遥 / 第50話

50話 戦闘開始

 住宅街近くの河川敷に到着すると、俺――橙真と風宮さんは前へ踏み出した。 「日向、俺が前線に出る。援護を任せたぞ」 「分かりました! 任せてください!」  その瞬間、全身に炎を纏った巨人型の邪神体が、地面を激しく蹴った。  轟音とともに、燃え盛る巨大な炎の大剣が風宮さんへ振り下ろされる。  風宮さんは落ちてくる刃を冷静に見極め、刀を抜いて真っ向から受け止めた。  刀と大剣がぶつかり合った瞬間、凄まじい衝撃が周囲へと走る。  地面には網目状の亀裂が広がり、風宮さんはそのまま後方へ吹き飛ばされた。 「風宮さん!」  俺は迷わず風宮さんへ向けて炎を放つ。  炎がクモの巣状に広がり、風宮さんの身体を受け止めると、そのまま落下の衝撃を和らげた。 「日向、助かった!」  俺はすぐに風宮さんの元へ駆け寄ろうと走り出す。  しかし――もう一体の土砂災害型邪神体が、三つの首を一斉にもたげ、大地を揺るがす咆哮を上げた。 「ワオオオオォォッン!!」  次の瞬間、河川敷の地面が激しく揺れ動く。  深い亀裂が凄まじい勢いで地表を走り、俺と風宮さんの間へ到達した。  大音響とともに地面が崩れ落ちていく。 「……っ! なんだ!」  俺は咄嗟に後ろへ飛び退き、風宮さんも素早く亀裂から距離を取った。  深い亀裂が、俺と風宮さんを完全に分断する。  風宮さんは亀裂の向こう側から、こちらを見据えて叫んだ。 「日向! 俺がそっちへ行くまで耐えてくれ!」 「分かりました!」  俺は炎を纏う邪神体へ向き直り、静かに両の拳を構えた。  一方、風宮さんも三つの首を持つ邪神体へ刀を向け直した。 ***  俺――蒼太と花江さんが到着した海岸には、荒れた不気味な波が砂浜へ激しく打ち寄せていた。  二体の邪神体が、こちらへ歩みを進めてくる。  花江さんは後方で太陽の光を手に集め始めた。  俺は前へ出ようと、強く踏み出す。 「――ザァァン……ザァァン……」  大きな波が岸へ荒々しく打ち寄せる。 「……っ」  俺の足がピタリと止まった。  耳に直接響いてくる、不気味な波の音。  その音を聞いた瞬間、胸の奥へ嫌なざわめきが広がっていく。  今でも決して思い出したくない、あの過去の記憶が一瞬だけ脳裏をよぎった。  ハー、ハーと俺は乱れた息を吐き出す。 「蒼太くん!」  花江さんの叫ぶような声が響く。  俺はハッと顔を上げた。  だが、その時にはもう、狼型の邪神体が目の前まで迫っていた。  俺は咄嗟に砂を蹴って横へ身体を飛ばし、回避した。  鋭い爪の攻撃を紙一重でかわし、着地するとすぐに目の前の邪神体を見据えた。  荒くなった呼吸を、ゆっくりと整える。  その奥では、水を纏った巨体の邪神体が、ゆっくりと太い腕を持ち上げていた。 ***  小学校では、校庭を強風が渦を巻いて吹き抜けていた。  月影さんは影を纏い、すっと一歩前へ出る。 「黒き濃霧型の邪神体は俺がやる。碧羽は巨体の邪神体を頼めるか」 「はい。分かりました」  私は――碧羽は静かに弓を構え、指先を弦にかけた。  黒き濃霧型の邪神体が、一気にこちらへ跳び出してくる。  だが次の瞬間、月影さんの姿が足元の暗い影の中へと沈んでいった。  標的を見失った邪神体は、警戒するように周囲を見回す。  一方、嵐型の邪神体が、私へ向かって太い腕を振り下ろした。  激しい突風が校庭を駆け抜ける。  私は軽やかに横へ跳び、その風圧をかわした。  着地と同時に矢を番え、弦を限界まで引き絞る。  風を纏った邪神体を、真っ直ぐ見据えた。 ***  炎を纏う巨人型の邪神体が大地を力強く蹴り、巨大な炎の大剣が俺に向かって真っ直ぐ振り下ろされる。  俺――橙真は紙一重で横へ跳び、攻撃を回避した。  炎の大剣は土の地面へ叩きつけられ、河川敷を深く抉り取る。  灼けるような熱風が全身を襲う中、俺は体勢を立て直し、拳を固めて距離を詰め始めた。  一方、三つの首を持つ邪神体と対峙する風宮さんの足元が、咆哮とともに大きく崩れ去る。 「っ……厄介な能力だ。早く倒して日向に合流しなければ、あいつが何をするか分からんからな……」  風宮さんは崩れる地面を強く蹴って空中へ逃れながら、刀を構え直して邪神体を睨みつけた。 ***  狼型の邪神体が、再び俺へ飛びかかる。  俺――蒼太は一歩下がり、鋭い爪を間一髪で避けて距離を取った。 「蒼太くん! 次は左から来ます!」  後方で強く輝く光を集めながら、花江さんが的確に指示を出す。  俺は反射的に右へ跳び、直後に振り下ろされた邪神体の太い尾を回避した。 「ありがとうございます!」  短く感謝を返した直後、前方の海面が小山のように大きく盛り上がる。  水を纏った邪神体が腕を振り下ろし、巨大な水流の波が押し寄せてきた。  俺は腹に力を込め、迫り来る大波を見据えながら、ゆっくりと息を整えた。 ***  嵐型の邪神体が両腕を広げ、校庭中の砂埃を一気に巻き上げて突風を起こす。  視界を奪われそうになりながらも、私――碧羽は弓をしっかりと握りしめた。 (視界が悪くて、ほとんど見えない……。でも、今の私なら風の流れを読める……!)  周囲の音を聞き、空気の揺らぎを感じ取る。  視界が塞がれていても、風の流れなら感じられる。  わずかに捉えた影へ向かって、私は静かに弦を離した。 「――シュッ!」  矢は風を切り裂き、邪神体の肩を深く掠めた。  一方、もう一体の邪神体の足元の影が、不自然にゆらゆらと揺れる。 「――そこだ」  影から静かに姿を現した月影さんは、邪神体が振り向くより早く、再び漆黒の影の中へと消えていった。 ***  河川敷、海岸、小学校――三つの戦場で、戦いはさらに激しさを増していた。  六人の覚醒者は、それぞれの場所で立ちはだかる邪神体と向き合い、決して足を止めることなく前へ進み続けていた。  そして――それぞれの戦場で、戦いは次の段階へと突入しようとしていた。

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