蒼井瑠水 / 第18話

再生の兆し。

 あれから一週間、ずっと家に引きこもって布団に潜っていた。  何も食べてない。でも不思議とお腹は空かなくて、身体よりも胸の奥に引っかかる、抉れた穴の方が気になってしまって。  心の臓を形容しただけの、ただの肉の塊が、今はずきずき痛む。  未だに惨めに顔を濡らして、彼に嫌われたんじゃないかって。  好きだといえずに、一方的に嫌われてる気がして、今にも闇に飲み込まれてしまいそう。  あんな死に方しなくたっていいのに。  悲しい。そんな薄っぺらい感情よりもどす黒い、渦を巻いた感情が胸に居座っている。  きっと彼の運命は変えられないのだろう。それを証拠に能力が発動しなかった。  身体への副作用の予感さえも感じず、こんなにも心は荒れているのに身体状況はただ静かなままだ。  自殺なんてしなくたっていいのに。なんで、そんな死に方で、私を傷つけるの……。  私は彼の最後の表情に囚われ、ただ、ひたすらすすり泣くことしかできなかった。    ある日、そんな私を見兼ねてか母が手紙が来ていると言い、好物のカツ丼と一緒に枕元に差し出した。 「ひいちゃん、今は辛いかもしれないけど、その手紙、読んでみて。読んで、あげて」 (今さら手紙だなんて。今は、誰からの優しさもいらない……。ただ、静かに寝ていたい)  暗い部屋の中を、電気もつけずにそっとあとにしてくれた母に毒づいて、同時に罪悪感も肩にのしかかる。  でも、母が私に何かを勧めることは、あらゆる未来を視てきても、なかった。こんなに、切実に強く言うなんて。  私は、空腹を訴えるお腹を抱えて起き上がった。  そして、枕元に置かれたカツ丼とともにトレーの上に並ぶ手紙を手に取り、送り主の名前をみて息を呑んだ。 『差出人:春野 恵美』  この名字と名前は、きっと彼のお母さんだ。  彼の葬式に参列した時、この名前を見た。  私はすぐさま封を開け、文章を読む。  きれいな文字を目で追っていくたび、喉の奥が苦しくなって引きつりそうになる。読み止めても瞼が潤んでくるのは止められず、くしゃり便箋を握る。  私、いかなくちゃ。    手紙を読み終えて、大きく鼻をすすると、だらしなくお腹が鳴った。  私は、まだ生きなければ。生きなければならない。  手紙をそっと枕元に置き、胸苦しさと共に強くなった胃の痛みを抑えるべく、カツ丼を掴んでかきこみ、咽び込む。  それが涙の嗚咽なのか、急いでかきこんだからなのか、分からない。  でも急がなくちゃ。  彼に、彼の遺したものに会わなければ。

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