最強バトルの人 / 第156話

第67話 遺されたもの

  ヨウエンも、ドウも。 地面に這ったまま、シャオとウーミンの行く末を見守る。     シャオ「…………殺す……?」 ウーミン「…………ぐ、ぐぅぅ……」     シャオの。 ウーミンを掴む手が。 わずかに、弛《ゆる》んだ。 ヨウエン「シャオーーーーー!!」 シャオは、背中で声を受ける。 ヨウエン「こんな好機は、二度とありません!! 宗師は! ウーミンは! 生きていればまた、組織を再盛させる!! また、人を殺す!!」   シャオの手がぷるぷると震えている。   シャオ「――また、殺す……?」 ヨウエン「……だから! ……宗師を! ……ウーミンを! 殺すのです!! それが! 遺された者の……! 役目です!」 シャオ「――!」 ウーミン「……く、くく……」 まずい。 あの娘《シャオ》は。 “人を殺したことがない”。 ヨウエン(――――私の、体が動くなら……!!)ギリッ ヨウエンは見た。 ウーミンの右手が。 鉤爪になるのを。 黒龍の気が、鉤爪に宿る。 あれは……間違いない。 ――絶技、珠龍爪《ジュロンジャオ》! ウーミンはまだ、諦めていない!! ヨウエン「――シャオーーーー!! 早くーーーー!! 殺せーーーー!!」 シャオ「――っ!!」 森羅万象の“流れ”が。 シャオの右手に、収束していく。 力が、溜まっていく。 火鍋「……おい、てめコラ。ヨウエン」 遠くで、火鍋が倒れている。 頭から、子パンダに回復の湯をかけてもらっている。 さながら、新たなリーゼントを育てようとしているかのように。 火鍋「…………テメー、殺せとか、言ったな?」 ヨウエン「…………今、ウーミンを殺さないと、また、人が死ぬ……! 仕方がないことなのです!」 火鍋「――お゛お゛ぉ゛い! シャオーーーー!!」 シャオ「…………火鍋」   火鍋は、ドスの効いた声で。   火鍋「……テメーが、決めろ」 シャオ「――――――!!」 火鍋「――テメーが、してぇように、しろ」   シャオ「――私が……したいよう、に……?」 火鍋「……殺してぇなら、殺せ。……テメーには、それをしていい程の、理由がある」 シャオ「…………」 ――爸々《ぱーぱ》。ばぁちゃん。 私の幸せだった日々を奪ったのは。 全部、ウーミンが。 ウーミンが、いたから……!! 火鍋「……だがなぁ。俺は!」   火鍋「テメーが殺《シャベえこと》したら、……一生、口聞かねぇぞ」 シャオ「――――!」   シャオ「………………私は」   ――ウーミンを。どうしたいアル? 仇を討つ。 それだけを考えてきた十年間だった。 ウーミンをこの手で倒すことを、誓った。ウーミンに届くよう、拳を磨いた。 今、私の手で掴んでいるのは――。 私は、ウーミンの目を見つめる。 金色の、龍みたいな目。 人を殺してきた目。 私の爸々《ぱーぱ》を。ばぁちゃんを奪った目。 私はその目の奥の。 さらに奥の奥に、見つけてしまった。 よく知った人。 私の、大好きだった人。 優しくて、ときに厳しくて、案外負けず嫌いで、いつもかっかっかっと笑っていた。 ウーミンの目の中に。 ばぁちゃんがいるのを、確かに見つけてしまったのだ。 ああ、そうか。 ウーミンと、ばぁちゃんは。 互いに、好き同士だったのだ。 じゃあなんで、ウーミンはばぁちゃんを殺したんだろう。 ばぁちゃんなら、ウーミンを殺したのだろうか。 ――私は。 私は、ウーミンをどうしたいのだろうか。 ――殺す? 殺さない? ――殺さない? 殺す? ――そんなこと。 シャオ「……わからない、アル……」ポロポロ 火鍋「……!」 シャオの瞳から。涙。 引き寄せたウーミンの顔に。 涙が、落ちる。   涙が溢れる先には。 ――龍の爪。 黒く染まった龍の爪が、完成していた。 ウーミン「……ふ、ふふ…………!」 珠龍爪《ジュロンジャオ》が。 月の光を受け、ギラリと輝く。 ウーミン「…………所詮は、小娘よ」 その手は。 シャオの。 心臓に――――――!!     ドウ「――シャオ!」   シャオの体が、反応する。 シャオ「…………ドウ……! 私……! 私…………!! どうしたら……!」               【【ドウ「――殺すな」】】 ヨウエン「――――――!!」 シャオの瞳が、落ち着いた。 体の震えも、止まっている。 ヨウエン(――それが、あなたたちの選択なのですね) ヨウエン「……シャオーーーーー!! 避けろーーーーー!!!」 シャオ「――!」 シャオは、慌てて手を離す。 ウーミン「――――ちぇぁぁああ!!」 ウーミンの珠龍爪が、シャオの心臓の数ミリ前を通過し、横切る。 間一髪。軌道が逸れた。 ウーミンが、自由になる。 呼吸も、整い始めた。 黒龍の気が。 また、全身を覆い出す。 ヨウエン「――シャオ! ……また、森羅万象の“流れ”を! ……ウーミンを、止めるのです!!」 シャオ「う、うんアル」 シャオは。 また、目を虚ろに。 世界と視界との境目をなくし――。 意識を。森羅万象と、同調させ――。           シャオ「――――できない、アル」       ヨウエン「――え?」         シャオ「――――――もう、読めないアル」ポロポロ         シャオの膝が、崩れ落ちる。 足をハの字に開いて、ぺたんと座り込んだ。         ヨウエン「――――シャオ? 早く、森羅万象を……」           シャオ「――――ずっと、ずっと我慢してたのに……」ポロポロ、ポロポロ         ヨウエンが。火鍋が。ウーミンも。       皆の、時が止まった。   そして皆、同じ“音”を聞いた。                       ぐー。                   シャオ「――――――おなかが、すいたアル」ポロポロ、ポロポロポロポロ           ・ ・ ・   ウーミン「――く、くくく……。ふはははは!!」 ざっ! ウーミンが、シャオを見下ろす。 その拳は、珠龍爪《ジュロンジャオ》。   ウーミン「――よもや、世界最強の娘の弱点が」   シャオ「……」ポロポロ、ポロポロ   龍の爪が――。 ウーミン「――空腹、とはな」 シャオに向かって――――! ウーミン「…………死ねい!」   ――――――!           【【ドウ「シャオーーーーーーーー!!! 受け取れーーーーーーーーー!!!!」】】 シャオ「……!」     ドウが、何かを投げた。   白く、丸いもの。   今宵の満月のように、まんまるだ。       シャオは、高速で飛ぶそれを、片手で受け取った。   ぽふ。   この感触は。   知っている。     ぽふ。ぽふぽふ。     シャオは、投げ渡されたそれが何か、目で、手で、確かめる。 間違えようがない。 ラップで包まれたそれを見て、シャオの頭に声が響いた。                            チンして食べな。ラオ。       肉まん。   ばぁちゃんの、肉まん。   ラップを取り外し――。     はむっ。 はむ、はむはむ。   もぐ、もぐ、もぐ、もぐ。             シャオの体に。 森羅万象の“流れ”が、再び。     ――ごっくん。 宿り出した。       シャオ「――――――腹、十分目アル」
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