鯣烏賊 / 第152話
断崖絶壁の層:シティバレー その15
シティバレーから直通のエレベーター出口には、たくさんの人が群がっていた。
出口から100メートルくらい向こうに行けば、そこはサンライズバレーである。
ここからでも、 機械的で現代的な、整序された街並みが広がっているのが見える。
良い意味でも悪い意味でも、シティバレーとは対極にあるような存在と言えるかもしれない。
この出口広場のようなところは、稼ぎ場所でもあるんだろう。
ずいぶんと金にうるさそうな雰囲気の寂れた飲食店や休憩所が乱立していた。
わざと客が均等になるように斡旋しているように見えるおっさんもいるし。
法律的に大丈夫なんだろうか、こういうの。
まあ、俺たちはそんなものに用はない。
ここにリンさんをよこすから彼女と合流しろと、ブルーさんからの連絡がされている。
だから、どこかにいるはずだ。
どこかに....................。
「ああ、いた。」
ビッグサイズのホットドッグを片手に、口へコーラを流し込んでいる赤髪の女の人が、あそこのベンチに座っている。
豪雨の中だというのに、よくもまあ、あんなに持ち運びにくいものを買ったものだ。
あのホットドッグ、俺の指先から肘あたりくらいまでの長さがあるんじゃないだろうか。
ひとまず、彼女と合流だ。
俺は後ろの3人を扇動し、彼女へ接近した。
「やあ。」
「むっ?
....................もごっ、もぐもぐ、ぐもぐも。」
ちょうど、口いっぱいにホットドッグを貪っていた直後だったらしい。
口を手で覆って、俺に"待て"の合図をしてくる。
きっと、飲み込むまでまともに喋ることができないのだろう。
数秒間、4人が固唾を飲んで見守った。
そしてリンさんは、若干の気まずさを感じたような顔でホットドッグを飲み込み、コーラをがぶ飲みする。
そして、俺に返事をした。
「おつかれさま。
なんか、久しぶりね。」
「まあ、1週間と何日か経っているからね。
....................このふたりが、例のふたりだ。」
俺はラフラさんとアプルちゃんを前に突き出し、ふたりに顔合わせをさせた。
ラフラさんはやや困っているようだったが、アプルちゃんはぺこりとお辞儀をした。
それを見たリンさんもお辞儀をし返し、アプルちゃんの頭をわしゃわしゃ撫でていた。
「あなたがラフラちゃん?」
「....................ええ、そうよ。」
「あたし、リン。
ふたりとも、よろしくね!」
まあ、ラフラさんも、リンさんとブルーさんのコミュニケーション能力に巻き込まれれば、数十分と経たないうちに仲良くなれるだろう。
彼女らは俺やペラルさんとは違い、そういうのが得意だからね。
そういえば彼女は、ペラルさんともまだ、やや距離を感じているように思える。
これを機に距離を縮めて欲しいものだ。
俺とは普通に喋ってくれるのは、なぜだろうか。
一緒に森へ入ったからだろうか。
彼女は森での生活を心の底から愛しているように思えるから、ありえそうだ。
「あなた、ハンターなんでしょ?
珍しいわね。
あたし、ハンターなんてひとりしか会ったことないわよ。」
「ちなみに、誰となの?」
「スピンさん。」
その名前を聞いたラフラさんは、少し驚いたような表情を見せた。
スピンという名は聞いたことがある。
たしか、フォーザッツさんが言っていた。
今年は来れないようだが、例年にはヒュドラの撃退戦に参加していたと。
おそらくは、そこでの面識なのだろう。
有名なひとなのだろうか。
ハンターという業界が狭すぎるせいなのか、俺はよく知らないのだが。
ひょっとして、トケラさんくらい権威のあるひとだったりするのだろうか。
「ぜひ、感想を教えてちょうだい!」
「え、うん。
けど、そんなに面白いものじゃないわよ?」
「構わないわ。」
「そう。
じゃあ、歩きながら話しましょう。」
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夜になって、どこかへ行っていたらしいブルーさんとパキケ君が戻ってきた。
連絡を受けた俺たちは、部屋から1階のロビーへと戻り、ふたりと合流した。
これにより、全員集合である。
アッセンブル!
