たぺっと!! / 第10話

たくさんの神様と契約して異世界で最強目指してるものです〜10話〜守るべきものたち〜

ここは、かつて風神アルクレスが鎮座していた地からはるか遠く離れた、栄華を誇る大都市ハーネスティア。 あの大騒動ののち、炎神こはると風神アルクレスは、深い眠りに落ちた契約者「てぺ」をこのハーネスティアへと安全に転移させ、彼の様子をじっと見守っていた。 ……。 カサリ、と静かに本の閉じる音が響く。 「おっと、ここから先はまだ未公開のページでしたね。それでは……彼らの物語の続きを紐解いてみましょうか」 「おい、いつまで寝てるんだ!! もう三日も起きないぞ! このままなまけものになって死んでしまうつもりか!? それとも、私の嵐のような魔法で叩き起こしてやろうか!?」 せっかちな風神アルクレスは、しびれを切らしたようにてぺの身体をがくがくと揺さぶった。 その様子を見て、炎神こはるがすかさず怒りの声をあげる。 「バァカ! なに病人に不吉なことを吹き込むのじゃ!! てぺはあれほどの大力を使ったのじゃぞ! いくらステータス上の数値が全回復したとて、精神面の摩耗まではすぐには戻らぬのじゃ!! そんなこと、風を司るお主とて百も承知じゃろ!!」 「それにしても、だ!!」 アルクレスはむっと頬を膨らませ、しかしどこか心配そうに視線を落とした。 「さすがにこれは眠りすぎだろう。こはる、お前は自分の神力を使った契約者で、これほど長く眠り続けた人間を見たことがあるか?」 こはるは耳をペタンと伏せるようにして、しょんぼりと俯いた。 「ん……ない。……しかし、このままここで待っていても埒があかぬな。我らのままで外に出れば、人間に見つかって大騒ぎになってしまう。……あ! そうじゃ、一人だけ、会っても大丈夫な人間がおるぞ!! この町のギルド関係者じゃ!」 「おっ! なら話は早い。いち早く相談しに行こう!」 二人は正体がバレないよう、ありあわせの衣服で一応の変装を施し、ハーネスティアの冒険者ギルドへと足を踏み入れた。 フードを目深に被ったアルクレスが、不満そうにぼやく。 「……なんで私たちはこんなコソコソと変装してるんだよ」 「一応、用心するに越したことはないじゃろ……?」 ギルドに入ると、すぐに受付嬢が愛想のいい笑みを浮かべて声をかけてきた。 「はじめまして! この町は初めてですか? もし勇者登録をご希望でしたら、こちらの用紙に記入を……」 こはるは周囲に聞こえないよう、受付嬢にすっと顔を近づけて囁いた。 「我じゃ!」 「……!? え、えん……炎神様!?」 驚愕に目を見開く受付嬢をこはるは手で制し、本題を切り出す。 「ギルド長は居るか?」 「あ、あいにく、ギルド長は緊急事態招集がかかっておりまして、ただいま席を外しております……。それより、今日はてぺさんの姿が見えませんが、どこかへお出かけなのですか?」 「そのことなんじゃが、実はてぺが――」 説明を始めようとしたその時だった。 こはるの背後から、影が差した。筋骨隆々とした、見るからに態度の悪そうな二人の男――モブ2とモブ3が、こはるの肩に馴れ馴れしく手を置いたのだ。 「おいおい、見ない顔だなー? よく見りゃ随分いい面構えをしてるじゃねぇか……」 モブ2が下卑た笑みを浮かべる。 「へへ、兄貴、こっちのツンとした女もなかなかいい感じですよ」 モブ3がアルクレスをねめつけると、モブ2は満足そうに頷いた。 「よし決めた。お前ら、今日から俺たちの専属メイドになれ」 こはるは心の底から呆れ果てたという顔で、冷ややかに言い放った。 「なんじゃお前は……? お前のような見るからに弱そうな輩のメイドなど、死んでも御免じゃ」 「同感じゃ……」 アルクレスもまた、嫌悪感を隠そうともせず吐き捨てる。 「こんな薄汚れた者たちに仕えたら、私の神聖な気まで穢れてしまうわ!!」 「なんだとぉ!?」 モブ2が顔を真っ赤にして怒鳴る。 「俺たちがこのギルドでも数少ない『Sランク冒険者』だと知っても、そんな大口が叩けるのかよ!!」 そう言うや否や、モブ2の手がこはるの体に伸び、強引に触れる。 「力ずくで連れていくしかないっしょ!」 