芦名 雅 / 第20話

第20話 変身、迷子の恋

どこかで、誰かの恋がはじまる 「――月影つきかげ、変身!」 深夜の公園、光の粒が渦を巻き、制服姿の少女は一瞬にして、フリルとリボンだらけの戦闘衣装に姿を変えた。手には星型のロッド。傍らには、喋る白いウサギのぬいぐるみ――もとい、使い魔のルナールが、いつも通り呑気な調子で欠伸をしている。 「メイちゃん、今夜も気合入ってるネ」 「入れなきゃやってられないの。今夜で三日連続の怪異出現だよ、ルナール」 朝霧あさぎり芽衣めいは、この街に代々伝わる「守護者」の血を引く、正体を隠した魔法少女だった。昼間はごく普通の女子高生として学校に通い、夜になると変身して怪異と戦う。そんな二重生活も、もう三年目になる。 「メイちゃん、後ろ! 敵、来てるヨ!」 ルナールの声に振り返ると、闇から滲み出るように現れた黒い影の怪異が、鋭い爪を振りかざしていた。 「聖なる光よ、我が敵を打ち払え――ムーンライト・ストライク!」 ロッドから放たれた光の奔流が、怪異を一瞬で浄化する。決め台詞を叫ぶのは正直今でも少し恥ずかしいが、慣れというのは怖いもので、もう体が勝手に動く。 * * * 「大丈夫か!?」 戦闘が終わった直後、物陰から飛び出してきたのは、同じクラスの男子、樹木きぎ蒼太そうただった。すでに何度も戦闘現場に居合わせている彼は、芽衣の正体を知る数少ない人物の一人だ。 「蒼太、また来てたの。危ないから見に来ないでって言ってるのに」 「メイが心配で仕方ないんだから、しょうがないだろ」 悪びれもせず言い切る蒼太に、芽衣は毎回、言葉に詰まってしまう。彼がこうして駆けつけてくれるたび、戦いの疲れよりも、別の意味で心臓が忙しくなるのを感じていた。 「それに、俺も何か力になりたいんだ。ただ見てるだけっていうのは、性に合わない」 「気持ちは嬉しいけど、蒼太は一般人なんだから」 「一般人でも、メイの隣にいる権利くらいはあるだろ」 まっすぐな言葉に、芽衣は思わず顔を赤らめた。ルナールが横で「あらあら」とにやにやしているのが、地味に恥ずかしい。 「メイちゃん、蒼太くんに、そろそろ本当の気持ち、言ったほうがいいと思うヨ」 「ルナール、余計なこと言わないで!」 「なんの話だ?」 不思議そうに首をかしげる蒼太に、芽衣は覚悟を決めるように深呼吸をした。 「あの、蒼太。いつも駆けつけてくれること、本当は、すごく嬉しいの。危ないから来ないでって言ってるのは半分照れ隠しで……その、蒼太のこと、戦友としてじゃなくて、ちゃんと、その」 「メイ」 言い淀む芽衣を、蒼太は静かに遮った。 「回りくどいのは、メイらしくないな。俺は、もうとっくに答え出してるつもりなんだけど」 「答えって?」 「メイのことが好きだ。変身してる時も、してない時も、どっちのメイも」 まっすぐな告白に、芽衣の胸が一気に高鳴った。変身衣装のフリルを握りしめながら、芽衣は小さく、しかしはっきりと頷いた。 「私も。……蒼太のこと、好き」 「よかった」 蒼太は安堵したように笑うと、そっと芽衣の手を取った。ルナールが後ろで「ヒューヒュー」と冷やかしの声を上げているのを、芽衣は今だけは見逃すことにした。 「今度からさ、戦いが終わったら、一緒に帰ろう。守護者としてじゃなく、彼氏として、送らせてくれ」 「うん。よろしくお願いします」 夜空に浮かぶ月が、変身したままの芽衣と、それを見守る蒼太を、優しく照らしていた。守護者としての戦いはこれからも続くけれど、隣に彼がいてくれるなら、どんな怪異が来ても、きっと大丈夫だと、芽衣は静かにそう思った。

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