NAWOMIDOU / 第16話

第七部:記憶の渚と、消えない祈り3

 あなたが今、どこか別の名前で、別の誰かの妻として、あるいは独りの戦士として、静かに笑っていることを願う。  サウナ業界で働いていようが、全く別の道を歩んでいようが、そんなことはどちらでもいい。  ただ、あなたが今、この瞬間に吸っている空気が、あの塩素の匂いを含まない、健やかで自由なものであることだけを。    私は、こうして物語を書き終えることで、ようやくあなたを私の記憶という牢獄から解放しようと思う。    あなたは私の所有物でも、私の青春の飾り物でもない。  あの過酷な時代を、私よりもはるかに強く、はるかに気高く生き抜いた、一人の独立した女性だ。    窓の外には、二十年前とは違う、穏やかな夕暮れが広がっている。  私はもう、あの蒸気の向こう側に、あなたの姿を探すことはしないだろう。  さようなら。  私の「はだかの王国」に、たった一筋差し込んでいた光。  あなたがどこかで、幸せに生きていてくれること。  ただそれだけを、二十年後の私は、言葉にならない祈りとして捧げ続ける。  (了)
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