かぴ / 第3話

おとぎ話

――むかしむかし、人は獣たちと世界の土地をめぐって戦争をしていました。    獣たちの中にはとても賢く、群れを率いる存在がいて人々はそれらを|賢獣《けんじゅう》と呼んで恐れました。  賢獣の元で力強く本能的に動く獣たちに対し、人々はその知性をもって対抗しましたが、武の獣に知の人間、互いの勢力は拮抗し戦争はひどく長引きました。  戦争が長引くと繁殖能力ゆえに勝負の天秤は少しずつ獣側に傾き始めていきました。  人々は国をおわれ家族を失い、世界のほとんどは獣たちによって支配されてしまっていたある時、突如として一人の男が現れました。    その男は決して若くはないものの特別な力を扱うことができ、その力はどれもこの世のすべてを越するすさまじいものでした。  男は自分の最も信頼する臣下七人に一つずつ力を分け与え、また臣下たちも己の部下に力を分け与えました。  力を得た臣下たちはそれはそれは素晴らしい武勲を上げ、傾いていた戦況はあっという間にひっくり返り、わずか十日で人々は戦争に勝利しました。  世界の大部分は人の支配領域となり、戦いのなかで生まれた人と人をつなぐ絆は平和な世界の礎となりました。    人々はその世界の常識を変えた特別な力たちを"魔を退ける新たな不文律"として"魔法"と名付け、十五人の魔法使いは英雄としてあがめられました。 ――<<央都創設譚 第一幕より>> ───────​───────​────────    朝露で濡れた草原は朝日をキラキラと反射して、草花は一晩ぶりの日光に嬉しそうに首をあげる。奥に見える山々の山頂から中腹にかけては光を一身に受けているが、足元は未だ暗い影に覆われている。言ってもみるみると影は晴れており、数刻も経たないうちに山全体が光に満ちた綺麗な緑に染まるのであろう。 「やはり来たか。」  男がフードを脱ぐと、下には確信に満ちたにやけ顔があった。ハンスはさして溜まってもいない唾を大袈裟にごくりと飲み込むと乾いた唇を舌で湿らせて、どこからともなく湧き上がる恐怖を吹き飛ばすように首をひと振りした。一泊置いてハンスは男に投げかけた。 「何でなんだ?どうしてチャンスをくれたんだ?」 「どうして、か……。」  昨夜から考えていた一つの疑問点。  なぜ男は直前まで殺す気だったはずの自分にわざわざ出発の時を教えたのだろう。なぜ昨日の村の東の森から来たであろう様子から出発するなら西へ出るだろうという安直な考えにも|乗《・》|っ《・》|て《・》|く《・》|れ《・》|て《・》|い《・》|る《・》のだろう。  いや、目的は分かっている。自分を旅に連れていくためだ。しかしいったいどこで心変わりしたのかはわからないままで頭の片隅に引っかかっていた。 「昨日の俺は確かにクズだったよ。殺されても文句は言え……いや、文句は言えるけど理解はできた。あんたも直前までは確実に殺意があったはずだ。俺の何があんたの意志を変えたんだ?」  ハンスは男を、男はハンスをじっと見つめていた。視線は交差することなく真っ直ぐに互いの瞳孔に結ばれた。 「死を目前にして後悔しない人間などいない。全ての人間に等しく人生があって過ぎた年月だけ想いは絡まる。  彼らは総じてああすれば良かった、本当はこうだったと遅すぎる反省をしては、最終的にあいつさえいなければ、あいつのせいで、など現状の原因を相手に見いだそうとする。  ただその中に、まれにだが、死を目前にしてもなお他人を慮る者がいる。  死を自分の責任だと理解し残されるものに思いを馳せる。それは生を諦める酷く愚かな行いであるが、一度死に触れるという経験はそれらにとっては今後の生を一変させるのに十分なほど意味深いものとなる。」  お前もそう見えた、と語る男の眼差しは真剣で表情の奥底には優しさがかいま見えた。昨夜の相手を突き刺すような威圧感ではなく、言葉一つ一つをしっかりと受け止めてもらおうという温かみがあった。 「ありがとう、おかげで自分の気持ちを知れた。親父にも想いを伝えることが出来た。中途半端な自分から、まだ全然だけど、それでも最初の一歩を踏み出せた。」  ハンスは深く頭を下げた。