雪森蓮 / 第3話

会社には行けるが社会は帰宅も要求していた。

給料日まで、あと三日。 僕は机に突っ伏したまま、 財布を開いた。 千円札、一枚。 百円玉、五枚。 以上。 「…………」 続いて、スマホ。 銀行アプリ起動。 残高。 『1,532円』 「終わった……」 昨日の焼き鳥パーティ。 あの幸福。 あの輝き。 そして今。 極限の現実。 人類はなぜ、 幸福の翌日に必ず請求書を寄越すのか。 僕は虚無の顔で交通費を計算した。 電車、往復四百円。 Suica残高、三百円。 「……………………」 足りない。 いや、一応足りる。 片道は。 だが帰れない。 会社には行ける。 だが社会は、 「出社したら帰宅もする」 という謎ルールを採用していた。 僕は静かに天井を見上げた。 そして。 「……歩くか……」 ぽつりと呟いた。 検索。 【長町駅 会社 徒歩】 『1時間34分』 「見なきゃよかった……」 「え?www徒歩出勤!?www現代人やめたの!?www」 「うるさい……」 「お前それもう“修行僧”じゃん」 「違う……これは節約……」 颯太、スマホ見ながら。 「ちなみに明日、雨予報」 「…………」 「気温28度」 「…………」 「頑張れ、徒歩勢」 「帰れ」 「海斗、そう思うなら車出せよ! お前営業だろ!」 僕は半ギレで言う。 だが海斗は、 悪びれもせずスマホを弄りながら答えた。 「え? 今車検だもん」 「使えねぇ!」 「代車?」 海斗は顔を上げ、 ニヤッと笑った。 「俺、社用車あるし?」 「は???」 「会社まで地下鉄で行けるし?」 「は?????」 「奏と違ってね! ァ ’,、',、(‘∀) ',、’`,、」 「殺すぞ!!!!」 ファミレス中に響く勢いで奏が叫ぶ。 周囲の客が振り返った。 颯太はドリンクバーのカフェラテを混ぜながら、 静かに言った。 「やめろ奏。お前が叫ぶたびに“生活苦感”が増す」 「誰のせいだと思ってんだよ!!」 「でも徒歩一時間半は普通に面白い」 「面白くない!!」 「途中で野垂れ死ぬかもしれない」 「仙台を何だと思ってんだ!」 海斗はゲラゲラ笑いながら、 急に真顔になった。 「まぁでもさ」 「?」 「お前、昔からそういうとこあるよな」 「は?」 「“ギリギリになるまで何とかなると思ってる”やつ」 「…………」 「んで、限界来たら、“まぁ歩くか”ってなる」 「……うるさい」 「で、なんだかんだ生きてる」 僕は黙った。 図星だった。 颯太がぼそっと言う。 「ゴキブリ系生命力」 「せめてもう少し言い方なかった?」 まぁ。ファミレスは奢りだし良しとしてやろう。  僕はいそいそとドリンクバーのおかわりをした。

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