降矢 菖蒲 / 第10話

10.入部…じゃなくて、弟子入りします!

激しく剣をぶつけ合うヤツ等もいれば、そんなヤツ等を見て議論を交わすヤツ等もいる。 実戦ばっかじゃなくて、ちゃんと分析もしてるんだな。 「よっ……よし!」 俺はゴクリと息を呑んで、同じ年頃のグループに近付いていく。 肩と足が強張って、ガタガタと震えているのが分かる。 『負けて、負けて、負けまくってやる!』なんて息巻いていたくせに、いざとなったらこのザマだ。 でも、絶対に歩みは止めない。 ――|未来《前》に進むって、そう決めたから。 「あの、すっ、すみません……」 自分でも笑ってしまうぐらいか細い声になってしまった。 案の定、誰も気づいてくれない――と思ったら、一人だけ振り向いてくれた。 赤髪の男子生徒だ。切れ長で目力はかなり強めだ。 背は俺よりも一回りぐらい小さい。たぶん160センチぐらい。 腰にはショートソードを差している。 俺と同じノーマルタイプの騎士……いや、大分細身だし『斥候騎士』なのかもしれない。 「どうした? あ、便所?」 ガタガタ緊張モードな俺を気遣ってか、ニコニコ笑顔で和ませてくれる。 間違いない。この人メッチャいい人だ……! って、甘えてちゃダメだよな。 自分で自分に活を入れて、ガバッと勢いよく頭を下げる。 「俺も仲間に!! い゛れでくださいッッッ!!?」 「「「「「…………」」」」」 しんっと静まり返る。 ヤベ……力み過ぎた。顔が熱い。死ぬほど熱い。最早泣けてきた。 だっ、誰か、何か言ってくれ――。 「ははっ!! すっげぇガッツ!!」 凄く近くで声がした。 見ればさっきの赤髪が大口を開けて笑っている。 「やる気のあるヤツは大歓迎だ!! なっ?」 「おう! 早速俺と手合わせしようぜ!」 「バカ! 俺が先だ!!」 他の学生達も口々に歓迎の言葉を掛けてくれる。 無理に合わせてる感じはしない。 唯々純粋に歓迎してくれてるんだって……そう思えて。 「……っ」 頬を何かが伝った。これは――涙? 「おいおい! 泣くほど嬉しかったのか?」 「いやっ……これは……」 慌てて拭うけど、全然止まらない。何やってんだ、俺! 折角仲間に入れて貰えたのに、初っ端からこんな……っ。 「ごめんなさい。急に泣いたりして――!」 そっと肩を抱かれた。例の赤髪だ。 「おぉ~、よちよち」なんて言いながら宥めてくる。 文字通りの子供扱い。クソほど恥ずかしい。 門弟のヤツ等の視線もむず痒いし……!!! うおぉぉおお~~!!! 俺は堪らず赤髪の胸を押した。 「よっ、止してください」 「ん~、ベロベロ、ばぁ~」 「っ!」 目と歯をひん剥いて、舌を突き出してくる。 唐突&あまりの気迫に思わずビビっちまったが。 「……っ、…………」 赤髪がぷるぷるしていることに気付く。 鼻の穴はひくひくしていて、その奥にある目は「早くしてくれ!」と言わんばかりに涙目になっている。 「ふっ……ははっ……」 気付けば俺は吹き出すようにして笑っていた。 赤髪はしたり顔だ。 俺にはそれがまたおかしくて、一層声を大にして笑う。 「お前、名前は?」 「陽翔」 「じゃ、ハルな」 「……お前は?」 「コルム」 「ははっ……じゃあ、コルだな?」 「おう!! よろしくな」 左手を差し出して来る。 その手を取ると、ぶんぶんと勢いよく振られた。 かと思えば、ドンッ……ドンッ!! と次から次へと何かが圧し掛かって来る。他の門弟のヤツ等だ。 「俺はピッチだ! よろしくな!!」 「俺はアンガス!」 「俺はシリル!」 「俺はマイケルだ!」 「わっ!? ちょっ!!? 重いって! おわっ!? わわっ!!」 支えきれず、終いには地面に倒れ込んでしまった。 痛い。それにホコリまみれだ。 「~~っ、何すんだよ! 危ねえだろうが!!」 「ははっ! 何だよ、お前! お貴族様みたいなこと言うんだな」 ピッチって言ったか? 黒髪のモジャモジャ頭の男子がケラケラと笑っている。 改めて見てみると……少なくとも俺の周りにいる連中は、野暮ったいヤツ等ばっかりだ。 「ここには貴族科の生徒はいないのか?」 「はっはっは! いるわけねえだろ。何言ってんだ?」 「そもそもアイツ等が剣を握るのなんて、年に数回ぐらいのもんだよ」 青髪の男子・シリルが補足してくれる。 直後、俺はあまりの衝撃に言葉を失った。 