腰を折っていてもどこか大きく見えるその凛としたたたずまいから男はハンスが期待どおりに一夜で成長したのだと理解した。  「頼む、俺を旅に連れて行ってくれ。」  「……昨日のお前の提案自体は悪くなかった。ちょうど人手も欲しかったところだ、お前がこの旅についてくるというのなら井戸は最後に回すと約束しよう。」  あくまで最後に回すだけ。しかし、それで十二分。  ハンスは頭を下げたまま右手を前に突き出した。男は握手にこたえ、強く手を握りかえされたその感触にハンスが顔を上げると、そこにはまるでハンスを品定めするかのような視線が向けられていて、その恐ろしく冷たい視線は一夜で変わったのはハンスであって男ではないこと、決して男は善人ではないということをハンスに釘を刺すようであった。 「た、旅ってどこを目指してるんだ?」  ハンスは握っていた手をパッと離して、焦りを誤魔化すように聞いた。 「まずは隣町のミリスクを目指す。そこで資金を集めて、できるだけ央都を拠点に大都市を回る。」  男は淡々と答えた。     ───────​───────​────────    「なあ!あの黄色い花はなんていうんだ?あっちで飛んでる鳥は!?なあ、なんて言うんだ!?」  「……。」  二人は村の西から出た草原の中をまっすぐに続く道を歩いていた。道と言っても三人横並び分ぐらいの幅で草が剝げているだけの野道だが行き先が明白ならば確かな道しるべであった。  ミリスクはリーグレット村特産の野菜の主な卸先である領主町である。村から出たことのないハンスは行ったことがないが人通りも多く大変にぎわっているらしい。  知識の浅く、多くを知らないハンスにとっては行ってみたい街の筆頭だった。抑えられない期待にハンスの口角は自然と上がる。  吹き抜けるさわやかな風は生い茂る草花をなびかせ、通り過ぎる度に花の甘い香りを運ぶ。村から初めて出たハンスは広がる景色すべてが新鮮で視界に映る物すべてに目を輝かせ、風が横切るたびに目を閉じて鼻腔を刺激する甘い香りに全神経を注いでいる。  ミリスクへ至る道すじは二つあり、目の前に高くそびえる一山を越えるか遠回りしてふもとの森を抜けるかである。山を越える道は体力と気力さえあれば一晩でミリスクまで着くが危険も多く、荷馬車を引いていたり荷物が大きいと通れない。迂回路は時間はかかるが比較的安全に通ることができるため、よっぽど急いでない限りはこの道を選ぶ者が多い。今回二人が選んだのも後者であった。二人の出立からは三刻ほど経って日はすっかり高くなっていた。 「なあミコ!あれはなんだって聞いてるだろ!?」  ミコ――出発の際、ハンスが男に名を尋ねると男は一言そう答えた。旅人ゆえかリーグレット村ではあまり聞かない名に最初はむず痒さを覚えたハンスであったが、元来の性格もあってすぐに馴染み、この数刻で敬称もつけずに呼ぶようになっていた。  一方、ミコはハンスとは対称的で一言も発することなくただ無愛想に歩くだけであった。  ハンスはミコの袖をぐいぐいと引っ張りながら草原の中を指さしていた。指の先には全長手のひらふたつ分の大きさに拳大のトサカを持った|鶏《とり》が地面をつついては虫を啄んでいた。  特色すべきはその体色で薄緑の羽毛は周囲に完全に溶け込み、鶏が首を傾げる度に草原から浮き沈みを繰り返す焦げ茶色のトサカがなければ草原の中でその鶏を見つけることは困難だろう。 「アカホロドリだな。」  ミコは視線だけ鶏に向けると、さして興味もなさそうに言った。 「あれがアカホロドリか……、じゅるり……。」  アカホロドリの名はハンスでも聞き覚えがあった。アカホロドリはごく一般的な食用鶏で、その肉の柔らかさからホロホロドリと呼ばれることもある。  リーグレット村付近での生息数も多く、市場でも最も棚に並ぶ種類だが大抵は羽毛と皮を剥がされた骨と肉だけの状態で売られているので羽毛が緑なのはあまり知られていない。  一般的とは言っても家畜化されていない肉は価値が高く、ハンスには市場を歩く度に味を想像しながら眺めることしか出来なかった代物だ。  