芦名 雅 / 第7話

七日目

昨夜も眠ることはほとんどできなかった。 何度も目を覚まえ、そのたびに扉の前へ置いた机を見た。 朝になっても机は動いていなかった。 鍵も掛かったままだ。 少なくとも、私の部屋へ誰かが入った形跡はない。 暖炉の火は今日も燃え続けている。 外では相変わらず吹雪が荒れ狂っていた。 残っている食料で簡単に朝食を済ませた。 昨日数えた食料は減っていない。 誰かが夜の間に持ち去ることはなかったようだ。 食事を終え、二階へ向かった。 昨日見つけた二つの部屋を確認するためだ。 どちらの部屋も昨日と変わらなかった。 床も。 壁も。 寝台も。 赤黒い血で染まっている。 死体はない。 乾く様子もない。 何も変わっていない。 それだけ確認して部屋を出た。 これ以上見ていても何も分からない。 私は一階へ戻ろうとした。 階段を下り切ったところで足が止まった。 リビングだった。 暖炉のある広間。 昨日まで何事もなかった場所だ。 床が血で染まっていた。 食卓も。 椅子も。 壁も。 血が飛び散り、赤黒く汚れている。 昨日まで私が座っていた椅子にも血が付いていた。 思わず後ずさる。 暖炉だけは変わらない。 炎だけが静かに燃えている。 私はしばらく動くことができなかった。 昨日まで、この広間だけは安全だと思っていた。 そうではなかった。 山荘そのものが、少しずつ何かに侵されている。 そう考えるしかなかった。 念のため、もう一度山荘の中をすべて調べた。 誰もいない。 窓も扉も内側から鍵が掛かっている。 床に雪や水は落ちていない。 地下の食料庫も空のままだ。 何も変わらない。 変わっているのは、血だけだ。 私は暖炉の前へ座った。 赤く染まった床の上で炎を見つめる。 この火は私を温めてくれる。 だが、それと同じ場所が血で汚れている。 安心できる場所は、もうどこにもない。 考えたくはなかった。 それでも思ってしまう。 この血は明日も増えるのだろうか。 もしそうなら、八日目には何が起こる。 九日目には。 十日目には。 その頃、私はまだ生きているのだろうか。 この山荘に残る方が危険なのかもしれない。 吹雪の中へ出れば死ぬ可能性は高い。 だが、このままここで待ち続ければ、もっと恐ろしい何かが待っている気がする。 まだ決心はつかない。 それでも、明日も異変が起きるようなら、この山荘を出ようと思う。 そう書き残しておく。

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