最強バトルの人 / 第160話

第69話 帰ろう

  ヨウエン「やった…………」   皆が、月に向かってぶっ飛ぶウーミンを、見た。 漫画みたいに、星になるウーミンを。   ヨウエン「やりました……!」   もう、脅威はいない。 あんなに怖かった老人を、文字通り“ぶっ飛ばした”のだ。 ヨウエン「やりましたよ! 皆さん! ウーミンを、倒しました!!」   シャオ「……そーアルか……」 どさっ。 シャオが、顔面から地面へ倒れ込む。   ヨウエン「!? シャオ! シャオーー!」   這いつくばってシャオに近づこうとするヨウエンを、ドウが止めた。 ドウ「ヨウエン。大丈夫だ」 ヨウエン「だ、大丈夫なものですか! やはりシャオは、ウーミンに致命傷を……!」 ドウ「いや。あれは、腹が減っているだけだ。さっきのものすごい拳で、全部を使い果たしたんだろう。子パンダ! アレをシャオに渡してくれないか」 子パンダ「キュウ!」とたとた 子パンダは、荷物入れから、透明な容器を取り出した。 タッパーに入った、野菜炒め。 余り物を詰めたドウお手製のものだ。 子パンダは、箸を器用に使い、シャオの口に運んだ。 シャオ「……うーん……。もぐもぐ。ちょっとしょっぱいアル。米が欲しいアル」モグモグ 子パンダ「キュウ!」 子パンダは、さらにタッパーや水筒を並べる。 すべてにドウの字で『白米』『青菜炒め』『お茶』とラベリングされている。 賞味期限付きで。 ヨウエン(きょ、驚異的な準備の良さだ) ドウ「シャオ! どうだ! うまいか!?」 シャオ「う〜ん、初心者にしては、って感じアル」モグモグ ドウ「そうか! すまない、料理は不慣れなものでな! シャオのように作るのは、難しい! まずは、レシピ本を読み漁るところから……」 火鍋「おい、見ろよ。アレを」   火鍋が、指を差したのは。 黒龍拳軍総本山。 今や、アニメに出てくるチーズのように穴ボコだらけになった建物が。 自重に耐えきれず、崩れていく。 柱も。壁も。建築と呼べるものは、何もなくなっていた。 火鍋「ありゃ、壮観だな。もはや、ただの瓦礫の山だ」   ヨウエン「――――ええ。これで、終わりですね」 ・ ・ ・ 「俺たちがウーミンの野郎を、ぶっ飛ばせばいい。誰一人死なずにな」 ・ ・ ・ ヨウエン(――まさか、本当に実現するとは。辛い戦いでしたが、なんとか乗り越えました)   火鍋「なんだか、花火でも打ち上げてぇ気分だな!」 ヨウエン「ふふ。本当ですね。多分、見れますよ」 火鍋「あァ? どうやって――」   崩れ去った施設の跡が。 次々と発光し。 チュドオオオオオオオオオオオオン――。   爆発した。     火鍋「――――おい」 ドォォォォォォン――    ドォォォォォォン―― ヨウエン「たーーまやーー……。綺麗ですね」 ドォォォォォォン―― 火鍋「ありゃァなんだ」 ヨウエン「? 私が以前から仕込んでいた爆弾です。何かに使うかと思いまして」 火鍋「…………」 ドォォォォォォン――     チュドォォォォォォン―― ヨウエン「あれは1年前、あれは2年前……。あっ、あれは、私が黒龍拳に入った初日に仕込んだ爆弾です! 懐かしいですね……!」 火鍋(こいつやっぱ怖ぇよ) ドウ「おい、待ってくれ」 ヨウエン「? どうしました?」 ドウ「あの中には、俺たちと死闘を繰り広げた呪殺火《ジョウシャーフオ》や、怪人ザ・ヴァイツ。剛力火《ゴウリーフオ》もいたはずだ。もしかして……」 ヨウエン「……あ」 今回の戦いの勝利条件は、“誰一人死なないこと”。 総本山は、何かに引火したのか闇世の中で煌々と炎を揺らめかせていた。 あの中に、もし、人がいたら……。 ヨウエン「…………」 火鍋「…………」 ヨウエン(…………安らかに) 火鍋「おい、手を合わせてんじゃねえ」 子パンダ「キュウ! キュウ!」 子パンダが、なにやら騒いでいる。 振り返ってみると――。 子パンダ「キュウ! キュウ!」 沼男「」オーイ 沼男が、沼形態のまま、手を振りながら近づいてきていた。 腕を伸ばして、子パンダと握手をしている。 ドウ「沼男! 無事だったか」 シャオ「ともだち、みたいアルね」 沼から無数の手が現れて、ドウたちそれぞれにも、伸びていった。 その手は、ふんわりと開いている。 子パンダ「キュウ!」ブンブン ドウ「あ……握手?」 ヨウエン「おぉっ。ひ、ひんやりして……」ギュッ シャオ「ひんやりしてて、気持ちいいアル」ニギニギ 火鍋「テメーとは一度喧嘩したからな。もうダチだ!」ガハハ ドウ「……」ギュ 沼男「」エヘヘ… 沼男は、ポリポリと頭を掻くような仕草をした。 ドウ(…………なんだか、子どもみたいだな……) 沼男「」? 火鍋「で、どーすんだ。