ハンスは両手に抱えていた木箱を道の脇に置くと、できるだけ音を立てないように忍びながら草をかき分けていった。  アカホロドリの視界に入らないように姿勢は前かがみ、射程に入ればいつでも捕まえれるように両の手は体の前に、一歩、また一歩距離を詰める。  思いっきり飛び込めば届くであろうという距離まで近づいた時、アカホロドリはすっと首を立てて、体は外を向いたまま顔だけハンスに向けた。目が合う。  じっとこちらを見る目に感情はなくただ無機質に目の前の生物が自分にとって害であるか否かを判断しているようだった。  へへっ、とハンスが気まずさを誤魔化すようにへらへらと笑うとアカホロドリは首をかしげ少し困惑した様子。  ハンスがじりじりすべらすように足を前に出すとアカホロドリはサッとこちらに向き直り、こちらを警戒するように体を低くしては羽を小さく揺らした。まるでいつでもかかってこいと言っているようだ。  そこから一人と一羽は動くことなく睨み合った。またしても気まずい時間。すると突然、アカホロドリの緑色の羽毛に真っ赤な波線が幾線も浮かび始め、線は全身を覆うように広がっていった。暴力的な危うさを感じさせる赤はハンスの第六感を激しく揺らした。  名前の由来はこれか。  気づくとトサカまで赤に変色しており、片足で地面を蹴っては今にも飛び掛かってきそうな勢いだ。全身が完全に赤に染る前に決めきらなければならない、どことなくそう思った。ぐっと足に力を貯めて拳を握る。 「確保ーーーーーーーーっっっ!!!!!」  意思決定は慎重に、行動はなるだけ早く。ハンスはアカホロドリめがけ勢いよく飛びかかった。  ハンスは額から大量の血を流しながら歩いていた。  流れる血は鼻の付け根から二手に別れてハンスの顔を三分割しているようであった。  アカホロドリめがけ勢いよく飛び込んだハンスだったが、アカホロドリはすんでのところで身を引き、ハンスの欲に満ちた魔の手を避けるばかりかその鋭利なくちばしでもって反撃してきた。  振り下ろされるくちばしの狙いは精確でハンスは危うく片目を潰されるところであったが、ハンスもまた、すんでのところで顎を引いてどうにか額の致命傷ですんだ。  ――鶏とて侮ることなかれ、社会は厳しいが自然はより厳しい……。  村では得られない待望のごちそうを逃したこともあるが、何より気に食わないのはミコがハンスを待たずに先へ進んでいたことだった。痛みにもがいていた間ばかりかアカホロドリ捕獲隠密作戦を実行している間もミコは歩みを止めてはいないのが遠く離れた背中からわかった。 「ふんふんふんふんっ!!」  荒い鼻息とカタカタと不規則な音にミコが振り返ると、そこには鬼の形相で迫り来る流血したハンスの姿があった。 「なんで置いてくんだよ!」  息を切らしながら抗議するハンスにミコは何も言わず冷ややかな視線を向けた。それは世間を知らない子供を見るような、檻の外を知らない獣を見るような目であった。    ハンスは傷口に髪が触れると痛いのか、しきりに前髪をかきあげている。本当は落ちてくる髪を押えていたいのだろうが、生憎両の手が埋まってしまっているのでそうもいかない。代わりにと言ってはなんだが、定期的に頭を下から振り上げている。頭を振る度にあっちこっちに血が飛んでいるが、当の本人には気づく様子もない。 「…………。」 「なんだよ。」 「まあいい、じきに分かる。」  何かと意味深げな発言に眉をひそめるハンスであったが、それ以上は何も言わないミコに言えることはなかった。  道中、二人は保存のきく硬いパンをかじりながら止まることなく歩き続けた。草原だった景色に低木や一本木がまばらに生え始め、気づいた頃には森の中を歩いていた。柔らかな木漏れ日が差し込み、小鳥のさえずりが心地よく鳴り響いた。日光が木々に遮られ、丁度良い明度に落ち着いた小道は一日歩いてきた疲れを忘れさせた。近くに沢があるのか、小さく水の流れる音が聞こえる。深く息を吸い込むと澄んだ空気が体に流がれ込み、吐いた息とともに体の憑きものが出ていくようだった。  「今日はここまでだな。」  先を歩いていたミコはそう言って道から外れた森に入った。