モブ3は下品に笑いながら、アルクレスの背後に回り込み、その白い首筋にナイフを突きつけた。チリ、と小さな痛みが走り、一筋の赤い血が流れる。 (ここで私が神の力を使えば、このギルドの建物ごと吹き飛んで人間に多大な迷惑がかかる……。どうする、どうすれば……) こはるは奥歯を噛み締めた。 (くっ、今はとりあえず、大人しくこいつらの指示に従うしかないのか……!) プライドの高いアルクレスも、最悪の事態を避けるために身体を強張らせる。 理不尽な暴力が神々に下されようとした、まさにその瞬間だった。 バァン!! と激しい音を立ててギルドの扉が開いた。 次の刹那、誰もその動きを視認することはできなかった。ただ一瞬のきらめきが走ったと思うと、モブたちの手首から先が、宙を舞って床へと転がった。 「――新・影流風神」 静寂に包まれたギルドの中で、てぺは鋭い切っ先から血を払うと、流れるような動作でその名刀を鞘へと収めた。 「俺の女神たちに手を出すな……雑魚どもが」 振り返ったてぺの表情は、怒りに燃えていた。 彼の右目には禍々しくも美しい赤黒い炎が揺らめき、左目には静謐で澄み切った緑色のオーラが立ち上っている。二つの属性の魔力が、彼の双眸の中でせめぎ合い、混ざり合っていた。 「て、てぺさんが……ブチギレてる……」 受付嬢は恐怖と驚きで腰を抜かしそうになっていた。 「痛ってえええ!! 何しやがるクソガキがァ!!」 手首を失ったモブ2が、激痛に狂いながら残った腕でてぺに殴りかかる。 しかし、てぺは避ける動作すら見せず、収めたばかりの刀の鞘の先端で、モブ2のおでこを静かに突いてその動きを完全に止めた。 「こんな些細なことで怒っていたら、頭に血が上っていつか死ぬぞ……? ――神速回復魔法」 てぺが呟くと同時に、柔らかな光が男たちを包み込む。 信じられないことに、床に転がっていたモブたちの手首が、瞬く間に元通りに再生していった。 「これに懲りたら、二度と俺の女神に手を出すな……。次、その汚い手を伸ばしたら、次はお前の命を奪う」 てぺが静かに告げると同時に、彼の両目から放たれるオーラが一段と強まり、ギルドの床、いや、ハーネスティアの街の大地そのものがみしみしと音を立てて激しく揺れ動いた。神々をも凌駕せんとするその圧倒的な威圧感に、ギルドにいた全員が息を呑む。 「ひ、ひぃぃぃぃ!」 「に、逃げるぞ、こいつは化け物だ!!」 モブ2とモブ3は、再生したばかりの手首を抱え、文字通り脱兎のごとくギルドから逃げ出していった。 静寂が戻ったギルドで、てぺはふぅ、と小さく息を吐いた。 その背後では、危機を救われた二人の女神が、頬をこれ以上ないほど赤く染め、胸を高鳴らせていた。 「て、てぺさん……あ、ありがとう……。一応、礼は言っておく……助かった、ぞ」 アルクレスはツンとそっぽを向きながらも、真っ赤になった耳を隠せない。 「さ、さすがは我が信じたてぺじゃな! めちゃくちゃかっこよかったぞ!!」 こはるは我慢できず、てぺの胸へと勢いよく飛び込み、ぎゅっと抱きついた。 「あはは……」 てぺは気恥ずかしそうに頭を掻いた。 そんな様子を見て、アルクレスがふと疑問を口にする。 「ところでてぺさん……いつ目覚めたんだ? まさか、朝から起きていて、寝たふりをして私たちの様子を窺っていたわけじゃないだろうな?」 「いや、それがさ……。気づいたらこの名刀を持って、ここに立ってたんだよ。しかも、いつ目覚めてどうやってここまで来たのかすら、自分でも覚えてなくて……」 こはるはてぺの胸から顔を上げ、不思議そうに小首を傾げた。 「自分が目覚めた時のことを覚えておらんとは……全く、お主は不思議な男じゃな!! まあ、何はともあれ無事に目覚めてよかったのう! ……ところでてぺ、その両目のオーラは、ずっと出っぱなしのままなのか?」 「え……?」 てぺは己の目をぱちくりとさせ、自分の顔に手を当てた。赤黒い炎と、澄んだ緑の光は、いまだに彼の瞳の奥で妖しく、そして力強く輝き続けていた。

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