それじゃあアイツは――ゼノスはどうしてるんだ? |女神の導き《使徒センサー》が示す通り、ここにいるのは間違いない。 ただ、剣は握ってない。ほぼ引退状態にあるってことか……? 「遊んでても『騎士学卒』の肩書が貰えるんだ。ホント、いいご身分だよな」 毒づいたのは何とあのコルだった。 嫌悪感がひしひしと伝わってくる。 貴族科の学生に……いや、貴族に何か恨みがあるのかもしれない。 「何だ。もう打ち解けてしまったのか」 バルダス先生だ。 褐色肌に彫の深い顔立ちをした白髪(地毛)の騎士。 出会ってまだ一時間も経っていないのに親しみを感じる。 それは言うまでもなく、俺が先生のことを信頼しているから。 ……って、改めて言語化するようなことじゃねえだろ! 恥ずかしい!! 俺は小さく咳払いをして、波打つ唇を引き締める。 「まだきちんと挨拶が出来ていないので、少しだけお時間をいただいてもいいですか?」 「構わんよ。みんな来てくれ」 先生が門弟のみんなを呼び寄せてくれる。 少なくとも五十人はいる。九割が男で、一割が女子だ。 当然俺にはこんな大勢の前で話した経験なんてない。 おまけにこれから話す内容は決してポジティブなものじゃない。 場合によってはヘイトを買うことになるだろう。 ――何も大っぴらにする必要はないんじゃないか。 この期に及んで湧き出す弱気な内なる声をねじ伏せて、強引に口を開く。 「谷口晴翔です。先日異界から来ました。自分で言うのもなんですが、その……勇者です」 門弟のみんながざわめき出す。 向けられる感情は驚き、好奇、疑念……そんなところか。 ……ヘコんでる場合じゃないぞ。 真摯に受け止めて、次に繋げないと。 痛むハートを擦りつつ、一呼吸置いて核心に入る。 「お恥ずかしい話、俺はまだまだ未熟です。女神から授けられた剣も、ろくにものにできていません。ですから……お願いします。どうか皆さんの胸を貸してください」 半ば顔を隠すようにして頭を下げた。 ざらりとした視線が俺の全身を撫でていく。 逸る鼓動。押し寄せる後悔。 もっとマシな言い方があったんじゃないか。 もっとマシな言い方が出来ていれば、みんなの反応もまた違ったんじゃないか。 そんな一人反省会を延々と繰り返す。 「っ!」 肩に何かが乗った。 褐色でゴツゴツとした大きな手。バルダス先生の手だ。 先生は俺の頭を優しく撫でるようにして微笑むと、門弟のみんなに目を向ける。 「陽翔の剣は実に型破りだ。敢えて軌道を読ませ、間で翻弄する。対人戦においては、これほどやりにくい相手はいないだろう」 「確かに」と一部の門弟達が賛同し出す。 いい流れだ。けど、これはもう完全に先生のお陰だな。 有難いけど、ちょっと複雑だ。 文句を言える立場じゃないのは分かってるけど。 「加えて陽翔の剣は、魔物で言えばバジリスク系統や、尻尾での攻撃を得意とするスラッシュテイル系統の魔物のものに近い。陽翔と鍛錬を積めば、必然的にそういった魔物への対応力も高めることが出来るだろう」 「「「おぉ!!」」」 「自身の剣を一層磨き上げると共に、勇者様を鍛え上げようではないか!!」 「「「おぉーーー!!」」」 大歓声が巻き起こる。 でも、コルだけはどこかぎこちなかった。 呑み込み切れていない……いや、俺が勇者だと知ってガッカリしたのかもしれない。 仲良くなりかけていただけにくるものがある。 だけど、こればっかりは仕方がない。 きちんと受け止めて静観しよう。 ある程度強くなれば、また仲良くしてくれるかもしれないし。 ……なんて、女々しい期待を抱きつつ、俺は先生の指導のもと稽古を始めたのだった。 「はぁ……はぁ……はぁ……ぐぁ~っ……」 稽古を終えた俺は地面に大の字で寝そべった。 見上げれば燃えるような赤い空と、爽やかな群青色の空が広がっている。 大分夜に近付いてきたな。 体はもうクタクタだ。 けど、心は驚くほどイキイキしている。 こんないい汗をかいたのは久々だ。 充足感から自然と口角が上がっていく。 「そういやエステラのヤツ、戻ってこない……な……?」 その時、不意に視界の隅に眩いきらめきが映り込んだ。 まっ、まさか……? 期待と高揚に突き動かされるまま、重たくなった体を持ち上げる。 いた。いた! いた!!! きらめきの持ち主を視界の中心に捉えた瞬間、俺は嬉しさのあまり声を上げた。

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