まだ日は高いのになんで歩みを止めるのか、森に入って何するのか、突然の奇行に疑問が浮かんだ。  「ここまでって、まだ日は……」  ハンスの言葉を遮るようにミコが軽く右手を振ると一陣の風が吹き抜け、目の前の木々がなぎ倒された。鳥たちが慌てて飛び立ち、木の倒れる音と翼が空を押し出す音、鳥たちの抗議の声で一気に森が騒がしくなった。  続いて腕を振ると地面から巨大な木の根が生えてきて、それは豆のさやのような楕円の中にへこみが生まれたような形を作り簡易的な寝台になった。  腕を振るミコの姿は年に数回村を訪れる吟遊楽団の指揮者のようだった。  倒された木々はいつの間にか薪木に加工されており、場の中央にふわふわと集まってきては篝火になった。木々が立ち並んでいたはずの空間は一瞬にして小さな野営地に変貌した。  「西に高い山があるのなら日は平地よりも早く沈む。森の中であれば月明りも届かない。暗くなってから設営するのか?少しは頭を使え。普段から周りの状況を整理しろ、情報をもとに予測を立てて次を想定した行動をしろ。」  「ああ……ごめん。」  謝ったはもののハンスは整理しきれない量の情報に呆然としていた。  魔法を見るのは二度目だったがやはり圧巻としか言いようがなかった。前回は命の危機を感じていたからそれどころではなかったが、今回は自分に向けられたものではなかったためにゆっくりと見ることができた。木を薙ぎきるほどの風魔法の威力は、おとぎ話の伝説が嘘偽りなく現実で起こった出来事なのだと実感させ、伝説の英雄が目の前にいるという事実に胸が躍った。  「水を汲みに行く。ついて来い。」  「え……あっ、あの、魔法で出せたりしないのか?」  既に水の音のする森の奥へ足を踏み入れていたミコは立ち止まり、眉をひそめてこちらを見た。  「魔力を無駄使いしたくない。」  「魔力?ってなんだ?」  「そうだな……言うなれば、」  そこまで言ってミコは途中で言葉を切るとハンスの後ろ、今歩いてきた道を見つめた。ハンスもつられて振り向くと、遠くから馬の蹄鉄が地面を蹴る音が聞こえてきた。  ようやく見えた向かって来る馬の上には薄いチェーンアーマーの上に肩と腰に鉄製のあてを付けたえらく肉付きのいい金髪の男がいた。 「昨日ぶりだなハンス。英雄様とは上手くやれてるか?」  馬上にまたがるのは騎士隊長ロルフだった。  ロルフによると昨日ハンスと別れた後に関所に戻るとなんと既にミコがいたらしい。ミコは今晩の宿泊をロルフに頼み、ロルフは明日の朝には立つことと魔法についてや旅の目的を明かすことを条件に承諾した。  ミコは驚くほど無表情でロルフは先刻まで殺し合い寸前だった相手に最初こそ警戒したが、どうせ勝てないと開き直り諦めたらしい。ロルフはもとより近々ミリスクに出向く様に御触れがあり、どうせならと妻や騎士隊を説得して予定を前倒してまで二人のあとを追いかけてきたという。 「っとまあ、そんなことがあった訳よ。説得には昼までかかったけどな。」  ロルフは水で満たされた木桶を持ち上げながら言った。小さな村といえど役職を持つものはいつでも自由に動けるわけではない。予定を前倒すだけでも色々手続きがいるらしい。  道中聞こえていた水の音の正体は森に流れる小さな沢で、水量こそ多くは無いものの清潔な水が流れていた。両手に一つずつ水で満たされた皮袋を持つハンスは何も持たずに坂の上で待っているミコを見た。 「まさか本当に関所に行くとか思わねえよ……。」  皮袋に入る水は思いの外重たく、一日歩き通した疲労もたかって坂を登るのは大変だった。額に汗を浮かべながら坂を登り切るとミコは「疲れたか?」と聞いてきた。そこには労働者を労る気持ちなどは微塵も感じさせず、ハンスは少し頭にきた。  「ああ、疲れたよ!一日歩き通してもう体力の限界だってんだ。」  「そうだ。体力は見えもしないし触れもしない。全量を明確に知れないし、どんな感覚で体に存在するか説明もできない。しかし何となく限界がわかるし、何となく減っているのも感じる。」  何が言いたいのか。そんなことは当たり前だ。  「魔力もそんなものだ。」  そういうとミコは先に歩いていってしまった。