お前は今日も死んでいる / 第9話

8話  『ご都合主義は通じない』

「フランメ・ヴァント...!」 突然の詠唱に、俺は思わず飛び起きる。 寝起きのぼやけた目を擦り、音の方へと目を凝らす。 頬に汗を垂らし、必死に杖を構えるリュナの前にあったのは、六角形が連なる半球。 リュナと俺の体を囲むように広がるそれは、俺の知る限りでは防御魔法。 一体何から守っているのかと気になり、視線の先を覗いてみると…… 「カイル...?」 リュナの防御に、大きな鎌を繰り返し打ち付けていたのは、昨日森で助けた少年カイルだった。 昨日の無垢な少年の面影は無く、その目つきは鋭利さを増している。 それに対して、ぐんと上がった口角が、何処か不気味に感じられた。 「どういうことだよ...」 「ユウリ様...下がって!」 リュナの言葉に、俺は思わず身構える。 彼女も防御を固めるが、鋭い鎌の矛先は、彼女の腹部を切り裂いた。 「リュナ!!」 鮮やかな血しぶきを上げ、こちらへ倒れこむリュナを、俺はそっと受け止める。 ── 何が起こってるんだ…… あまりに唐突なこの状況を、俺は理解し切れない。 腹を裂かれたリュナは、嗚咽混じりに口を開く。 「村の住民は...エーデル様が避難させてくれました...」 「おい、リュナ...どうなってるんだよ」 「私にも...分かりません...いきなりこの子が...暴れだして...」 リュナの指先がかすかに震えながら、俺の腕を掴む。 息も浅く、目の焦点が合っていない。 傷の深さを見なくても、致命傷であることは明白だった。 「おい、カイル...何しやがるんだ!」 俺の怒号を聞くと、カイルと見られる少年は、気だるそうに言葉を続けた。 「"カイル"、という名で呼ばれるのは、もう飽きました」 「...は?何言ってるんだよ...」 こいつはカイルじゃないのか? でも、そうだとしたら誰なんだ...? 「仕方が無いですね...名を名乗って差し上げましょう」 少年の意思表示に、俺は静かに息を飲む。 「私は、真世旅団(しんせいりょだん) 調停者。ユルギス・フィラ・キルフリント、です」 カイルの口から発せられた、俺の知らない名前の数々。 【真世旅団(しんせいりょだん)】に【調停者】。そして、【ユルギス・フィル・キルフリント】という人名。 そのどれもが、どこか不穏な響きを纏っていた。 「エーデル様...逃げて」 大量の血を流してもなお、俺を庇おうとするリュナの手を、俺は強く握りしめた。 「お前...どうして」 己の怒りに身を任せ、堅い握り拳を作る。 「おや...何をするおつもりで?まさか、この罪無き少年の身体を傷つけるのでは無いでしょうね?」 ── クソッ、どうすればいい...! リュナが倒れている以上、この場に戦える者はいない。 仮に戦えたとしても...それはカイルを傷つける事になってしまう... 「胸糞悪ぃな...クソ野郎...!」

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