中で人が死んでたら、俺らの勝ちじゃねぇぞ」 沼男「」ハイッ シャオ「沼男が何か言いたそうアルよ」     ――。 ぐちゅ。 ぐちゅ。 ぐちゅ。 べっ。 ドウ「うおおっ」 ヨウエン「あ、あなたは……」 軍師火「う……うーん……」ガクッ 剛力火「お、おのれ……ヨウエン……」ガクッ ヴァイツ「シャ、シャハハ……久しぶりの娑婆《シャバ》だぜ……」ガクッ 呪殺火「ヒ、ヒヒヒ……」ガクッ 火鍋「……よし! 俺たちの勝ちだな。ガッハッハ!」 シャオ「沼男が助けてくれたアル?」 沼男「」エヘヘ…ポリポリ シャオ「沼男! よくやったアル!」ナデナデ 沼男「!」ドキーン! 子パンダ「キュウ!」 火鍋「で、だ。俺たちはみんな動けねえ。こんな夜中に、山の中で。どうやって帰るんだ?」 シャオ「子パンダちゃんに運んでもらうアル!」 子パンダ「キュウ!?」 ドウ「ああ。子パンダなら、そのくらい簡単だ!」 子パンダ「キュキュウ!?」 火鍋「いくら子パンダでもよぉ、俺らを運ぶのに、何往復させるつもりだ?」 ヨウエン「……あ」 ドウ「どうした、ヨウエン?」 ヨウエン「山の周りを包囲している警察陣。時刻になっても、私からの合図がなければ、突入するようにしておりまして……」 シャオ「あと何分アル?」 ヨウエン「はい。あと……1分です!」 火鍋「何ィ!? そ、それはマズい! 俺はけ、警察だけは……!」 ドウ(真面目にしていれば何も後ろめたいことはないはずなのに。何を脅えているんだろう) シャオ「ヨウエン。お前も捕まったらヤバいんじゃないアルか?」 ヨウエン「……ええ。しかし、誰一人動けないのに、警察たちにも見つからず、山のふもとまで移動する策なんて、全く思いつきません。……詰みです」 子パンダ「キュ、キュウ……」 火鍋「おい」 ヨウエン「?」 火鍋「適任がいるじゃねえか」 ヨウエン「適任なんて……あ」 「「「あ」」」 皆の視線が、一点に集まる。         沼男「   ――エ?」ボク? * シャオ「せ、せまいアル」ギュウギュウ ドウ「が、我慢だ。定員は5人までらしい」ギュウギュウ 火鍋「俺ァ一回飲まれたことあるからな。ちょっとくつろげるくらいだぜ」ガハハ ヨウエン「私も飲まれましたが……。ひ、火鍋。ちょっとスペースを、とりすぎ、です」ギュウギュウ 子パンダ「キュ、キュウ」ギュウギュウ ――沼の中の、さらに沼男の口の中。 ここでなら、息ができる。 呪殺火もヴァイツも、こうやって運ばれてきていたのだ。 シャオ「で、でも。火鍋の四畳半よりは、ましアル」ギュウギュウ 火鍋「なんだとォ!? さすがにこんなに狭かねェぞ!? 思い出の詰まった俺の城をバカにしやがって!」 ドウ(城――? そういえば、異世界のジルハートや兵士たちは、元気にしているだろうか) ヨウエン「あ、暴れないで。火鍋。私の顔に足が……」ギュウギュウ 子パンダ「キュ、キュウ」ギュウギュウ シャオ(はあ。狭すぎて、またお腹が空いてきたアル) シャオ(せっかくだから……。ちょっと贅沢なもの。――そうだ) シャオ(上海蟹が、食べたいアルな) ♪BGM くるり - 琥珀色の街、上海蟹の朝 https://youtu.be/NyddMMiViZc?si=q7vxczlwHXnguxRo * 「――よしっ、時刻だ。総員、突入ーーーーっ!!!」 警官たちが、一斉に突入する。 「警部! なにやら怪しい男たちを捕らえました!」 「こ、こいつらは! 見るからに怪しい!」 「わ、わしのキャリアが……」 「なんだ貴様らは! 俺の模写拳で、コピーしてやる!」 「俺は悪くねェ! 全部、国が悪いんだ!」 「ヒ、ヒヒヒ……」 「…………ただちに、連行しろ」 「はっ!」 「く、国めェ! ここは逃げるが勝ちだぜェ! 大体、オレは被害者だァ!」ダッ 「あっ! 変なコスプレ男が逃げました!」 「追えーっ!」 ぐちゅ。 ぐちゅ。 「……? 警部! なにやら、機嫌の良い沼が、動いています!」 「機嫌の良い沼……? きっと、疲れてるんだ。そんなものがある筈がない! それより、コスプレ男だ!」 「はっ!」 ぐちゅ。 ぐちゅ。 沼男は。 友達の役に立てるのが、嬉しかったようだ。 沼男「♪」 * 沼男の中。 「し、しかし。今から、どこに行くアル? 旅しかしてこなかったから、帰る場所もないアル」ギュウギュウ 「なにを言っているんだ、シャオ! 俺たちの帰る場所は、もうあるだろう!」ギュウギュウ 「?」ギュウギュウ 「あぁ。随分と久しぶりな気がするぜ」ギュウギュウ 「早く、帰りたいですね」ギュウギュウ 「キュウ!」ギュウギュウ 「みんな、わかってるアル? どこに帰るアル?」ギュウギュウ     「――決まってるだろう! 老厨中華飯店だ!」
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