清涼院良水(@kuutei) / 第36話

第24話 最強の中身

「結城くんね」 栞は、奏多の名前が書かれたノートを開いた。 「最初からちょっと面白いよー」 「……面白い?」 栞が楽しそうにページをめくる。 そこに書かれていたのは、奏多が初めて大会に出た時の記録だった。 「まず、これ」 栞が指差す。 スキル使用――0。 スペシャル使用――0。 対応力――あり。 「……。」 奏多は黙ってその文字を追った。 そして、その少し下。 「アプリ名――最強」 「……。」 奏多の目が止まった。 ゆっくりと栞を見る。 「……見てたの?」 「見てたよ?」 当たり前のように返される。 「最強?」 少し離れたところから声がした。 篠宮が二人の方を見ている。 「あ、あれはその……」 奏多は慌てて手を振った。 「ちょっと、舞い上がっちゃって……」 栞が、ふふっと笑う。 篠宮は少しだけ楽しそうにして、また自分の作業へ戻っていった。 「もういいでしょ……」 「ふふっ。あとね、これ」 栞が別の一文を指差した。 『ブレードは理想速度が出てる模様』 「……理想速度?」 「うん。最初の試合でブレード使ってたでしょ?」 「ああ……」 言われて、奏多は思い出す。 相手の攻撃に対応するために、大剣からブレードへ武器を変えた。 あの時は、そんなことを考えている余裕なんてなかった。 「見た感じだけど、理想速度が出てたと思う」 「そうなの?」 「うん」 「……なんとなく振ってただけだけど」 「なんとなく?」 栞が少し驚いた顔をする。 奏多は自分の手を見る。 速さを意識した覚えはない。 相手の武器を見て。 来る攻撃を見て。 ただ、振っただけだ。 「じゃあ、もっと速く振るようにしたら――」 「それはやめた方がいいよ」 すぐに栞が止めた。 「え?」 「理想速度って、一番速く振ればいいってことじゃないから」 栞は少し考えてから続ける。 「今より速くしようとか、焦って振ろうとすると、逆に崩れちゃうと思う」 「そうなんだ」 「たまたまでも出てたなら、今はそのままでいいんじゃないかな」 「……分かった」 意識しない方がいい。 そう言われると、少し変な感じがする。 けれど、なんとなく振ってできていたものを、わざわざ変える必要もないのだろう。 「そうだ」 栞が顔を上げた。 「最強、ちょっと見せて?」 「……その呼び方やめてよ」 「アプリの名前でしょ?」 「そうだけど……」 奏多はスマホを取り出した。 《最強》を開いて、栞に見せる。 「どれどれ……」 栞が設定を確認する。 「……あれ?」 「何?」 「スキルもスペシャルもデフォルトのままじゃん」 「うん」 「うんって……」 栞が顔を上げる。 奏多は少し間を置いてから聞いた。 「で……スキルって、どうやって使うの?」 「そこから!?」 栞の声が大きくなった。 「だって、使ったことないし」 「そうだけど……ちゃんと教えてあげたらよかったね……」 栞は自分のグリップを手に取った。 「じゃあ!まず使い方からね」 「うん」 「ここにダイヤルがあるでしょ?」 栞が指で回してみせる。 「これを回して、使いたいスキルを選ぶの」 奏多も自分のグリップを手に取り、ダイヤルを回した。 カチ。 表示が切り替わる。 「選んだら、Cボタン」 「これ?」 「そう!」 奏多がCボタンの位置を確認する。 「今、何が選ばれてるかは?」 「グラスのUIに出てるよ」 言われて、奏多は表示を見る。 もう一度ダイヤルを回す。 カチ。 表示されているスキルが変わった。 「ほんとだ」 「あとね、グリップのどこが光ってるか見ても分かるよ」 奏多が手元を見る。 確かに、ダイヤルを回すたびに光る場所が変わっている。 「慣れたら、こっちで確認してもいいしね」 「なるほど……」 「それと、使いたくなってから選ぶんじゃなくて」 栞がダイヤルを回す。 「使いたくなる少し前から準備しておくのがポイント」 「少し前から?」 「うん。必要になってからダイヤル回して探してたら、その分遅くなるでしょ?」 「ああ……」 試合中のことを考えれば分かる。 