鯣烏賊 / 第55話

凍峰に沈む街にて その14

俺は大急ぎでその場を離れ、近くの建物の窓ガラスを蹴破って中に入る。 氷蛇に視点を向けると先程はよく分かっていなかったレーザーブレスの動作がよく見える。 背中や尻尾、脚のの大甲殻が大きく開き、全身の鱗が逆立っている。 口からはブレスが吐かれているが、そのブレスに使われなかった冷気がその甲殻や鱗の隙間からヒョコォォォ....................と吹き出ている。 周りの空気は凍りつき、氷蛇の周辺の空気だけが白く染まってゆくようにも見える。 «ベロキ!!大丈夫か!!» 「うん....................なんとかね」 «前に撃たせてしまったな...................» 「そうだね、でも。」 あの時の感覚は正しかった。 あんなものビームに被弾してしまったら凍らされるどころか、体を削り取られる。 イメージとしてはヤスリやサンドブラストに近いと言える。 氷の結晶が冷気と共に凄まじい勢いで吹き出され、障壁を削り飛ばすのがよく見える。 「....................ディラン君。この勝負勝ったかもしれない。」 «急にどうしたんだ?» ........................................大事なところはレーザーブレスじゃない。 俺が感じたあること....................それが本当に起こっているならば、それはかなりのアドバンテージになる。 俺は確かめるために建物から少し身を乗り出し、地上を見るために下に目を向け........................................。 「いよっしゃあーーー!!!」 雄叫びをあげた。 やっぱりそうだ。 あいつはブレスを吐く瞬間、全身から「冷気」を発する。 その冷気は足の大甲殻からも出ている! 「ディラン君、下、下!!」 «なるほど....................ベロキ、いいことを思いついた。ユリが来れるまで時間稼ぎをしてくれないか?» 「了解........................................"タランチュラ"!」 水を冷やすと何になる?という問いには「氷」と答えることになる。 氷蛇の足の大甲殻から放出された冷気は周りの水を急速冷凍してゆく。 そしてその足は水に浸かっているから、周りの水が凍るということは....................。 やつの足場が凍るということだ。 «偶然とはいえ拘束できたな» 「そうだね」 俺は蹴破った窓ガラスがあった場所から外に飛び出し、建物を渡りついで氷蛇へと向かう。 氷蛇は足に力を込めて、足にまとわりついている氷を剥がそうとしている。 時々うめき声のような鳴き声をあげ、体を頑張って振動させて脱出を試みている。 正直この拘束ごときで氷蛇が止まるとは思えない。 ディラン君。 「あるんだよね?何か....................。」 氷蛇の前で横を向くと、口から余りものの冷気を吐き出している氷蛇の顔が見える。 一瞬目が合ったように見えたけど、俺はすぐに「縄」を使って下に降りるので、氷蛇は俺のことを見失ったようでキョロキョロとしている。 「さぁて、と。 今に驚かせてやる..............................まあ、ユリさんが来るまでの時間稼ぎでしかないけどさ!」 左腕に手をかけ、「鍵《シュリュッセル》」のダイヤルを回す。 そして、今まであまり使ったこともない機能を選択。 位置は「滑《スケート》」のとなり。 その機能起動し数秒で腕に針が刺さったことを確認。 機能を行使するために俺の体内へコスモが注入される。 体にいつもとは違う異質な感覚が回ってゆき、手のひらにコスモのリングのようなものが生成される。 そしてリングの中心にキューブのようなものが形つけられ...............................。 「.............................."爆《ボンベ》"」 「爆《ボンベ》」。 操作して爆発する不可視の爆弾を取り付ける能力。 ただそれだけなんだけど....................これがまぁ、結構、ややこしい。 一度に取り付けられる数の制限は25個。 1個1個での設置以外にも、いくつかの爆弾を個数選択し、圧縮して設置することもできる。 これを「爆《ボンベ》」をまとめるという。 俺はあまり使ったことがない機能だけど..............................使ってみればとても便利なものだった。 実技試験の練習のときにそれはそれはお世話になったよありがとう....................。 地面に穴を開けて逃げ道を確保したり。 攻撃に利用したり。 罠に使ったり。 まあ、今回はちょっと違った使い方だけど。 「個数選択:5」 俺は「縄」を使って下に降りながら氷蛇の胴体に手を当て、ちょうど首と胴体の付け根にあたるところに爆弾を置く。 手からキューブが離れ、バクテリオファージのような形で針を作って、氷蛇の体に刺さる。 前を見ると、街の中心部にふさわしい、軽く40階はありそうな高層ビルがある。 「縄」を向こう側のビルにくっつけてさらに奥に進み、そのビルにも.................... 「個数選択:20」 爆弾を設置する。 縄でまた別の場所........................................具体的には氷蛇の視界には簡単に入らないような位置まで行き、周りを見渡す。 ここなら巻き込まれないだろう。 俺は設置箇所から離れて身の安全を確保し、爆弾を起爆する。 まとめた爆弾はまとめた個数の数に比例して威力が上ってゆく。 爆弾をまとめることには手間を省くこと以外にももうひとつ、いい事がある。 それはすばり。広い範囲での爆破ではなく、一点集中の高火力を出せることだ。 爆弾で広い範囲を爆破しても効果が得られないことは結構ある。 たとえば、極端に硬いものを壊す時....................動いている敵にピンポイントでダメージを与えたい時....................そして今回のように大きいものを壊したい場合だ。 「練習通りやるから巻き込まれないでねー!」 «了解した» «わかった!» 「"|爆ぜろ《boom!!》"」 俺の合図で、爆弾が爆ぜる。 ひとつめの爆発は氷蛇の首根っこで。 もうひとつめの爆発はさっき俺の触れた高層の建物で。 自分の体の一部が爆破された氷蛇は、そこに視線を向けるためにその長い首をぐにゃりと曲げて下を見る。 どうせやつにとっては大した痛みじゃない。 やつは数秒て首を上げてまた攻撃をはじめる。 そう。数秒。 図体はデカイくせに素早く、当たったら間違いなくあの世行きの攻撃を繰り返し繰り出す氷蛇。 そんな氷蛇だからこそ。 「欲しかったのはその数秒だ!!」 俺の経験に基づいて、構造上の弱点を集中的に爆発破壊された高層ビルはすでにグラりと傾き、氷蛇の方向へ向け倒れていく。 そして、耳を裂くほどの爆音とともに崩れさり、氷蛇を瓦礫が覆った。 試験終了まで..............................水爆の落下まで、のこり2時間。

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