らぱすてー / 第66話

もんもんぐんぐん

 夕方のスーパーに入ると、ふっと肩の力が抜ける。  仕事が終わって、まだ家にも帰っていないのに、ここだけ少し早く“オフ”が始まっている。  その空気の中を歩きながら、私は少しだけもんもんしている。  ——今日はちゃんと作るつもりだったのに。  ——冷蔵庫の野菜、まだ残ってるんだけど。  ——でも、もう包丁を握る気力がない。  そんな小さな後ろめたさが、胸の奥でゆっくり渦を巻く。  惣菜コーナーに近づくと、店員がカチッとハンドラベラーを鳴らす。  半額シールが貼られた瞬間、惣菜たちは新たな魅力を放ち始める。  さっきまで「ちょっと高いな」と思っていた唐揚げが、急に運命の相手みたいな顔をしてくるのだ。  ぐんぐんと勝手に手が伸びる。  理性より先に、身体が「これでいい」と判断してしまう。  もんもんしながら、ぐんぐん進む。  その矛盾が、なんだか可笑しい。  カゴに半額の唐揚げとポテトサラダを入れた瞬間、胸の重さが少しだけ軽くなる。 「まあ、今日はこれでいいか」  その妥協は敗北ではなく、むしろ小さな救済だ。  レジを通り、袋を提げて外に出てみると、日は落ちてすっかり暗くなっている。  少しだけひんやりした風を頬に感じながら帰宅する。  さっきまでのもんもんは、袋の中の惣菜と一緒に少し落ち着いていた。  家に帰って、レンジの前でぼんやり待っていると、もんもんはまた別の形で顔を出す。  ——温めたら、皿に盛りつけようかな。  ——味噌汁くらいなら作れたかもしれない。  ——明日はちゃんとしよう。  そんな小さなもんもんは、立ちのぼる香りとともに、ぐんぐんと食欲に傾いていく。    いただきます。    ささやかな宴が終わると、今日もまた執筆という新たなもんもんが始まるのだ。

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