元々は、メンバーの俺、リンさん、ペラルさん、パキケ君、ブルーさんの5人。
それらに、ラフラさんとアプルちゃんふたりを追加した、計7人である。
大所帯だ。
フレキシブルに部屋を増やすことができてよかった。
どうやら、もともと予定していた宿のランクからは、何段階か落ちてしまったようだったようだった。
楽しみにしていたアプルちゃんには申し訳がないが、命を狙われながら寝泊まりするわけにもいかない。
ふたりとも納得してくれていた。
だが、ブルーさんから、ご両親への説明だけは待ってほしいと言われている。
責任者である自分が同席すべきだと言っていたが、彼女の両親とは俺やペラルさんのほうが面識の多いはずなのだが....................。
まあ、すごく裏がありそうだが、仕方ない。
俺はその言いつけを守り、それをラフラさんにも伝えた。
すごく怪訝な目で見られたが、しぶしぶ納得してくれた。
アプルちゃんがなにかを口走りそうになったときに、静止してくれるそうだ。
ありがたい。
「あなたが責任者ですか?」
「コチョウ・ラピスラズリです。
堅苦しい敬語はいらないよ。
ボクのことは、ブルーって呼んでくれたら嬉しいな。」
「そう、ありがとう。
ラフラ・イェーガーよ。
アプル、挨拶しなさい。」
「アプル・イェーガーです。
よろしくおねがいします!」
「よろしくね、アプルにラフラ。」
彼女ら3人はその場で、イェーガー家へとビデオ通話をかけ、事情を説明していた。
ブルーさんはうまいこと、ルキ家に襲われた事実への言及だけを巧妙に避けていた。
ラフラさんもなにやら事情を察したようで、アプルちゃんの口をさり気なく封じながら、ご両親と話していた。
最後のほうはよく聞いていなかったのでわからないが、ブルーさんがうまく落とし所をつけたらしい。
なにやら、調査がどうたらこうたらと、架空の作り話を即興で創作していたのは覚えている。
10分程度のその通話は和やかな雰囲気で終了したようだ。
流石と言うべきか、なんというか。
通話が終わると、ブルーさんが俺たち4人のところへやって来た。
ラフラさんとアプルちゃんは置いてきている。
彼女は頭を寄せると、集まるように指示してきた。
俺たちは自然と、円陣を組むようなかたちになる。
こうなれば、ヒソヒソ声でもコミュニケーションが取れるというわけだ。
「あのふたりに、メシア教のことは言わないで欲しいんだ。
あんまり、ボクらの動きを第三者に把握されたくないからさ。
ご両親にはボクの方から、"消失事件に巻き込まれるところだった。女性の被害者はひとりもいなかったから、ぜひ調べたい"って言ってあるから、そこもよろしく。
オーケー?」
「すみません、殺し屋との戦闘を見られてしまっているのですが、どうしますか?」
「そこは大丈夫。
できるよね、ペラル。」
「おまかせ。」
「じゃあ、そういうことで。」
つまりは、あれだ。
さっきブルーさんが適当ぬかしていた作り話を、俺たちで再現しようと言うことだろう。
あのふたりにはルキ家との戦闘を見られているが、そこはペラルさんがなんとかするそうだ。
俺自身も、「|呪い、殺す者《カフナカウラ》」の能力がどこまで作用するのか、把握しきれていない。
けど、なんとかすると言っているのだから、なんとかしてくれるのだろう。
「じゃあ、みんなでお部屋を決めよう!」
ある程度、わざとらしく明るい声を出したブルーさんがラフラさんとアプルちゃんを呼び寄せた。
そうして俺たちはエレベーターへと乗り込み、俺たちの部屋がある5階へと向かった。
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俺たちは部屋を3部屋とっている。
