怒りが込み上げてくる。でも、怒るのはサラではない。残酷な事実を知ってしまったカイルである。  両親を失って、生存していた叔父と叔母までいなくなった。長い間どれだけ彷徨ってきたのだろう。カイルはどこまで、傷つかないといけないのだろう。引き金を引き続けなければいけないのだろう。  見当がつかない。  仮初めとはいえ婚約者として、痛みの半分を引き受けたいと思った。ここまで、湧き上げる感情は初めてだった。  感情がかき乱されていく。 「銃をもらいます」  銃を取り上げる。細い指には似合わない。こちらで、処理をしておきます、とだけ言った。 「大丈夫――大丈夫ですから。ゆっくりと息をしてくださいませ」  サラは咄嗟にカイルを抱きしめた。体温を分け与えるために抱きしめ続ける。  あなたは一人ではないのですよ、と言いながら。  私がいるから。    傍にいるから。  ――私はカイルさんの味方です。  ――あなたとなら、最後まで。  ――どこへでもついていきますわ。  ぴくり、と体が強張っていると分かった。ごめんなさい、怖がらせてしまいましたね、と離れる。 「僕の正体を知って、サラさんはどうしたいですか?」  嫌ですわ、二人で戦います、と白い封筒を懐から取り出した。  ゼイン・アーガイル  サラ・ユーズベルト  婚約お披露目パーティー    そう、決行日は私とあなたのお披露目パーティーです、と言い切った。実はですね、他の映像も手に入れていますのと話し出す。スマートフォンの録画をオンにした。 『ロット君、どうして!』 <俺はね。最初からあんたたちが気に入らなかった! 皆、コールエン、コールエン! コールエン! あんたたちが俺たちの居場所を奪った! あんたたちのせいだ!> 『私たちはそんなつもりじゃないわ! カイルだってあなたに懐いている! 私たちはロット君と衝突したいわけじゃない! お願い! 考え直して!』 『ロット君!』 <その優しさと正義感ぶっているところが嫌いだ! 死ね!>  銃声が響いた。  体が倒れる音がする。  サラのスマートフォンが無音になる。両親の死の事実を知っても、顔色すら変えないのはさすがだなと思った。 「サラさん」 「何でしょうか?」 「緊迫した状況だったとはいえ、亡き両親の声を聞けたことに感謝します」  サラは瞳を伏せるしかできなかった。

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