鯣烏賊 / 第49話

凍峰に沈む街にて その8

俺はディラン君に急ぎで通話を繋げる。 「ごっめーん!!!!!」 やばいやばいやばいやばい! もうすぐ後ろに.......... 「連れて来ちゃったーーーーッ!!!!!!」 «大丈夫だ。» へ、大丈夫? そんなことを言われても咄嗟に進行方向は変えられないし、変えても意味なんてない..............................なーんて、そんなことはない。 もともと、大型が相手だった時のための練習くらいはしている。 この仮想空間のマップは、ひとつひとつは違えど、それぞれのマップに多少の共通点が設けられている。 街マップの場合はね。森とか洞窟だったら色々違ってくる。 話を戻して大きな共通点をいくつか挙げると、「街の中央の高い建物」「地下の避難シェルター」そして「街の周りにあるバリケード」だ。 このマップにおける高い建物は、中央部にあるデパート、シェルターはもちろんある(NPCの人間が話してた)。 そしてバリケードは、街を四角形で覆うように設置されている堤防と用水路だ。 雑で脆くて簡素な作りだけど、「バリケードがある」ことを俺たちが認識出来ればそれだけで存在意義があるというもの。 そして大型怪獣はほとんど例外なく「マップの街の外から出現する」。 その直線上に罠を設置してもらう手はずだ。 と、いう訳で直進! 縄を建物に貼り付け、進む。 さっきまでは高い木や氷蛇ヒョウダ本体に縄を貼り付けて逃げていたが、ついに建物に到達した。と、いうことは。 俺と氷蛇はもうすぐこの街の中に入ることになるというわけで。 お、見た感じ一般の人がいないように見える。 誰かが誘導してくれたのか........................................それともNPCの人間が言ってた「シェルター」とに行ったのか? 俺たちにとってはどちらにしろ好都合。 「ベロキ、氷蛇連れて街に入りまーす!」 «了解。» よし、大丈夫の言葉を信じて直進! 縄を大きく伸ばし、川の向こうにある雑居ビルみたいな建物に貼り付ける。 距離がかなり長いので、伸ばした縄を急スピードで収納していき、俺の体を街の方へと持っていく。 「ふー....................さっむ」 氷蛇は川に足を踏み入れたが、体が大きすぎて川の水深程度では動きを制限されることがないらしい。 大きさで換算すると、人間と足湯くらいの大小関係に見える。 などと壁に捕まって氷蛇の様子を観察していると、ユリさんから手短に連絡が入った。 «もっと奥まで行って» じゃあ罠はここら辺にあるということか。 つまり巻き込まれた場合、俺は死の世界に召されることになる。 避難しないと。 俺は今いる場所よりももう少し奥の辺りに位置している建物に素早く移ろうとする。 建物間を移動している時に、空中に罠が設置されているのを見つけたので、その罠を通り抜けて、罠の位置よりも奥に向かう。 さっきのビルよりは高さが低い建物の屋上に到着する。 後ろを見ると、氷蛇はもう堤防を乗り越えて街に侵入してくる直前だった。 堤防を越え、小さな洪水のようなものを起こしながら街に侵入してくる氷蛇。 吐く吐息が白く染っていて、体の甲殻の隙間からプシュー、プシュー、プシューと冷気が漏れ出ている。 やつが通ってきた芝生の道は雪が降ったみたいに凍りついていて、能力の強力さをものがたっている。 そして多分、まだあいつは本気で能力を使ってきていない。 ディラン君がいろいろ知っているだろうから、その都度彼に質問しながら戦うことになりそうだ。 いよいよ氷蛇は堤防を乗り越え、街に侵入してきた。 コンクリートを踏み砕きながら、殺意のこもった目で俺を追ってくる。 オーケー、オーケー。そのままおいで。 だってお前は俺が通ってきた道を追ってくるだろ?そうに違いない。 高めの建物が両側に壁みたいに設置されているその道。 でもその道にはあるんだよなぁ....................。 ユリさんが手塩にかけて(?)作ってくれた罠がね!! «罠を起動します! ..............................3..............................2..............................1!....................ファイヤー!» 「吹っ飛べー!」 周りの建物に張り付いていた火薬系武装「不定形爆薬《フリーニトロ》」が着火される。 まあ着火と言ってもコスモを過度に活性化させるだけだから火はつかないから火事は起こらない訳だけど..............................大事なのはそこじゃない。 