おやまみかげ(・8・) / 第5話

第四話 力はなんのためにある?

 ♣︎ 「レシ、重くないか?」 「平気だよ! 俺だって男だからな!」 「そうだな! 頼もしいぜ!」  レシにパンを運んでもらい、アルデオは缶詰を運んでいた。  この食材は昨晩レシたちに渡した物だったが「みんなで食べた方がいいだろ?」と、兄妹が返してくれたのだ。  食材も多くあるわけじゃないし、調達方法も考えないとだな。  料理はルディアがしてくれるとはいえ、物がなきゃ作れないしなぁ。  そんなことを考えていると、隣を歩くレシが口を開いた。 「ねぇ、アルデオ」 「どうした?」 「あのさ、村に残ってくれてありがとう」  今にも溢れそう涙を堪えながら、少年が自分を見上げている。  アルデオは立ち止まると、レシの目線まで屈み、頭を力強く撫でた。 「ごめんな、村護ってやれなくて」 「アルデオは悪くないだろ? 今、こうやって助けてくれるし……」 「お前、ファファを護りたいんだよな?」 「うん。俺、にいちゃんだからファファを護るんだ」  ——まだ小さいのに、本当に強いやつだな。  アルデオは再びレシの頭をガシガシと撫でる。 「な、なんだよ! 子供扱いすんな!」 「子供だろー? 昨日ルディアに撫でられて、鼻水垂らしてたくせによー」 「うるさいな!!」  顔を真っ赤にしながら、ポコポコと殴ってくる少年。  鍛え抜かれた身体を持つアルデオには、そんな攻撃は痛くも痒くもない。  ただこうやって、臆せず向かってくる威勢の良さは伸ばしてあげたい。そう思った。 「レシ、強くなりたいか?」  小さな拳を手で受け止めると、アルデオはレシに問う。    闘志に燃える綺麗な目を見れば、答えなんてわかりきっている。  しかしそれでも、きちんとその意志を言葉にしてほしかった。 「俺、強くなりたい。ファファと生きていくために、強くなりたい」 「よし! じゃあ俺が鍛えてやる!」 「えっ……? いいの……?」 「その代わり、力は誰かを護るために使うこと。その力で誰かを支配したりしないこと。この二つ約束できるか?」 「うん。絶対約束する」  アルデオの目を真っ直ぐに見つめながら、レシは大きく頷いた。 「じゃあ、飯食ったら修行だー! 強くなるには飯が大事だぞ、いっぱい食えよ!」 「うん! ありがとうアルデオ!」  男の約束を結んだ二人は、三人が待つ焚き火へと歩き出した。  ♥︎ 「す、すみません!! やはり属性魔法は制御が難しく——」 「あはははは!! びっちゃびちゃだねぇ!!」 「つめたーい!!」  失敗した私を責めることもなく、二人はお腹を抱えて笑っている。  なかなかの大きさの塊だったため、焚き火は消え、焼いていた肉も無残に転がっていた。 「せっかくルディアが焼いてくださったお肉が……」 「いいのいいの! また焼けばいいんだからさ!」 「それに、ファファまでこんな水浸しにしてしまって……」  幼い少女の髪からは、水が滴り落ちている。  服も何もかもびしょ濡れで、手を洗うどころの話ではない。 「ううん、だいじょうぶだよ! 水浴びみたいで気持ちよかった!」 「そっかー、ずっと水なかったんだもんね」 「うん、だからありがとうメデリのおねえちゃん! おねえちゃんはすごい魔法使いなんだね!」  ギュッと足元に抱きついてくるファファ。  思わず少女の頭に手を伸ばすと、孤児院時代の自分の姿と重なった。    *  ——先生、私いつか立派な魔法使いになるの!  そんな夢を語る、幼い頃の私。    結局、私は魔法使いにはなれなかった。  属性魔法を扱えるほど、高度な魔力コントロールができないから。  一方の治癒魔法は、大地に流れる生命エネルギーを借りればよい。  だから同じ後衛でも、私は僧侶にしかなれなかった。   「どうしたの? おねえちゃん……」  不安そうな顔で、自分を見上げるファファ。  撫でていた手を下ろすと、メデリはファファの目線までしゃがみ込んだ。 「ファファ、私は魔法使いではないのです」 「そうなの? でもおっきな水出してたよ?」 「あれは……」 「あれは魔法じゃないの? 違うの?」 「えっと……」  確かにあれは魔法ではある。でも、私は魔法使いではない。  誤解をさせたままでは、この子に嘘をついていることになってしまう……。 「いいじゃんそんな細かいことはさ!」 「ルディア、でも私は——」 「あたしらの中で魔法使えるのはメデリとフォルぐらいじゃん! つまり、メデリは魔法使いってこと!」 「そんな無茶苦茶な……」  ルディアは落ちている肉を拾うと、新しく起こした焚き火へと投げ込む。  新しい肉を枝に刺すと、先ほどと同じように炙り始めた。 「いいんだよ、細かいことは気にしなくて。メデリがいたからここまで来れたんだよ? 何回壊滅しかけたことか……」 「まぁ、私は僧侶ですので……」  パーティを立て直すのは私の役目。  とても褒められるようなことではない。  パーティを強化できるルディアの方が何十倍も貴重だ。 「あたしなんて、誰かがいないと役に立たないよ? メデリはそんなことないじゃん?」 「私は一人では何もできません。ルディアのようにパーティを鼓舞し、勝利に導く方が立派です」 「それを言ったらさ——」 「わたしも、魔法使いになりたい!」  首を傾げながら二人の話を聞いていたファファが、突然大声で宣言した。 「ですから私は魔法使いでは——」 「メデリのおねえちゃんも、ルディアのおねえちゃんも魔法使いだよ!」 「えっ? あたしも?」  突然名指しされ、ルディアの声が裏返る。  不思議そうに見つめる二人に向かって、ファファは言葉を紡いだ。 「だって、ルディアのおねえちゃんが踊ったから、メデリのおねえちゃんは水出せたんでしょ?」 「えぇ、それはその通りです」 「じゃあやっぱり魔法使いだね! いいなぁ、わたしも魔法使いになれるかなぁ……」  ——先生、私いつか立派な魔法使いになるの!  幼い頃の私が再びそう宣言する。    私自身は無理でも、この子ならもしかしたら……。 「ファファ、提案があります」

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