芦名 雅 / 第14話

二十一日目

今日は朝からエルフ様が部屋を訪ねて来られた。 神殿の外を案内したいとのことで、私はご一緒することになった。 王都へ来て初めて街へ出る。 昨日は余裕がなかったせいか気づかなかったが、本当に大きな街だった。 石畳の道がどこまでも続き、人々が絶え間なく行き交っている。 市場には見たことのない食べ物や品物が並び、とても賑やかだった。 エルフ様は街を歩きながら、この王都について様々なことを教えてくださった。 歴史のある建物。 昔から変わらない景色。 勇者たちが歩いたことのある場所。 私はその話を聞きながら街並みを眺めていた。 なんでも勇者様のパーティーは四人だったそうだ。 かつての戦士様の剣術、そして魔法使い様の魔法は、今でも語り継がれ、人々の日常に溶け込んでいるのだという。 平和な世界で名を残すこと。それが二人のいつもの口癖であり、願いだったとおっしゃっていた。 どうやら四人には、それぞれ叶えたい願いがあったらしい。 私は少し興味が湧いた。 エルフ様の願いは何なのか聞いてみたが、もうすぐ叶いますとだけおっしゃって、それ以上は教えていただけなかった。 それでは勇者様はどんな願いだったのか尋ねてみた。 エルフ様はしばらく考えている様子だった。 それから静かに、 きっと大切な方と、もう一度お会いしたかったのでしょう と続けられた。 その願いはかなったのか聞いてみた。 エルフ様は少しだけ目を細め、 そうだとどんなに良いことでしょうか とだけおっしゃった。 途中、甘いお菓子をご馳走になった。 名前は忘れてしまったが、とても美味しかった。 市場では多くの人がエルフ様へ声をかけていた。 子どもたちまで笑顔で駆け寄って来る。 誰からも慕われている方なのだろう。 その様子を見ていると、私まで嬉しい気持ちになった。 昼過ぎには王都を見渡せる高台へ連れて行っていただいた。 街全体を一望できる、とても景色の良い場所だった。 遠くには山々が連なっている。 あの吹雪の山も、あの中のどこかにあるのだろうか。 そう思って眺めていると、エルフ様もしばらく同じ方角を見つめておられた。 その横顔はどこか寂しそうにも見えた。 夕方になるまで王都を歩き回った。 事件も起きなければ、不思議な出来事もない。 ただ街を歩き、美味しいものを食べ、景色を眺めただけの一日だった。 それでも、この世界へ来てから一番穏やかな一日だったような気がする。 日が暮れる頃、神殿まで送っていただいた。 別れ際、エルフ様は静かに告げられた。 「今日はとても楽しかったです ありがとう」 その言葉が妙に心へ残った。 まるで別れの言葉のように聞こえたからだ。 私はその意味を尋ねた。 だが、夕日に照らされたエルフ様は、何も答えず、ただ優しく微笑んでいるだけだった。

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