火を伴わずに起こる爆発だ。 もちろん訓練の段階で氷蛇を相手取るだなんて考えすらしなかったけど、図らずとも相性抜群である。 近くを飛び跳ねているだけで寒気を感じるアイツだ。 炎なら無効化される可能性がある。 けど炎を使わない純粋な「破裂」..................................................それなら多分。 「ギャオオオオオーン!」 「かかった!」 «よし!伸びろタランチュラ!!» タランチュラは、種と呼ばれる基礎部品を設置しておくことで、遠隔起動することができる。 爆発に紛れて、ビルに大量に設置されていた縄の種が一斉に起動される。 俺も、ちゃっかり縄を起動させて加勢する。 大量の縄が、氷蛇(ほとんど竜やトカゲに近い外見だけど)を取り巻く。 首、手足、胴体を、尻尾を、がんじがらめに巻き付かせて拘束する。 氷蛇は悶えて抗っているけれど、この縄はユリさんの特異体質、「譲渡性」によってかなりの強化を受けている。 ちょっとやそっとの衝撃じゃ千切れもしないはずだ。 それにしても。 「重った..............................」 俺も向かい側の建物から縄タランチュラを伸ばし、氷蛇の口をさるぐつわのようにして拘束する。 首やら胴体やら尻尾やらをめちゃくちゃに動かすので、こうやって抑えているだけで投げ飛ばされそうになってしまう。 後ろにある柱にも縄をつけて、それを俺と接続してなんとか吹き飛ばしの衝撃から身を守る。 その時だった。 氷蛇が一瞬、身震いした後、真っ白い煙が身体中から放たれる。 その煙はほんの数秒で消えたのだが。 「あれ..............................?」 手応えが消えた。 厳密に言えば、縄が、割れた。 一生懸命に引っ張って口を閉じていた俺の縄が、パキリと折れていた。 俺の縄だけじゃない。 種から伸びていた大量の縄も割れている。 体を拘束していた邪魔な物体がパキンパキンと割れて消滅したことで、氷蛇はテンションが上がったらしく、大声で叫びあげた。 「うわぁ....................なんだよあの殺意のこもった目..............................。」 縄の拘束から解放されたことで自由を得た氷蛇は、俺のいる建物に向かって突進してきた。 「あっぶなぁぁぁぁっ!!!!」 突進に反応して即座に「速《ラピッド》」を起動し、危険から逃れる。 足場にしていた屋上の角から跳躍し、別の場所に移ろうとする。 後ろを見ると、氷蛇が首ごとビルに突っ込んでいる。 空いた穴からパソコンやら何やらが飛び出ている。 ひとまず、空中に逃げることに成功した。 だが、まだ飛んだだけ。すなわち1歩目。 「速(ラピッド)」は歩数を重ねる毎に速さが増していく。 そしてこの機能は2歩目以降から効果をもたらす。 つまり、まだ速さの力が載っていない。 速さは重さ。 この歩数じゃ人間離れした跳躍は出来ていない。 ほんの1メートル数十センチ飛んだだけだ。 プッシュゥゥゥゥゥ.............................. 氷蛇が身震いし、甲殻や鱗の、口や目や鼻から煙が姿を見せ始める。 近づいているとわかる。 この煙はとんでもなく冷たい。 ほんの数秒触れただけでも低温やけどを起こしてしまいそうなくらいに。 これはやばい。 「あぁ、衝《ストライク》にしておくべきだった..............................」 (間に合えミラーシールドッ..............................) だけれど、ミラーシールドを俺の体に張るよりも、氷蛇の蒸気噴射の方が速い。 低温やけど程度のケガならすぐに治る。 俺はある程度のダメージを覚悟して守りを固める。 目を閉じ、極低音の寒波に備えた。 しかし、寒波は来なかった。 「予想外の事態だ、仕方がない。 .....................................ここで戦うぞ!!」 氷蛇首が大きくビルにめり込んでいる。 ディラン君の蹴りが、炸裂したようだ。
ミラーシールド 盾系の武装で最もコスモ消費が少ない。 受けた衝撃を「受け流す」ことで攻撃を回避する。 上手く使えば跳ね返すように防御して相手にダメージを与えることも出来る。 平均的なコスモ耐性でも問題なく使えるので、最も使用人口が多い。 とても薄く、伸ばすことができる。 鏡幕の面積に比例して強度が下がっていくその性質上、本来なら一点特化の防御が推奨される。

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