芦名 雅 / 第4話

四日目

今日も吹雪だった。  窓の外は昨日と何も変わらない。 いや、本当は変わっているのかもしれない。 雪は降り続けているのだから、景色も少しずつ変わっているはずだ。 ただ、それを確かめる術がない。 今日も外へ出ることは諦めた。 昨日、食料を数え終えた。 水の心配もしばらくはない。 やることが思いつかなかったので、今日は自分について調べることにした。 まずは着ている服を脱いで広げてみる。 厚手の上着。 丈夫そうなズボン。 肌着。 靴下。 どれも見慣れたような、初めて見るような、不思議な感覚だった。 ポケットを調べてみた。 何も入っていない。 もう一度確認した。 やはり何もない。 紙切れ一枚くらい入っていてもよさそうなものだが、本当に空だった。 着替えも調べた。 寝室には同じような服が何着か置かれていた。 どれも私の身体にちょうど合う。 試しに別の服を着てみても、袖の長さも肩幅もぴったりだった。 私のために用意されたように思える。 だが、それが私の物だという証拠はどこにもなかった。 名前も書かれていない。 持ち主を示すものは何もない。 服をしまい、今度は自分の身体を眺めてみた。 手には少しだけ固くなっている部分があった。 何かを長く握っていたのだろうか。 仕事のせいか。 趣味か。 思い出せない。 腕や足には小さな傷跡がいくつか残っていた。 どれも古いものらしく、痛みはない。 鏡の前に立った。 見慣れない顔がこちらを見返している。 年齢は二十代くらいだろうか。 髪は少し伸びている。 髭も少し生えてきた。 この顔を見ても、何も思い出せなかった。 不思議なものだ。 私はこの顔で何十年も生きてきたはずなのに、初めて見る他人のようにしか思えない。 少し考えた。 私はどんな人間だったのだろう。 会社員だったのかもしれない。 職人だったのかもしれない。 山へ登るのが好きだったのかもしれない。 どれもしっくりこない。 だからといって、違うとも言えない。 何も分からない。 それが一番困る。 今日で四日目になる。 日記を書き始めてから四日。 この四日間で分かったことは、自分が誰なのかではなく、自分が何も分からないということだけだった。 それでも、書くことだけは続けようと思う。 少なくとも、このノートには四日前の私が残っている。 明日の私は、今日の私を忘れていないはずだ。 それだけが、今の私に残された唯一の安心だった。 いつか私が私を思い出すことが出来ればこの吹雪め、この山荘も違ったものに見えて写るのだろうか?

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