鯣烏賊 / 第47話

凍峰に沈む街にて その6

「ディラン君、とっても悪いお知らせがあります。」 俺は足場として近くにあった道路標識を蹴る。 「....................いいお知らせはないのか?」 「残念!そんなものはないよ。」 「........................................そうか。」 ディラン君は足場として壁を蹴る。 俺も「守(ガード)」で作った足場を空中で蹴る。 俺たちは周りよりも少し高い場所にある建物に到着する。 その屋上に立つと、街並みがよく見えるのだ。 さっきは時間が無くて街を見渡せなかったが、今ならよくわかる。 大体2000メートル四方くらいの街だ。 四角形の川...................貯水池...................?みたいなので囲われている。 正直に言うと、範囲はそこまで広くない。 「速(ラピッド)」を使って全力で駆け抜ければ、数分で1周出来てしまうくらいの広さだ。 今俺たちがいる建物..............................俗に言うマンションなんかより高い建物は数えるくらいしか見当たらないし、なんなら四角形の川で区切られた街の外側には森と山が広がっている。 この間までの練習に使ってきたマップにはこんなものは見当たらなかったから、この試験専用に作られたものだと思うんだよね。多分。 俺たちがちょうど振り向いた方角の山には、ちょっとした土煙を立てながらのっしのっしと歩いてくる生き物が見える。 大きさは..............................パッと見ただけだとめちゃくちゃ大きく見える。 「流石にこの距離だと大きさは分からないかなあ........................................。」 人間の身長を見分けられる俺だが、あれはあくまで相対的なもの。 建物と比べられたりしたらいいんだけど、アイツがいるのは山だ。 木があったりするとはいえ..............................それは比較対象にしにくい。 「....................ベロキ。今思い出したんだが。」 「なに?」 「あいつは10数年前にアイスランドに現れた怪獣だ。当時のアイスランドには過去の遺物レガシーウエポンはおろか固有武装オンリーウエポンすらなかったから討伐には至らず........................................俺の記憶が正しければ、水素爆弾で沈静化された。」 「それが何だって?」 「分からないのか....................。 いいか?この試験が当時の出来事の筋書きに沿っているとしたら..............................モタモタと時間をかければ水素爆弾で俺たち含めて大勢死んで条件達成は不可能になるぞ。チェックメイトだ。」 「あ..................................................確かに。」 「では、それを踏まえて例の悪いお知らせを聞こうか。 手短に頼むぞ。」 うーん..............................。 そんなこと言われたら言うのが申し訳なくなっちゃうなぁ..............................でも。 バグはバグだ。 バグは仕方ない! 俺は悪くない! よし。 勇気と度胸とその他諸々を持つんだ! レッツゴーベロキ! 「端的に言うと........................................改造した「鍵《シュリュッセル》」機能の並行使用ができないんだ。」 「は?」 「さらに言うと「排撃《リジェクト》」も使えない。」 「おいおい..............................勘弁してくれ。」 説明しよう。 今俺たちにはふたつのイレギュラーが降り掛かっている。 練習を重ねる中、ディラン君の持つ過去の遺物レガシーウエポンはとてつもない破壊力を秘めていることがわかった。 人生で始めて見る過去の遺物レガシーウエポンだから驚きはしたけど、これを活かさないわけはない。 というわけで、元々の俺たちの作戦はそのディラン君の攻撃力を活かした戦い方だった。 ただ、ディラン君が十分に戦うにはそれなりの「隙」が必要だ。 そのために使われたのが俺の「排撃《リジェクト》」。 ユリさんと鍵シュリュッセルの「強《ブースト》」による威力強化を重ねた「排撃《リジェクト》」なら、一発屋であるとはいえディラン君の「|闘いを求む拳《ヘラクレス》」と並ぶ威力が出せる、と予想される。 俺たち推薦受験者に難易度の高いの試験..............................その中でも「討伐」が課せられることは分かりきっていた。 だからこそ「排撃《リジェクト》」が重要な存在を担っていたのだが............................。 バグを外部から直してもらう手もあるが、試験を止めることは制度上不可能らしい。 そんな状態で複雑な「固有武装《オンリーウエポン》」のバグ処理をしてもらう..............................はっきり言って現実的じゃない。 俺のアバターだけ処理が遅れそうだ。 これがイレギュラーひとつめ。 そして........................................。 「その上での超大型か..............................。」 イレギュラーふたつめ。 まず、超大型について説明しておくと、「全長100m、全高40m以上の大きさを持つ怪獣の総称」だ。 まあこの定義はあんまり重要視されていないから、これに当てはまらない超大型もいるらしいが............................まあ、そんなことはどうでもよい。 つまり、今回俺たちが相手する怪獣は最低でもこの大きさを持っていることになる。 当たり前だけど、体が大きいと言うことは、その分タフであり、当然馬力も強いと思われるわけで....................。 そして大抵の怪獣はただ筋力で戦ってくるのではなくて、何かしら特殊な能力を持っている場合がほとんどだ。 俺たちはその能力も紐解きながら戦わなければならない。本来はね。 だが、今回の場合はディラン君があの怪獣を知っているらしい。 ちょっとズルいように思えるけど、利用しない手はない。 「アイランゲェ..............................名前が呼びにくいから氷蛇とか言われていた怪獣だ。 能力は確か、「極低温の気体を生み出す」だったな。」 「つまり氷かぁ....................。」 「そういうことだ。 ベロキ。バグはバグだ仕方ない。 だからこそやれる事をやるぞ。 当然、氷を使うからこその弱点もいくらか思い当たるからな。」 「オーケー。」 氷だからこその弱点かぁ....................。 俺もいくらかなら思いつくね。 ただ、不安なところとしては、相手の能力の規模だ。 どの程度の規模で攻撃してくるのか..............................。 そもそも素のパワーはどの程度なのか..............................。 うーん。 「ベロキ。」 「なに?」 「諸々は一旦闘った後で考えよう。先行け。」 「了解!」 俺は屋上から飛び降り、「衝《ストライク》」を足に使って壁を蹴る。 衝撃が発散され、その反発で俺は推進力を持って前に進む。 ダイヤルを回して「速《ラピュタ》」を起動し、さらに移動を続ける。 1歩目、2歩目、3歩目、4歩目..............................。 「5歩目!!!!」 「速《ラピッド》」は5歩目に到達すれば、機能を解除するまで永続的に速度に強化がかかり続ける。 多分今の俺なら、特急列車くらいの速度が出ているだろう。 「いよっしゃああああああああ!!!!!」 みんなには申し訳ないけど、使えないものは仕方ない。 だからこそ、今できることを全部やるんだ。 .......................................................ん、待てよ? 「........................................来たのか。」 「んな苦虫を噛み潰したような顔すんじゃあねえよ..............................。」 「レスパから聞ける限り聞いてきたが..............................来なければよかったのにな。」 「ひっでえな。もう少しフレンドリーに行こうぜ? なぁ..........?..................................................トケラよぉ。」

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