らぱすてー / 第77話

もんもんぐんぐん

 ここは、日本全国どこにでもある、スーパーもんもんぐんぐん。    今日も惣菜コーナー前には、全身白タイツを着て販促ソングを歌うダニエル店長の姿があった。 「大特売シャチークミーパイだ! ヘイヘイヘーイ! セイセイセーイ!」 「キサマッ! |巫山戯《ふざ》けているのかッ!」  額に青筋を立て叫び声を上げたのは、試食コーナーを独占しようとしていた綴茶実瑠。  綴茶実瑠は懐から長ネギを取り出すと、グルグルと風車のように回し始めた。  吹き飛ばされる商品。逃げ惑う客たち。まさに|阿鼻叫喚《あびきょうかん》の|地獄絵図《じごくえず》。品出しをしていたはずの髙山はスマホで撮影をはじめている。  にわかに破られた店内の平和を取り戻すべく、ダニエルが動く。 「いらっしゃいませ」  突如、ダニエルから発せられたバリトンボイスが空間を歪ませる。  気がつけば辺りは綴茶実瑠とダニエルの二人だけの空間になっていた。  至福の試食タイムを妨害された綴茶実瑠が、気合の声を上げ長ネギを構え直す。 「貴殿の首は、柱に吊るされるのがお似合いだ!」  ダニエルもらぱすてーから剥ぎ取ったばかりのパンツを振り回すと、中段に構えた。ダニエルの手に伝わってくるらぱすてーの温もりが、ダニエルに勇気を与えてくれる。この絆がある限り、負けはしない。 「けえええええっ!」  |裂帛《れっぱく》の掛け声とともに突きこまれた綴茶実瑠の長ネギによって、らぱすてーのパンツが破られる!  |無惨《むざん》にも引き裂かれたらぱすてーとの絆を前に、ダニエルは|滂沱《ぼうだ》した。  その隙を見逃す綴茶実瑠ではない。ダニエルは長ネギに貫かれて天高く掲げられた。  ダラリと力なく垂れ下がった手から、血に染まったらぱすてーのパンツがポトリと落ちる。  パンツが落ちたところから小さな芽が生える。やがてそれは太く高く伸びていき、『スーパーもんもんぐんぐん本日特売日』と書かれた大きなノボリとなった。  ショーケースに並べられた、らぱすてーのパンツ。日本全国のらぱすてーがノーパンで過ごす日だった。  ダニエルはらぱすてーのパンツを振り回す。暴風が吹き荒れ、らぱすてーのパンツが宙を舞う。  綴茶実瑠はそれらを菜箸で掴んでは、フライヤーでカラリと揚げる。黒豚ラード100%。  パンツ嵐が収まると、そこには手をぐるぐる回すダニエルだけが残った。  壁のシミから実態化した白くまと末長が、タックルをしかける。  だが、ダニエルは達人界隈でも、ちょっとした有名人だった。手の回転のみで二人を吹き飛ばす。エンの動きだ。    二人の不利を見て、揚げたばかりのパンツを、投げつけていく綴茶実瑠。白くまと末長の食欲が刺激され、動きが20%向上した。  しかし、それは|諸刃《もろは》の剣。ダニエルの食欲もまた刺激されていたのだ。当社比300%。  白くまでドリブルを始めたダニエルが、末長の頭に豪快なダンクを決める。勝ちを確信したダニエル。だが綴茶実瑠は諦めてはいない。  ゴール下からの遠距離シュートが決まり、ブザービートで綴茶実瑠が勝利した。  悔しさのあまり揚げパンツを噛み締めたダニエルは、長ネギに貫かれ天高く掲げられた。 「うん?」  いまだ謎空間から解放されないことを|訝《いぶか》しむ綴茶実瑠。気がつけば長ネギに吊るされていたはずのダニエルの姿がない。 「ここからが本当の勝負だ!」  空間が裂け、新しくらぱすてーから剥ぎ取ったパンツを手にしたダニエルが姿を現した。 「無駄だ、私にパンツは通用しないのはわかっているはず」 「当然、対抗策は考えてある! カモン!」  ダニエルの掛け声にあわせ姿を現した二人の男。 「|曲来来《きょくらいらい》!」 「|楽来来《らくらいらい》!」  二人ともがらぱすてーから剥ぎ取ったパンツを手にしている。  先頭に立ったダニエルが、力強く叫んだ。   「一枚のパンツは破れても!」  つづいて三人の声が揃った。   「三枚ならば破れはしない!!!」  三人がパンツと心をひとつに重ねるとき、絶対無敵の戦士となりえるはずだった。 「くらえええええええええええええい!」  |以心伝心《いしんでんしん》の動きで、三人は綴茶実瑠に向かって駆け出した。    ――    ダニエルは長ネギに貫かれて天高く掲げられた。三枚重ねてもしょせんはパンツに過ぎなかったのだ。  吐血しながら、ダニエルが言う。 「綴茶、お前のおかげで……もう、らぱすてーからパンツを奪わなくて済む」 「貴様、まさか」 「そう、私はあのままだと、らぱすてーのパンツを奪うという欲求に飲まれ、自分でも止められぬモンスターと化していたはずだった」    ダニエルの頬をつたう一筋の光。   「ありが……とう。つ……」  満足気な表情で息を引き取るダニエル。気がつくと綴茶実瑠はスーパーの惣菜売り場に戻ってきていた。  もう、二度とあの販促ソングが流れることはない。  その後、綴茶実瑠は存分に試食を楽しんで帰った。  スーパーもんもんぐんぐんは今日も平和だった。  めでたし、めでたし。

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