NAWOMIDOU / 第5話

第10話:【乱読Ⅱ】地元の漁師青年。潮の香りと、ざらついた文体

 鳥取県に入り、小さな漁港に近い駅で途中下車した。  次の列車を待つベンチ。隣に座ったのは、日焼けした逞しい腕を持つ青年だった。  網の手入れを終えたばかりなのか、彼からは潮の香りと、生命力に溢れた野性的な熱が漂っている。 「姉ちゃん、えらい薄着だなぁ。都会の人は暑さに弱いんか?」  彼の言葉は、飾り気のない、ざらついた地元の言葉。  今まで出会ってきた「読者」たちとは違う、野性的な響き。 「ええ、大阪はビルばっかりで。こんなに綺麗な海風は吹かないんです」  私はあえて標準語を崩さず、お淑やかに答える。  青年は「ガハハ」と笑い、自販機で買った冷たいスポーツドリンクを私の首筋に押し当てた。 「ひゃっ……つめた!」 「ほら、冷やせ。そんな顔赤くしてると、行き倒れるぞ」  不器用で、暴力的なまでの優しさ。  彼の指先は魚の鱗や網で少し荒れていて、それが私の柔らかい肌を掠めるたびに、これまでの「インテリ」な男たちにはなかった、原始的な疼きが身体の芯を走った。 「……お兄さん。海、案内してくれませんか? 列車まで、まだ時間あるし」  私はドレスの胸元を少し緩め、彼を覗き込んだ。  都会の図書館にはない、一冊の「野性」。  私は、砂丘へと続く道で、このざらついた文体を全身で味わう決意をしていた。

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