芦名 雅 / 第18話

第18話 恋はミラクル、トゥナイト

どこかで、誰かの恋がはじまる 「ハロー、みんな! 今日もビューティフォーな朝だネ!」 教室に入ってくるなり、帰国子女の白鳥しらとり礼那れなは、開口一番そんな挨拶をぶちかました。三年間のアメリカ生活から帰国して早二ヶ月、彼女の日本語は、いまだに謎の英単語がミックスされたまま定着していた。 「礼那、また始まった……」 隣の席の橘たちばな悠人ゆうとは、呆れ半分、苦笑い半分でノートを開いた。クラスメイトたちはもう慣れっこで、誰も彼女の喋り方に驚かなくなっている。 「ユウト、聞いてほしいことがあるんダケド」 「なに」 「今日のランチ、一緒に食べない? キャンティーンで」 「キャンティーンって、食堂のことだよね」 「イエス! さすがユウト、ツーカーだネ!」 礼那はにっこり笑うと、鞄からサンドイッチの包みを取り出した。この二人、実はクラスメイトの間でも、密かに「お似合いカップル候補」と噂されている仲だった。悠人自身は、そんな噂を否定するでもなく肯定するでもなく、いつも曖昧な態度を貫いていたのだが。 * * * 昼休み、食堂の隅の席で、礼那は勢いよくサンドイッチを頬張っていた。 「ねえユウト、今度の週末、フリーな時間ある?」 「一応、暇だけど」 「グレイト! じゃあさ、一緒に映画観に行かない? 新作のロマンティック・コメディ、めちゃくちゃウォッチしたくて」 「いいけど、それって、二人でってこと?」 「もちろんツー・ピープルで! なに、心配なコト、あるノ?」 首をかしげる礼那に、悠人は言葉に詰まった。彼女がこういう誘い方をするのは今に始まったことではない。だが、いつも軽いノリの中に、時々ふと真剣な色が混じることに、悠人は気づき始めていた。 「別に、心配とかじゃないけど。……礼那って、その、俺のこと、どう思ってるのかなって」 珍しく真面目なトーンで切り出した悠人に、礼那は一瞬、目を丸くした。それから、いつものテンションが嘘のように静かなトーンで答える。 「正直に言うとネ、ユウトのこと、ずっとスペシャルな存在だと思ってた。アメリカにいたときも、日本に帰ったら、ユウトに会えるのが一番のモチベーションだったクライ」 「……それ、本気で言ってる?」 「もちろん、本気。ジョークじゃないヨ」 礼那は照れくさそうに視線を逸らしながらも、はっきりとそう言い切った。普段の陽気な態度の裏に、こんなにも真剣な想いが隠れていたことに、悠人は胸が熱くなるのを感じた。 「俺も、礼那のこと、ずっと気になってた。……その、いつも騒がしくて、目が離せないっていうか」 「それ、褒めてる? ディスってる?」 「褒めてるよ、ちゃんと」 素直に答えた悠人に、礼那は花が咲くように笑った。 「じゃあさ、今のって、プロポーズみたいなもの? コンフェッション、ってやつ?」 「そこまでは言ってない。でも、まあ、そういうことだと思う」 「オーケー、了解! じゃあ今日から、オフィシャルにカップルってことでファイナルアンサー?」 「言い方が独特すぎるけど、まあ、そういうこと」 苦笑いしながら頷く悠人に、礼那は満面の笑みでハイタッチを求めてきた。パチンと軽やかな音が食堂に響く。 「イエーイ! ユウト、これからよろしくネ!」 「うん。よろしく、礼那」 騒がしくも温かい、二人らしい始まり方だった。周りの生徒たちが何事かとこちらを見ていたが、二人はもう気にしていなかった。教室に戻る廊下でも、礼那はずっと上機嫌に「トゥデイ・イズ・ベリー・ハッピーデー!」と繰り返し、悠人はそれを笑いながら聞いていた。ミラクルな恋の始まりは、今日もどこかルー語まじりで、賑やかに続いていく。

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