石鬼 輪たつ🦒 / 第2話

第1話   商店戦士トリニティ

 日本は某県、虚幌須《うろぼろす》市。  その形は「地図上に浮かぶグラマラスな妊婦《にんぷ》」に喩《たと》えられる。  また、かつての火山活動によって形成された地形や、北部に1|湾《わん》と3湖《こ》、市を縦へとつらぬく長大な河川など、豊かな自然にも恵《めぐ》まれていた。  妊婦の腹部にあたる、厘月《りんげつ》町。  拡大して見ると、住宅立ち並ぶベッドタウンの様相《ようそう》を呈《てい》していることがわかる。  ところがショッピングモールといった大型商業施設が見当たらない。  なぜなら、厘月《りんげつ》町には歴史ある巨大な|屋根付き商店街《アーケードがい》「みもみじ商店街」が存在するためだ。  住民は日々の買い物に限らず、憩《いこ》いのために商店街を訪《おとず》れる。  大路《おおじ》はいつでも人でにぎわっていた。 「トリニティいぃぃーッ!」  男の野太《のぶと》い大声が、人混みの喧騒《けんそう》を切りさいて響《ひび》きわたる。  声を聞いた通行人は何事だろうかと興味をもって、見物人《けんぶつにん》となり近づいた。  見物人たちが声のした場所へ着くと、大路の脇《わき》でささやかなステージが催《もよお》されている。  ステージとは、広さ3帖《じょう》ほどの台座と幕《まく》の代わりに病院のカーテンが取り付けられた、手作り感|満載《まんさい》のしろものだ。  そこからシャーッ! と音を立て、ようやく主役が登場した。 「俺の名は『商店戦士《しょうてんせんし》《《トリニティ》》』ッ、みもみじ商店街の平和を守る正義のヒーロー!」  主役は口上《こうじょう》に目新しさもない、ご当地ヒーローといった風情《ふぜい》だ。  みもみじ商店街のトレードマークである鶏足《もみじ》と鶏冠《とさか》、肉垂《にくすい》をあしらったマスクは色|鮮《あざ》やかな反面、グロテスクにも映る。 「ある日、町の空に出現した宇宙船から、人間を襲《おそ》うバケモノが降ってきた! 俺は戦った。けど、なんとバケモノを操《あやつ》っていた連中は俺と瓜《うり》二つの姿をしていたんだッ!」 (なんか思ったより壮大なストーリじゃん……)  見物人がポカンとして見ていると、再びシャーッ! とカーテンを開け、主役のトリニティと色違いの衣裳《アクタースーツ》を着た怪人が登場する。 「トリニティ? ふざけた名だ。ワレワレは起源をともにする《《ウコッケイ人》》」 「俺とお前が、同類だってッ?」 「さあ、この惑星《ほし》の文明と生命体を資源とし王へ捧《ささ》げるため、手を結ぼうではないか」 「そ、そんなッ! 俺はこの町で育って……けど、俺に親はいない、人間と姿かたちも違う! くそッ、俺はどうしたら……」  苦悩を演じる主役・トリニティ。  すると、ステージ袖《そで》のスピーカーから怪獣の絶叫が鳴り出す。3たびシャーッ! と、二足歩行の怪獣が登場する。 「グオオオぅ!」  怪獣はスピーカーボイスで鳴き、主役・トリニティに攻撃を繰り出す。  特撮映画のそれではなくヒーローショーにおける殺陣《たて》のものだ。  トリニティは葛藤《かっとう》のため怪獣の攻撃を防ぐばかりとなり、一方的で不利な戦いをしいられる。    しばらくして、サクラの男が「がんばれトリニティいぃッ!」と声を上げる。  声援はためらいのない大声によって、絶《た》え間《ま》なく続く。  やがてステージは通行人の数組、親子から子どもを引き込んでみせた。  子どもは目を輝かせ、背が高い衣裳《アクタースーツ》の男が「うっ!」「あっ!」とうめき、厳《いか》めしい怪獣から攻撃を受けているシーンに釘付けとなる。 「がんばえー!」  感極《かんきわ》まり子どもが叫んだ。何度も何度も。  声が呼び水となってさらに通行人を見物人へと変えていった。  サクラの男がまた叫ぶ。  その声援に連なり、ステージ上はいっせいに山場を迎える。 「そうだッッ! 俺はウコッケイ人なんかじゃない。どんな生まれだろうと、俺を育ててくれた商店街の人たちが、俺の起源ッ! みんなのために俺は戦うんだッ!」  苦悩から覚めた主役・トリニティが雄叫びを上げ、ステージ外|一円《いちえん》を指さす。 「いくぞ!」  力みなぎる合図!   怪獣への反撃を開始し、防戦一方の局面をくつがえす。  トリニティの猛攻に、怪獣が大きく怯《ひる》んだ。  後方でトリニティそっくりの怪人が慌《あわ》てふためく。 「待て! ワレワレは王の名の下《もと》に、人間との共生を望んでいるっ。無益《むえき》な戦いはやめてッ」 「うるせえ! 食らえッ、必殺・厘月《りんげつ》|隕石《いんせき》ストライぃぃぃぃクぅッ!」  トリニティはその場で垂直ジャンプからキックのポージングを決める。  ドガビシャア!   けたたましい効果音が、スピーカーから放たれる。  怪獣と見物人の鼓膜《こまく》にすさまじいダメージが及ぶ。 「――お母さん! 隕石《いんせき》だよ!」 「そうねえ、カッコイイわねえ」  ステージを人混みの外から眺《なが》めていた親子。  母親は、手をつないだ息子の興奮ぎみな評価がトリニティの必殺技に対するものと思い、あいづちを打った。 「違うよっ、お空にインセキッ!」  今度、男の子は母親の頭の上を指さしながらうったえる。  母親はそれにしたがい、空を仰《あお》ぐ。  ステージの見物人の何人かも男の子につられた。  商店街の屋根を外れた青空に、《《強い光》》が流れていた。  太陽の光とまったく別の、激《はげ》しく点滅する光だ。  燃えているようにも見えた。  突然あらわれた光が、本物の隕石であるのか――確かめる手段はないが、その場に居合わせた民衆の関心はことごとく光の虜《とりこ》となる。  まるで、トリニティの見せ場たる必殺技が、怪獣だけではなく見物人すらもステージから消し去ってしまったように。  いつの間にか『商店戦士トリニティ』のショーは終了し、ステージも跡形《あとかた》なく消えていた。  翌朝、地元新聞によって、ナゾの光をめぐる《《飛ばし》》に近しい記事がなされた。  商店街の風景と、光を見ようとできた人だかりの写真も掲載されたものの、その中にトリニティの姿はなかった。

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