相手は待ってくれない。 使いたい瞬間には、もう選び終わっていなければならない。 「それと、ダイヤルは登録した順番に回るから」 栞が今度はアプリの設定画面を見せる。 「コンボがあるなら、順番も考えて設定するといいよ」 「順番も?」 「うん。次に使いたいものがすぐ選べた方が楽でしょ?」 奏多は画面を見る。 どのスキルを入れるかだけではない。 どういう順番で使うのか。 いつ選んでおくのか。 そこまで考えて設定する。 「……スキル構成って、そういうところまで考えるんだ」 「そういうこと!」 森下と岡野の試合を見た時より、少しだけ意味が分かった気がした。 「じゃあ、スペシャルは?」 「スペシャル?」 「うん。使い方」 「ああ、それはね」 栞が真面目な顔になる。 「まず、手を挙げて」 「手を挙げて?」 「それから、技名を叫ぶの」 「……技名を?」 「うん」 奏多は少し考えた。 そういえば―― 「ふふっ」 栞が吹き出した。 「冗談だよ! 岡野くんのあれ、面白かったからつい」 「……。」 「ごめんごめん!」 「信じるところだった……」 岡野が実際に叫んでいたせいで、余計に信じかけた。 「スペシャルも同じだよ。ダイヤルで選んで、Cボタン!」 「なんだ……」 「なんだとは何よー」 栞は笑いながらグリップを置いた。 一通りの説明を聞いて、奏多も自分のグリップを机に置く。 操作方法は分かった。 けれど―― 「これ、実際の試合で使えるかな……」 ダイヤルを回して。 選んで。 必要になる前に準備して。 相手を見ながら、必要な瞬間に使う。 説明を聞くだけなら簡単だが、試合中にやるとなると話は違いそうだ。 「あ、それなら!」 栞がぱっと顔を上げた。 「明日から三日間、体育館使えるから」 「明日から?」 「うん!」 そういえばさきほど、篠宮に体育館の予定を聞かれていた。 「実践形式のスキルの練習、付き合うよ!」 「ほんと?」 「この前、練習相手になってって言ってたでしょ?」 「あ……」 森下と岡野の試合を見たあと。 いろいろなスキルを試してみたくなって、栞に頼んだのだった。 「お願い!」 「任せて!」 栞が嬉しそうに頷く。 「あ、それと――」 何かを思い出したように机へ向かう。 「これ!」 何枚かの紙を持って戻ってきた。 「使えそうなスキルの一覧!」 「おお……」 奏多が受け取る。 「こっちはスペシャルの!」 もう一枚、重ねられる。 奏多は並んだ名前をざっと眺めた。 知らないものがいくつもある。 「これで全部?」 「ううん。全部じゃないよ」 栞は首を振った。 「とりあえず、使えそうなのをまとめたやつ!」 「なるほど……」 奏多はもう一度、一覧を見る。 「明日までに、使ってみたいの考えといて!」 「分かった」 スキル。 スペシャル。 今まで知らないまま、ほとんど使わずに戦っていたもの。 それを使えば、自分の戦い方はどう変わるのだろう。 奏多はしばらく、手渡された一覧を眺めていた。

運営おすすめ

週間ランキング

全ランキング

反応スコアランキング

もっと見る

PV・ブックマークランキング

もっと見る

更新された連載作品

すべて見る
読み込み中…

新着短編

すべて見る
読み込み中…

作品一覧

読み込み中…

作品ダッシュボード

作品全体の公開状況と、読者からの反応をひと目で確認できます。

作品パフォーマンス

選択期間のPVが多い順

上位5作品
ライブラリ

作品の公開状況と構成

最近の更新

最後に編集した作品

要チェック

公開前に確認したい項目

プレビュー
読者に表示される見た目

表示設定

文字サイズ
100%
背景色
縦書き表示
リッチモード
目次
読み込み中…

キーワードを入力して作品を探しましょう

アクセス解析
アクセス解析データは 5分おき に自動更新されます
読み込み中…
ランクイン記録
通知
通知はありません
地形ブラシ
25
スタンプ
ツール
装飾
表示
100%

世界地図

100%

REACTION SCORE

反応スコアの内訳