蒼井瑠水 / 第3話

本来の私。

 ある日、六歳と数ヶ月が過ぎた頃だったかな。  突然、爆発のような痛みが全身を襲った。  まるで切れ味の鋭い刃物を一瞬で全体を切りつけたような、とてつもない痛みだった。  始まりは頭痛からだった。 「ままー、頭いたーい」 「あらあら、大変! ちょっと待っててね」  ガサゴソ。  いつも柔和な笑みを浮かべた母が、心配げに声をあげて、焦るように棚を漁る。どうやら薬用品を詰めた箱を取り出しているようだった。取り出した頭痛薬の表示に目を通していて、不思議に思って尋ねてみる。 「何してるのー? まま」 「ちょっとね、お薬探してるの」  今の私なら分かるけど、きっと五、六歳に使える飲み薬なんてなかったのだろう。  だから、母は困ったようにうーんと唸って、今度は冷蔵庫を探り始めた。  しばらくの格闘の末、清涼感のあるパッケージ箱を手に取っていた。  そして、箱から取り出した一枚のペラペラな冷却シートを、私の元に持ってきてくれる。 「いくよ? せーのでいくからね」  あやすように私の前髪を掻き分け、フィルムを剥がした冷却シートを準備する母。 「まま、早く早く!」 「分かってる分かってる、ほら!」    びたん! 「気持ちいー!」 「よかった、とりあえず冷却シートしかないけど、お薬買いに行く支度するからね」  きゃっきゃ喜ぶ私に、母はふふっと笑ってくれる。  そんなほがらかとした時間も束の間、しばらくしたあとだ。  頭痛が酷くなり、身体がふらふらと揺れ始めて、自分の身体が心配になった。  吐き気がだんだん伴うようになって、もうだめだ。そう思う暇もなく、いつの間にかソファに横たわっていた。 「大丈夫!? ひいちゃん!? ひいちゃん!?」  母はとても心配そうな声で、私の身体を揺さぶった。  息が荒くなり、揺さぶられるのが辛いほど。 「……ゃん! ひいちゃ……、……じょうぶ!?」  やめて、揺らさないでとも言えず、母の声は朧げにぼやけていた。 「ま……ま……、ま……」  ひたすら母を呼んでいた気がする。そうでもなければ気を保てなくて。 「きゃー!」  母の悲鳴が聞こえて、気づくと目の前には今朝食べたにんじん、おかゆみたいになった米粒が、黄色い液体とともに口元に広がっていた。  あれ、いつの間に口から吐いたのだろう。  そう思ったのは刹那、次の時には下腹部がじんわりと、鈍い痛みが不気味なほどにゆっくりと広がる。  次第には股間が温かく濡れているのに気づいて。恥ずかしいという概念を感じる暇もなく、おしっこを漏らしていた。 「あぅ……、ぅ、ぅぅ、……ぅ」  身体が小刻みに震え出し、腰が重くなり、全身に鉛のような重い痛みが宿る。  それは腕や足などの筋肉が集中した部分にも広がり、筋肉痛のような痛みが走り始めた。  死ぬ。死ぬ……。  死の概念もまだ知らない幼い私が、それを感じて恐怖に苛まれた。  ぐちゃぐちゃになった口の中で、歯がガチガチと鳴った。  顔が表情だけでなく、鼻水と涙で汚れた。  もう、死の一歩手前だった。  様々な感覚がどんどん薄れていく。  何も感じなくなって、気づく間もなく、意識は途切れた。  ぷつりと。

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