石鬼 輪たつ🦒 / 第5話

第4話★  ヒーロー、オンステージッ!

「いくぞ!」  力を得たトリニティが、巨大生物に向かい全力疾走する! 「ブホッ! コ・キユ、舐める、よくないラ?」  牡《お》ウシ頭が獰猛《どうもう》な雄叫びを上げる。  すると、ミノタウルスめいた全身がアルウゥスやマジモスと同様に激しいピンクへと包まれ、周囲に色濃い霧《きり》が立ち込めた。  間もなく、空中に直径10センチ超の氷塊《ひょうかい》が出現!   それを飛礫《つぶて》として、すさまじい速度でトリニティへと発射する。 「危ないッ!」  アルウゥスが紅炎の髪を振り、さらに激しくピンク色に発光する。  トリニティへと放たれた氷礫《ひょうれき》が今まさに衝突しようとした時、上空から槍《やり》状の物体が落ち、彼を守った。  落下物とは骨盤《こつばん》の付いた脊柱《せぼね》だった。  頸椎《けいつい》の先端が、地面に突き刺さる。 「《《ボクの》》脊柱《せぼね》だよ! これを使って!」 「ハハ、人生イチ物騒《ぶっそう》だな、そのセリフ」  トリニティは地面から脊柱《せぼね》をズボッと抜き、戦棍《メイス》にして構える。  牡《お》ウシ頭は氷礫《ひょうれき》を雨あられと打ち込む。  すでに氷の一つ一つが人間の頭部大まで成長し飛来するのだ。からだにかするだけで骨折、最悪は部位欠損も免《まぬか》れないだろう。  襲《おそ》いくる凶弾に、トリニティは手の脊柱《せぼね》をフルスイングし、骨盤の部分でものの見事に撃《う》ち落としてみせる。  だが牡《お》ウシ頭の攻撃は絶《た》え間なく続いた!  アルウゥスのデカい骨盤《こつばん》であっても、人間をたやすく屠《ほふ》る氷礫《ひょうれき》を防ぎ切ることはできず、こなごなに砕《くだ》け散った。 「おらッ、こんな程度で終《しま》いじゃねえよなあッ!」  しかし、トリニティは巻き舌で牡《お》ウシ頭を挑発。  足元には、アルウゥスが次々と脊柱《せぼね》|戦棍《メイス》を出現させる。  これを振り回し、1本やられたら次、またやられたらその次と、無数の脊柱《せぼね》と骨盤によって弾雨《だんう》を無効化した。 「こいよ、臆病《おくびょう》者」 「ブホオオオ! コ・キユ(を)舐めるラああぁッ!」  挑発に乗り、牡《お》ウシの額《ひたい》に血管が浮き上がった巨大生物は、氷礫《ひょうれき》の発射をやめ一気に攻勢へと転じる。  四足歩行で、ウシらしく真っ赤な標的へ全速前進!   その禍々《まがまが》しい角の先で、あるいは鋼鉄《こうてつ》の頭突きで――ヤツを仕留める!  トリニティは負けじと骨盤の向きで何本かの脊柱《せぼね》を投擲《とうてき》するが、牡《お》ウシの頭はそれらを|軽々《かるがる》無に帰《き》し、止まらない。 「どうする、アルウゥスッ?」 「大丈夫、ボクたちは強いよ!」  アルウゥスが激励《げきれい》する。  トリニティは己《おのれ》の一瞬の思考にしたがう。  右腕を向かい来る巨大生物へと掲《かか》げ、力を込めた。  トリニティの頭部に癒合《ゆごう》したマジモスと、アルウゥスのからだが一層《いっそう》光り輝く。  トリニティの腕《うで》は、周囲にあらわれた肉片を層状にまとわせ、まさに巨人の腕へと相成《あいな》る。    寸刻、牡《お》ウシ頭の突進|目《め》がけッ拳《こぶし》で殴り付けた!   ドオンッ、ォォン……衝撃音に地表がうねり、空気が轟《とどろ》く。 「ぐううぅッ!」  トリニティの拳《こぶし》はかろうじて原型をとどめたまま、ミノタウルスのからだを受け止める。  だが、トリニティの装備する巨人の腕は内骨格をミシミシと言わせ、粉砕《ふんさい》のカウントダウンを告げていた。 「砕《くだ》かれる……その前に!」  トリニティが全神経を腕に集中させると、すでに牡《お》ウシ頭より一回りも大きい腕がさらに肉片をまとう。  それは巨大風船――否《いな》、腐乱《ふらん》しガスを溜め込んだクジラの死骸の|物々《ものもの》しさを体現する。  臨界《りんかい》点を超えたトリニティの右腕はッ、爆発した!  爆風と、ふたたび地鳴りを起こすほどの爆音がいっせいに襲いかかり、巨大生物は大きく体勢を崩す。 「隙《すき》ありッ――!」  トリニティは左腕による追撃を繰り出す。  脳天を衝《つ》いた一撃に、巨大生物は悲鳴を上げ! ついに、昏倒《こんとう》した。 「……やったのか?」  達成感めいたものを覚えながら、トリニティは慎重《しんちょう》さからアルウゥスに訊《たず》ねる。  アルウゥスは激しい輝きを体内へと収《おさ》め、こくりとうなづく。  はにかみ笑いを見せる。  トリニティも安堵《あんど》し、脱力した。    トリニティの頭部と癒合していた巨大バエのマジモスが離《はな》れ、トリニティは元のご当地ヒーローの姿へと戻る。  2人が目を離した間に、目を回した巨大生物の周囲を数名が取り囲んでいた。  大慌《おおあわ》てで探し物をしているようすだ。  ひと仕事を終えたトリニティは声をかける。 「どうした?」 「ああ! |吾々《われわれ》は隕石《いんせき》資料館の学芸員です。お昼休みに行っていたのですが、何者かが化石骨《かせきこつ》を強奪《ごうだつ》しようとしていると聞き……飛んで来たら、なんですッ? おたくら解体《かいたい》業者ですかッ!」 「悪い。んで、その化石骨《かせきこつ》は無事なのか?」 「それが見つからないんです! 30センチはあるんですよ。見つからないはず……」  涙《なみだ》|交《ま》じりにぼやく学芸員の男。  彼の後方で、突如アルウゥスが「あっ!」と驚いた声を発する。  一同目を遣《や》った。  資料館跡から大学キャンパスに向かう道中だ。  黒のキャップをかぶり、チュニックを着た小柄な人影。  腰《こし》のあたりから、長い何かがはみ出している。 「アレです! 化石骨《かせきこつ》はみ出してる! あの人を追って!」 「待てえッ火事場《かじば》ドロボー!」  学芸員たちがヨタヨタとした足取りで追跡するも、当該人物の人相《にんそう》を見ることすら叶《かな》わず逃げられてしまった。 「ねえ、トリニティ」  彼らの背を見送り、アルウゥスが語りかける。 「偶然じゃないと思うんだ、ボクたちが出会ったのって。これからも、ボクと一緒に戦ってくれない?」 「……それは事情|次第《しだい》だ。聞かせろよ、《《宇宙人》》」  トリニティは致命傷の上にできた、肉《アルウゥス》|色《いろ》のカサブタに熱を感じた。  熱く、疼《うず》いている。  これは昂《たかぶ》りか、それとも恐怖か――。  2人は戦場の後《あと》始末を大学へと押しつけ、町の中に消えた。

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