Tihoo / 第46話

第四十六話 「筋肉痛で動けないので、最強の防衛システム(ルンバ的なやつ)で撃退していいか?」

翌朝。 屋敷のリビングは、地獄絵図と化していた。 「……うぐっ」 「……ああっ」 「……んんっ」 ソファの上で、絨毯の上で、テーブルの下で。 あられもない姿で美女たちが転がり、苦悶の声を漏らしている。 アリアはシャツのボタンが弾け飛んだ状態で、白目を剥いてソファに沈んでいる。 シャルロットはドレスがはだけ、太ももを露わにして床に大の字。 ミリムに至っては、俺の腹の上で涎を垂らして気絶している。 ……誤解のないように言っておくが、これは「事後」ではない。 昨晩の「殺し合い(特訓)」による、極度の魔力枯渇と全身筋肉痛だ。 「……腰が、割れそうだ」 俺自身、指一本動かすのも億劫だった。 昨日の特訓はやりすぎた。三人が本気で殺しに来るものだから、俺も演算リソースを限界まで酷使し、肉体(ハードウェア)が悲鳴を上げている。 平和な朝だ。 全員が動けない、この静寂こそが―― 『警告(アラート)。マスター、正面ゲートに高位魔術師の反応あり』 オメガの無機質な声が、俺の脳内に直接響いた。 ……嘘だろ。またかよ。 「……誰だ、こんな朝っぱらに……」 『照合完了。王立魔術学院、生徒会執行部。「鉄の処女(アイアン・メイデン)」シルヴィア・ランカスターです』 「……面倒なのが来たな」 シルヴィア。噂は聞いている。 アリアと双璧をなす学院の秀才であり、規律にうるさい風紀委員長タイプだ。 アリアがここに入り浸っていることを嗅ぎつけ、連れ戻しに来たのだろう。 ピンポーン。ピンポーン。 チャイムが鳴る。 「……出られん。居留守だ」 俺は呻いた。動けないのだ。このミリムという名の重りを乗せたまま玄関まで行くなど、今の俺にはS級クエストより難しい。 ドガァァァン!! 次の瞬間、玄関の扉が吹き飛んだ。 「失礼します! アリアさんを返していただきますわ!」 土足で踏み込んできたのは、銀髪をきっちりと結い上げ、モノクルのような片眼鏡をかけた少女だった。 手には巨大な魔導書を構えている。 「む……?」 リビングに入ってきたシルヴィアは、そこで凍りついた。 彼女の目には、どう映っただろうか。 服がはだけ、白濁した液体(回復ポーションの空き瓶)が散乱し、虚ろな目で喘ぐアリアやシャルロットたち。 そして、その中心で半裸の少女(ミリム)を侍らせ、気怠げに横たわる魔王のような男(俺)。 「な、な、な……!?」 シルヴィアの顔が、瞬時に沸騰したように赤くなった。 「はレンチですわぁぁぁぁ!!」 絶叫。 「誤解だ。……ただの筋肉痛だ」 「問答無用! アリアさんがあんな姿に……! シャルロット王女まで……! 貴様、彼女たちに何をしましたの!? 薬漬けにして……無理やり……!」 「だから、特訓だと言っているだろうが……」 声が出ない。喉も枯れている。 「言い訳など聞きません! 学院の誇りにかけて、この『淫蕩の館』を浄化し、貴様を豚箱にぶち込んでやります!」 シルヴィアが魔導書を開く。 まずい。今の俺には、防御障壁を展開する魔力すら残っていない。 「オメガ……」 俺は最後の力を振り絞り、脳内リンクで命令を送った。 「……『迎撃モード』起動。……ただし、殺すな。適当にあしらえ」 『了解(ラジャー)。――自律防衛システム、起動』 ウィィィン……。 リビングの床から、円盤状の掃除ロボット(俺が魔改造したルンバ的なもの)が出現した。 「な、なんですの、その平べったい使い魔は!?」 シルヴィアが警戒する。 『ターゲット確認。排除行動を開始します』 掃除ロボットが猛スピードで滑走した。 「ふん、そんな玩具で! 【雷撃(サンダー・ボルト)】!」 バリバリバリッ! シルヴィアが雷を放つ。 だが、ロボットはその表面を鏡のように変化させ、雷を綺麗に反射した。 「なっ!? 魔法反射(リフレクション)!?」 違う。ただの「超撥水コーティング」だ。魔法だろうが汚れだろうが弾く仕様だ。 『床が汚れています。洗浄します』 プシュァァァァ! ロボットから高圧の水流が噴射された。 本来は頑固な汚れを落とすためのものだが、対人戦においては凶悪なウォーターカッターだ。 「きゃぁぁっ!?」 シルヴィアの制服が裂け、彼女は悲鳴を上げて後退る。 「くっ……! ならば、これで! 【重力結界(グラビティ・フィールド)】!」 彼女が俺たち全員を押し潰そうと重力を強める。 だが、それが裏目に出た。 『室内の気圧異常を検知。環境調整を行います』 屋敷中の空調システム(エアコン)が一斉に稼働した。 ゴォォォォ!! 猛烈な逆風が吹き荒れ、シルヴィアの重力魔法を風圧で吹き飛ばす。 「風魔法!? しかも、詠唱なしでこの規模……!?」 ただの換気扇フルパワーだ。 「はぁ、はぁ……なんて屋敷ですの……! 主(あるじ)が動かずとも、家そのものが要塞だなんて……!」 シルヴィアは肩で息をしながら、恐怖に震える目で俺を見た。 俺はただ、ミリムが重くて「うぐぐ」と唸っていただけなのだが、彼女にはそれが「余裕の笑み」に見えたらしい。 「……くっ。私の負けですわ」 シルヴィアはガクリと膝をついた。 「ですが、覚えておきなさい! アリアさんたちは、必ず私が救い出してみせます! ……あんな、快楽に溺れた顔にさせるなんて……悔しいですが、貴方の『調教技術』だけは認めてあげますわ!」 「……だから、誤解だと言っている」 「うるさいです! ……次に来る時までに、もっと鍛えてきますから! 覚悟しておきなさい!」 彼女は顔を真っ赤にして、捨て台詞を残して去っていった。 嵐が過ぎ去った後。 静寂が戻ったリビングで、アリアがむくりと起き上がった。 「……んん。師匠、今の騒ぎは?」 「……客だ。帰ったよ」 「そうですか。……ああ、体が痛い。師匠、昨日あんなに激しくするから……奥までガタガタです」 「言い方。……絶対に外で言うなよ、それ」 俺は天井を仰いだ。 新たな面倒ごとの種が撒かれた気がする。 「鉄の処女」シルヴィア。 あいつもそのうち、このカオスな日常に巻き込まれる予感がしてならなかった。 とりあえず、今は二度寝だ。 俺はミリムを抱き枕代わりにして、再び意識を手放した。
「ルンバ強すぎ」「シルヴィアもチョロそう」 と思っていただけたら、 【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】評価をお願いします!

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