お前は今日も死んでいる / 第11話

10話 『爆発オチでは終わらない』

『予想的中』とは、この事なのだろう。 考察通り、俺はバッグを持ち込む事が出来た。 起爆剤としての小麦粉に、マッチ。そして古びた消火器。 俺の考えた作戦には十分な代物だ。 さて、早速作戦を遂行したいのだが、ユルギスの姿が無い。 まさかエーデルの方へ向かったのかと思い、窓の外を眺めてみると、暇そうに立ち尽くすユルギスが居た。 なぜお利口に待っているのか等疑問は残るが、考える前にまず行動。 作戦開始の時間だ。 「リュナ、行くぞ」 「はいっ」 その合図と共に、俺達は宿屋を飛び出る。 小麦粉の袋を開け、中身を宙へとばら撒く。 「んっ...なぜ貴方が生きている...?」 視界を塞がれ、鎌をやみくもに振り回すユルギス。 これだけでも十分効果はあるが、当然これで終わりではない。 バッグの中からマッチを取り出し、小さな火の粉を投げ入れる。 リュナに合図し、安全な場所に隠れたその時──── ドカンッ!! 地面を揺らす大爆発が起きた。 急な攻撃に、ユルギスが防御を展開するが、こちらにとってはむしろ好都合。 カイルの身体が火傷を負っては元も子も無いからな。 「今だ!」 「了解ですっ...フランメ・ザイル!」 リュナの詠唱と共に、ユルギスは炎の縄に縛られる。 必死に逃れようとするが、堅く結ばれた拘束は、そう簡単にほどけない。 その間、村の住居に火が燃え移らないよう、消火器で鎮火する。 勝利を噛みしめ、リュナとハイタッチをしていると、ユルギスが重々しく口を開いた。 「何故...なぜあなた達が生きている?腹を裂かれたら死ぬという秩序を...知らないのですか?」 「秩序がどうとかうるせーよ。早くカイルに身体を返せ」 俺の言葉を聞き、さらに暴れるユルギスだが、所詮は子供の身体。 縄を千切るには力不足だ。 「この美しい世界を...汚らわしい特異で乱さないでもらいたい...消えてもらえますか?」 狂気と殺意に満ちた目で俺を睨むユルギス。 秩序がどうとか、特異がどうとか。本当に訳の分からない奴だ。 出来る事なら今すぐにでもおさらばしたい。 しばしの間、堅い睨み合いを続けていると、ユルギスが突如空虚を眺め喋りだした。 「あぁ...そうですか。了解しました..."今すぐ"向かいます」 「おい、何処に行くつもりだ?」 独り言のような言葉を呟くユルギスは、俺の問いに答えない。 代わりにこちらを向き直し、話を続ける。 「さて、私はそろそろお暇させて頂きます。くれぐれも、これ以上秩序を乱さぬように」 「おい...ちょっと待っ」 俺が言葉を続けようとした時、ユルギスはもう去っていた。 代わりに残されたのは、地面に横たわるカイルの身体。 リュナと互いに顔を合わせて、一先ず安堵の息を吐く。 「なんだかよく分かりませんが...一先ず一件落着ですね」 「そうだな」 ユルギスが残した意味深な言葉の数々に、多様な思考を巡らせながらも、俺はカイルに目をやった。 地面に倒れて動かない彼に、軽く手を触れるとその瞬間。カイルは目覚めた。 「ここは...」 「もう大丈夫だ。ユルギスは出て行った」 「すみません...どなた、ですか?」 そうか。俺とあの森で出会った時にはもう。カイルはユルギスに乗っ取られていたのか。 つまり今のカイルにとっては、これが初対面。 困惑する訳だ。 俺は仕方なく、これまであった出来事を全て伝えた。 「本当に...そんなことが?」 「ああ、本当だ」 俺の言葉を聞き、信じられないといった表情になるカイル。 心配そうに俯く彼に、リュナが声を掛けた。 「この村の人達は、既に避難しています。だから安心してください」 「そう...ですか」 リュナの慰めに、少しだけ笑顔を取り戻す。 そうして今日もハッピーエンド...といきたい所だが、まだやることは残っている。 村人達との合流だ。 「エーデル達はどこに居るんだ?」 「そうですね...」 分からない。とでも言いたげな顔で古びた地図を眺めるリュナ。 何か思い立ったかのように顔を上げると、地図上の一点を指さした。 「村の近くの廃教会です。あの人数を逃がすなら...ここしかないかと」 「じゃ、行くか」 そうして俺達は、カイルを連れて、森の中にある廃教会へ向かった。 ■ ■ ■ ■ ■ 森をしばらく歩いていると、石造りの小さな建物が見えてきた。 その横には、エーデルの馬車が止められている。 カイルと手を繋ぎ、教会の扉を開いたものの、村人たちはカイルを見るなり腕を抱えて怯えだす。 仕方ない。つい先程まで暴れていた人物と同じ見た目をしているのだから。 「もう大丈夫だみんな。カイルは乗っ取られていただけ。彼は何も悪くない」 俺の言葉を聞き安堵する者も居れば、疑う者も居る。 しかしカイルの両親は、すぐに駆け寄り抱きしめた。 「カイル...!」 「お父さん...」 先にカイルを抱きしめた父も、後から続いた母の目にも、涙が浮かんでいる。 この光景を目の当たりにした村人の中に、もうカイルを疑う者は居なかった。 そんな感動の再会を喜び合っていると、エーデルが歩み寄ってきた。 「なあユウリ...一体何があったんだ?」 「少年が悪者に乗っ取られた。それ以外は正直分からねえ...」 ユルギスの目的や正体。口にした単語の意味など。 疑問を数え出せばきりが無い。 ただ今は、カイルを元に戻すことが出来た戦果を喜ぼう。 疑問の一つや二つなど、後からいくらでも解決できるのだから。 ■ ■ ■ ■ ■ その後俺達は、カイルの両親に深々と感謝をされ、再び宿屋へ戻った。 エーデルは村人達との祝勝会に行っていて、部屋には俺とリュナの二人きり。 今日のユルギスが口にした、見知らぬ言葉について議論を進めていた。 「あいつが言った”真世旅団”って組織。リュナは何か知ってるか?」 「いいえ、まったく...。見当もつきません...」 この世界の事に詳しそうなリュナでも知らないとなると、表向きには活動しない悪の秘密結社...って感じだろうか? どちらにしても、善意を持った組織には到底思えない。 「あーあ...分かんない事ずくしだ...」 そんな戯言を口にして、ベッドに背面ダイブすると、宿屋の扉が開かれた。 「あの...」 扉の端から、ちょこんと顔を覗かせているのはカイルだった。 「その...話がありまして」 「話?」 「はい...」 不安そうに下を向くカイルに、わしわしと頭を撫でてやると顔を上げて話を続けた。 「僕を、アスタリオンまで連れて行ってくれませんか?」 カイルの唐突な願いに、俺とリュナは思わず顔を見合わせる。 こんな小さな少年が、アスタリオンに何の用だ? 「あの国の...騎士学校に入学したいんです!だから...僕を連れて行ってくれませんか...?」 「騎士学校?」 「はい...。昔から、騎士になるのが夢で、ずっとアスタリオン王国に行ってみたかったんです。 でも、うちにはお金が無くて...夢を諦めかけていました」 なるほどな───そんな時に俺達が来たから連れて行ってほしいと…… 「リュナ、どうする?」 「そうですね...カイル君一人くらいなら増えても大丈夫だと思います」 「という事だから、良いよ。一緒に行こうぜ」 「本当ですかっ!ありがとうごいます!」 目を輝かせながらお礼を言うカイルは、俺に向かって深々と頭を下げた。 まったく、この子は本当に純粋でいい子だな。 俺がカイルくらいの頃は、そのクソガキぶりを咎められたものだ...。 それも今になっては、いい思い出だが。 「騎士学校に入ったらいい騎士になって、また私達に会いに来てくださいね」 「はい!」 そう言葉を交わすと、カイルは嬉々とした足取りで宿を出た。 旅の仲間がまた一人。増えた瞬間だった。 『騎士学校』、か。 随分とスパルタなしごきを受けそうな響きだが、カイルについていけるのだろうか。 頑張ってくれ───と、心の中で応援する事しか、今の俺には出来ないな。 「ふぁぁ〜あ...私はもう眠いです」 「それもそうだな...」 思えばこの世界に来てからした事と言えば、死と戦いばかり... 疲れない方がおかしいという程に、ハードな毎日だった。 俺達はまた、布団に潜り寝床を二人で温めた。 その時、一瞬だけ見えたリュナの顔が、少しだけ。 少しだけだぞ? 愛おしく感じられた
今回も、最後まで読んで頂きありがとうございました! 良ければ評価やブックマーク等お願いします。 次回は16時更新予定です。

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