初日は適当に部屋割りをして泊まっていた。
だれがどこに寝泊まりしていたかなんて、もはや覚えていない。
そしてその後、俺とペラルさんがウッドバレーへと向かい、シティバレーを経る大調査(?)を行った。
長期的に得られた結果は、「ウッドバレーのカタコンベにはなにもない」という事実のみだ。
シティバレーにもカタコンベはあるが、ブルーさんがすでに調べていたそう。
これ以上の結果は得られない。
そして俺たちが、ラフラさんとアプルちゃんのふたりを連れ帰ってきた。
もともとは、サンライズバレーの入口で別れるはずだったのだ。
だがしかし、俺が個人的にメシア教のターゲットにされている可能性が浮上したことで、状況が変わった。
俺たちとともに行動していたイェーガー姉妹にまで、危険が及ぶ可能性だって否定できない。
俺はブルーさんに頼んで、部屋をもう一部屋取ってもらうことにした。
場所は、横並びだった俺たちの3部屋のさらに隣に一部屋。
偶然にも、空き部屋でいてくれていたのだ。
ラッキー。
俺たちが3部屋を適当に分割。
そしてラフラさんとアプルちゃんの姉妹に一部屋を使ってもらおう。
そう思っていた。
しかし、アプルちゃんがゴネた。
かなりゴネた。
相当、ゴネた。
今までに見たこともないくらい頬をふくらませて、ゴネた。
いわく、どうしてもペラルさんと一緒の部屋で寝たいのだとか。
そう口早にまくしたてて、ペラルさんのスボンの裾を鷲掴みにしてしまったのだ。
あんな変な格好のズボンを掴んで、どうしてもペラルさんと寝たいと主張する彼女に、俺たち一同はうーんと頭を悩ませた。
ペラルさん、懐かれているな。
どうしようか決めあぐねていると、もうひとり文句を言う輩が現れた。
なんと、パキケ君である。
彼は、どうしても俺と寝たくないのだと主張した。
....................なんでだ?
すごく変だ。
なぜそんなことを言う必要がある。
君と俺は、試験期間中に同じ部屋で寝泊まりしていたじゃないか。
そう思って反論しようとすると、別の角度から反論が飛んできた。
ペラルさんだ。
どうやら俺の寝相は、相当ひどいらしい。
ウッドバレーで寝泊まりしていたときも、ときおりベッドから色々なものが落ちてくるから困ったそうだ。
あ、そうなんだ。
ふーん、そうなんだ。
自覚がなかっただけに、ちょっとショック。
それにパキケ君には、どうしてもふたりきりで話したいことがあるのだ。
こりゃしばらく、お預けだろう。
このふたりのせいで、なんだかすごくややこしくなってきてしまった。
どうしてもペラルさんと寝たいひとと、どうしても俺と寝たくないひと。
双方の意見を聞かねばなるまい。
こうして、大くじ引き大会が開催された。
やはり運だ。
運こそ、全てを円満に解決する。
そしてくじ引きならば、イカサマなどはできない。
一応、ペラルさんから固有武装《オンリーウエポン》を没収し、それは行われた。
双方の希望は、実現できるような仕組みのくじを作り、全員でそれを引いた。
結果として、このような部屋割りとなった。
=====
510号室
ペラルさん
アプルちゃん
511号室
俺
リンさん
512号室
ブルーさん
ラフラさん
513号室
パキケ君
=====
パキケ君を一人部屋にして、ペラルさんとアプルちゃんを強制的にくっつけるようなくじを作ってしまえば、万事解決ということだ。
パキケ君、単独の一人部屋である。
なんだかちょっと、羨ましい。
まさか、ラフラさんと宿を一緒にすることになるとは思わなかった。
なにせ、あの場で別れると思っていたのだから。
思えば。
これは、ほんとうに偶然だったのか?