綿ダッコ / 第5話

第4話 そんなこと気にするな

 気付いたら、朝になっていた。  朝の風は、現代よりも涼しい。    目覚めも良かった。  安良子さんはまだ寝ているようだった。  昨日見た十二単は、後世に伝わる十二単より、色が控えめだった。  それでも、華やかと感じた。  けど、今は十二単の対極と言っていいほど、真っ白な服だった。  おしろいも落とされている。  失礼かもしれないが、おしろいがない方が、似合っているような気がした。  起きていないから直視出来ているが、起きていたら俺の方が恥ずかしさで、直視出来ないだろう。 「(うーん…………、おはようございます!?)」  安良子さんが目を覚ました後、驚いたように飛び起きた。 「(やだ、こんなお姿を見せるなんて…………)」 「(おはようございます…………。すみません…………)」 「(いえ、私が先に起きなかった私が悪いので…………)」  安良子さんは枕元の扇子を広げて、表に出ていった。  そういえば、この時代の女性は、内妃みたいな高貴な人を除いて、婚約者以外の男性に顔を見せるのを嫌がる傾向があるって、習ったような気がする。  …………めちゃくちゃ、失礼なことしてしもうた!?   …………でも、昨日は隠してなかったぞ? ◇ ◇ ◇ ◇  体感1時間ぐらい経っただろうか、化粧は昨日の見た目になっていた。  出来るだけ安良子さんの方を、見ないようにしていた。 「(すぐに、お食事を準備しますね…………)」  安良子さんは、昨日とは違い扇子を広げながら、顔を出した。  …………本当に悪いことしてしまったのかもしれない。  夕食の時と同じように庭先から、準備する音が聞こえる。 「あっ!!」  そんな声のあとに、食器が割れる音が響いた。  体が動いた。 「安良子、大丈夫!?」  けど、すぐに引き返した。  舞子の声だ。  「舞子様…………。大丈夫でございます…………」  「ほら、立てる?」  「舞子様、ご無理なさらず…………」  状況は分からない。  安良子さんにケガがないことを願うことしか出来なかった。 「これで全部?」 「は、はい…………。魚が駄目になってしまいましたが…………」 「これだけって…………。急だけど、来てちょうだい」 「しょ、承知致しました」  しばらくして、食事の音が聞こえてきた。  そして、俺のところに持ってくる。 「(すみません…………)」  運ばれてきたのは雑穀のご飯だけ。 「(それよりも、安良子さんに怪我はないですか!?)」 「(はい…………大丈夫です)」  大丈夫と言っておきながら、顔を隠すのを忘れて、腕をさすっていた。 「(腕、怪我してるじゃないんですか?失礼かもしれませんが、見せてください)」 「(だ、大丈夫ですって)」 「(いや、見せてください)」 「(え、あっ…………)」  明らかに大丈夫じゃない。  俺は安良子さんの袖をめくる。  幸い、ラフな服装になっていたからめくりやすかった。 「(…………やっぱり。血が出てるじゃないですか!!)」  安良子さんの腕には、擦り傷ではなく、小さな切り傷っぽいのが出来ていた。  食器か何かで切ったのだろう。  服にも、砂っぽい汚れや小さな穴が空いていた。 「(雅道さん、血に触っては穢れてしまいます!!)」 「(大丈夫です。未来人なんで)」 「…………」  まだタイムスリップを受け入れていれないが、そんなことはどうでもいい。  近くにあった手ぬぐいみたいなものを手に取った。 「(これ、使っても大丈夫ですか?)」 「(はい…………)」  消毒する術を探す。  せめて、お湯があれば…………。 「(あの、お湯って無いですか?)」 「(ちょうど、沸かしています)」 「(じゃあ、これを少しの間、浸してもらってもいいですか?)」 「(分かりました…………)」  本当は、自分で行くべきだ。  けど、存在がバレてしまってはどうしようもない。 「(…………浸してきました)」 「(ありがとうございます)」  手渡された手ぬぐいを少し冷まし、絞ってから、慎重に血が出ているところに巻いていく。  安良子さんは、巻いていく度に体を跳ねさていた。  この痛みに慣れていないのだろう。  本当は、消毒液とかが欲しかった。  けど、それは現代の技術や。  この時代にあるわけがない。 「(はい、これで大丈夫です)」 「(…………ありがとうございます)」  安良子さんは、何かを確かめるようにまじまじと見つめている。  どうしたのだろうか? 「(本当に、大丈夫なのですか?穢れていませんか?)」 「(大丈夫です。2026年では、そういうふうに信じられていませんから)」 「(そう、ですか…………。2026年ではそういうふうになっているのですね…………)」  安良子さんは腕をさすりながら、驚いた様子をしていた。 「(ありがとうございます。雅道さんにこんなことさせてしまって…………申し訳ありません)」  安良子さんは俯いていた。  謝られる理由が分からない。 「(これぐらいしか出来ることがないので、そんな謝らなくても…………)」 「(お手を煩わせてしまったので謝りますよ…………)」 「(匿ってもらっているのはこっちなんで、出来ることがあったらなんでも言ってください)」 「(…………ありがとうございます)」  安良子さんは、扇子で顔全体を隠した。 「(早くお食べください。冷めてしまいます)」 「(いえ、安良子さんが食べてください)」 「(え!?雅道さん、昨日からあまり食べてらっしゃらないのでは…………?)」 「(いつも朝は食べないんです)」  ウソだ。  けど、安良子さんの細さをほっとけない。 「(本当に食べてらっしゃらないのですか?)」 「(はい)」 「(では…………)」  安良子さんは、恐る恐る残り少ないご飯を口に運んでいた。  一口一口は小さいものの、ニ口、三口ほどで食べ終えていた。  それだけ、食事が散らばったのだろう。 「(…………この後は、舞子様のところに行ってきます。もし、誰かが来たらこれで隠れてください)」  安良子さんから、5枚ほどの布と大量の本を渡された。  なるほど、本で壁を作って布で隠れろということか。 「(分かりました。よろしくお願いします)」

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