清涼院良水(@kuutei) / 第35話

第23話 マネージャー

 放課後。  奏多がスマホ部の部室へ入ると、いつもと少し違う光景が目に入った。 「こんにちは」  何人かの部員が適当に返事をする。  その中で、栞だけは机に貸し出し用の器具を並べていた。  ARグラスをクロスで丁寧に拭き、光にかざして確認している。 「七瀬さん、何してるの?」 「貸し出しの器具のメンテ!」  栞はそう言うと、別の器具を手に取った。 「綺麗に拭いたり、ちゃんと充電できてるか見たりするの」 「こういうのも七瀬さんがやってるんだ」 「うん! マネージャーだからね!」  少し得意げに笑う。  確認を終えた器具を片付けると、今度は掃除道具を取り出した。  奏多がその動きを目で追う。 「……まだあるの?」 「次はお掃除!」  栞はそのまま部室を掃除し始めた。  少し見ていた奏多も、やがて近くの机に手をかける。 「手伝おうか?」 「ほんと?」  栞の顔が明るくなる。 「じゃあ、そっちお願い!」 「うん」  二人で掃除を始める。 「あ、それ終わったらこっちもお願いー」 「こっち?」 「そうそう!」  机を拭き、棚を整え、少し動かしたものを元に戻す。  特別なことは何もない。  けれど、こうして部室で一緒に作業していると、本当に部活にいるんだなと奏多は少しだけ思った。  しばらくして、掃除がひと段落する。 「ありがとー! 助かった!」 「こんなところかな」 「うん!」  奏多が一息つく。  ところが、栞は休む間もなくスマホを取り出した。 「……?」  奏多が見る。 「今度は何してるの?」 「近くの大会チェック!」 「大会?」 「うん。みんなが出られそうなのがあったら教えるの」  栞は画面を見ながら、いくつかの情報を確認していく。 「あとはアップデートの情報とか」  少しスクロールする。 「サーバーメンテナンスの予定とか!」 「大事なのがあったら、みんなに知らせるよ」 「……結構いろいろあるんだね」 「まだあるよ!」 「まだあるの?」  奏多が少し驚いた、そのとき。 「七瀬、今週の体育館どうなってる?」  篠宮が部室へ顔を出した。 「あ、水曜から金曜まで使えますよ!」 「了解」  短いやり取りを終え、篠宮はまた別の方へ向かう。  栞が奏多を見る。 「体育館の予定とか、練習試合の管理も先生と一緒にやってるの」 「へぇ……」 「あと、大会に出た記録とか、ランキングも!」  栞は別の記録を取り出した。  奏多が横から覗く。  部員たちの名前が並んでいる。  その中で、一つの名前に目が止まった。 「……あれ、この名前」 「ん?」  栞が覗き込む。 「あぁ! 生徒会長だよ!」 「生徒会長?」 「うん!」  栞は何でもないことのように続けた。 「副会長の白石さんも兼任でスマホ部のメンバーだよ!」 「そうなの?」 「二人とも忙しい人たちだから……」  栞が少し考える。 「結城くん、まだ会ってなかったっけ?」 「うん」 「そっかー」  奏多はもう一度記録を見る。  桐生玲奈。  名前だけは知っていた。  けれど、まさか同じ部活の人だったとは思わなかった。  そのまま視線をずらした奏多が、近くに置かれている別のノートに気づく。 「これは?」 「あ、それは選手ノート!」 「選手ノート?」  栞は少し嬉しそうに一冊を開いた。  中には、部員ごとに試合内容や使った構成などが細かく書き込まれている。  奏多も興味を持って覗き込む。  ページをめくっていると、知らない名前が出てきた。 「この人も部員?」 「ううん、他の学校の人!」 「他の学校?」 「大会見に行ったときに、気になった選手とか書いてるの!」  奏多はノートの量を見る。 「……こんなに」 「試合見るの好きだからね!」  奏多は少し考える。 「これもマネージャーの仕事?」 「…………」  栞が一瞬だけ止まった。  そして、にっこり笑う。 「これは趣味も入ってる!」 「そうなんだ……」 「うん!」  あっさり認めた。  その様子を見て、奏多も少しだけ笑う。 「七瀬さん、本当にスマホ好きなんだね」 「うん!」  栞はそう答えてから、何気なく続けた。 「お母さんも開発に関わってるんだー」 「……え?」  奏多が栞を見る。 「スマホの?」 「うん!」 「そうなんだ……」  栞は少しだけ嬉しそうに話し始めた。 「お母さんはね」  奏多が聞く。 「あんまり運動に自信がない子でも、楽しく動き回れるスポーツを目指してるんだって」 「へぇ……」  奏多は素直に感心した。  すると栞が、何かを思い出したように顔を上げる。 「あ、そうだ!」 「?」 「お母さん、結城くんがスマホ始めたの喜んでたよー!」 「僕?」 「うん!」  栞は笑いながら続ける。 「お父さんのお手伝いも偉いけど、みんなに高校生の頃しかできないことしてほしいって」 「……そっか」  奏多は少し意外そうに答えた。  自分の知らないところで、そんなふうに思ってくれている人がいたらしい。  栞がにこっと笑う。  奏多も少し考えて――ふと、別のことに気づいた。 「……じゃあ、この前のカカシキーホルダー」 「ん?」 「お母さんに言えば貰えたんじゃないの?」 「無理無理!」  栞は即答した。 「お母さん、そういう不正みたいなのすごく厳しいの!」 「そうなんだ……」 「初参加の人だけなんだから、私は貰えないの!」  なるほど、と奏多は頷く。  だからあれだけ欲しがっていたのか。  栞は選手ノートを片付け始める。  奏多はその手元を見ながら、ふと聞いた。 「……僕のもあるの?」 「あるよ!」 「いつから?」 「入部体験のときから!」 「そんな前から……」  栞は何冊かあるノートの中から、一冊を取り出した。  奏多の名前が書かれている。 「……何が書いてあるの?」 「んー?」  栞はページを開く。  最初の方を見て、少し楽しそうに笑った。 「結城くんね」 「?」  栞は奏多を見る。 「最初からちょっと面白いよー」 「……面白い?」

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