ぽかんとしてしまったハンスだったが、同時に納得もいった。自分たち一般人から見たら特別な魔法も本人からしたらそうでもないのだろう。まさしく体力のように明確化されない当たり前なのだ。  スタスタと歩くミコの後ろ姿を見てあることに気づく。  「いや、片方持てよ!!」  ハンスの届かない怒りが森全体に轟いた。  すっかり日も落ち、見上げる空には星々が爛々とまたたいている。元ろうそく職人見習い、田舎の騎士隊長、伝説の魔法使い、立場も役職も違う三人はただの旅人という同じ身分でともに火を囲んでいた。  焚火を囲むように三つの寝台が置かれ各々好きな体勢をとっていた。ロルフは横になって肩ひじで頭を支えながら火を見つめ、ミコは浅く腰掛け、両肘を膝について前かがみの状態。  ハンスはあおむけになって空に浮かぶ星を眺めていた。魔法で作られた木の寝台は思いのほか心地よく、腰かけるのも横になるのにも適した丁度良いへこみで、力をかけると少し沈んで柔らかかった。体勢はそのまま周りに目をやるとロルフは夕食に食べた川魚の小骨が挟まったのか空いた手で口元をいじっている。汚い。  「なあ、そろそろ話してもらうぜ。なんで魔法使いを殺す旅をしているのか。そもそもお前は本当に|あ《・》|の《・》伝説の魔法使いなのか?」  ロルフは起き上がりながら取れた骨を炎に投げ入れながら言った。  「あの、と言われてもな。戦争が終わってから長いこと幽閉されていたんでどの魔法使いかは知らんな。」  「いや、その一言で確信したよ。あの戦争以降人類史に戦争は起きていないからな。」  ぶっきらぼうに返すミコだったがロルフの返事を聞いて――そうか、と一言漏らしうすく微笑んだ。その表情は慈愛に満ちておりミコの印象を大きく変えた。  「あんた今、幽閉されていたって言ったよな?何があったら世界を救った大英雄様が幽閉なんて処遇になるんだよ。しかも四百年もだぞ!?」  確かにおかしな話である。魔法使いを英雄と崇める逸話は数あれど幽閉されていたなんて話は聞いたこともない。  「あの戦争のことは今の世ではどういう風に広まっているんだ?」  少しずつ熱くなっていくロルフに対しミコはどこまでも落ち着いていた。  「どんなつったって、そりゃ…」  「待ってロルフ、俺が話すよ。」  今まで聞き耳を立てていただけだったハンスは、起き上がってそう言った。自分の方が上手く話せると、ただ何となく思った。話自体はどんな子供でも知っている。ハンスも小さい頃はよく母に話をせがったものだ。 「――むかしむかし……、」  ハンスは母の顔を思い浮かべながら自分がしてもらったようにぽつりぽつりと語り出した。  むかしむかし、ひとはこわいけものとせんそうをしていました。せんそうはながびいて、ひともけものも、とてもつかれていました。あるとき、ひとりのおとこがあらわれてこういいました。「わたしはすごいちからをもっている。そのちからはまほうといって、せかいをかえることができる。」おとこにはたくさんのなかまがいて、おとことそのなかまたちがつかうまほうはとてもきょうりょくでした。かれらのまほうがこわくなったけものたちは、ひとにあやまってせんそうはおわりました。   「――そうして世界は平和になりました。めでたしめでたし。」  ハンスが語り終えるとミコは儚げな表情で火を見つめていた。ミコの黒目の中には橙色の明かりが揺らめき、静かな森の中でパキパキと木が燃える音だけがしていた。    ハンスもロルフも何も言えなかった。ここで何かを語るのはミコであるべきだと二人とも理解していた。  長い長い沈黙が続いた。途中、痺れを切らしたロルフが何かを言いかけたがハンスの視線に気づき口を閉じた。あまりに長い沈黙に、このまま何も語らないのではと思い始めた時、ミコは静かに語り始めた。
お読み頂きありがとうございます! ミコが語るおとぎ話の本当の世界……私、気になります! 評価・感想励みになります!また会えることを星に願って、じゃねばい!(じゃあねばいばいの略)

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