遥 / 第14話

14話 聞きたいこと

 あの激しい帰り道から数日後の、金曜日。  昼休みのチャイムが校内に響き、食堂は今日も多くの生徒たちで賑わっている。  俺たちは、いつものテーブルを囲んでいた。  蒼太は大盛りの唐揚げ定食、俺――橙真は日替わり定食、碧羽はさっぱりとしたうどん。そして咲は、母親が作ってくれた弁当を広げている。  蒼太が咲の弁当を見て、羨ましそうに言った。 「咲、いつも弁当だよな。いいなー!」 「母がいつも作ってくれてるので」 「いいなー! 俺も手作りの弁当がよかったなー」  蒼太は唐揚げを豪快に頬張る。 「あ、そうだ。俺も毎日自分で弁当作ればいいのか」 「お前、朝早く起きられないだろ」  俺が即答すると、蒼太は動きを止めた。 「っ……否定できねぇな」  碧羽が小さく笑い、咲もつられて笑った。  少し前まで漂っていた緊張感も、今ではすっかり消えている。  こうして四人で笑い合いながら昼休みを過ごすことが、いつの間にか当たり前になっていた。  蒼太が満足そうに箸を置く。 「それにしても、やっと金曜だなー!」 「明日も午前中は部活があるんだけどね」  碧羽が苦笑する。 「陸上は土曜の午前練習がきついんだよな」 「弓道も午前練習あるよ」 「そうなんだな。無理はするなよ」  俺が言うと、蒼太がニカッと笑った。 「誰のせいで、こんなに無茶してると思ってるんだ?」 「……さあ、俺は分からないかな」  俺がとぼけて返すと、四人の間に笑い声が広がった。 「で、今日の部活は軽めなのか?」 「まあ、軽めではあるな」 「私もいつも通りだと思う」 「じゃあ、俺は先に帰ってるわ」  話が一段落したところで、咲が俺に向き直った。 「あの、橙真先輩! 一緒に帰りませんか?」 「いいよ。それじゃあ放課後、昇降口でな」 「はい!」 ***  放課後を告げるチャイムが鳴り、担任の先生が教室から出ていく。  それを合図に、教室は一気に活気に包まれた。  私――咲は急いで帰りの支度を済ませていた。  すると、友達が近寄ってくる。 「おーい、咲。今日は一緒に帰れる?」 「ごめんね。今日も先に約束があるんだ」 「そっか。それじゃ、また明日ね!」 「うん!」  笑顔で返事をすると、私はかばんを抱えて教室の扉を開け、そのまま昇降口へ向かった。 ***  放課後の昇降口へ向かうと、そこにはすでに橙真先輩が待っていた。  壁に少しもたれながら、静かに外の景色を眺めている。  その姿を見つけた瞬間、胸が少しだけ高鳴った。  私は嬉しくなって、小走りで駆け寄る。 「待たせましたか?」 「いや、俺も今来たところ」  私たちは並んで、校門へ向かって歩き出した。  夕暮れの住宅街を、初夏の風が吹き抜けていく。  しばらく静かに並んで歩いていたけれど、私はずっと胸の中に残っていた疑問を抑えきれず、口を開いた。 「そういえば……」 「ん?」 「先輩たちの初めての戦いって、本当はどんな感じだったんですか?」  橙真先輩は少し驚いたように、歩みを緩めた。 「急に聞いてきたな」 「なんだか、この前の話を聞いてからずっと気になって……。この前、蒼太先輩が言っていたじゃないですか。『俺たちなんて最初の頃はかなりボロボロだった』って」  橙真先輩は、少しだけ空を見上げた。 「まあ、確かに最初の頃はボロボロだったかな」 「やっぱり、怖かったんですか?」 「そりゃな。蒼太も碧羽も、今みたいに強くはなかったし」  その言葉に、私は橙真先輩の横顔を見つめた。  今では、怪物を前にしても迷わず仲間を守り、私たちを導いてくれる先輩たち。  そんな三人にも、何もできなかった頃があったのだ。 「私、もっと聞きたいです!」 「長くなるけど、いいか?」 「大丈夫です!」  橙真先輩は少し考えてから、静かに言った。 「じゃあ今度、みんなで集まった時に話すか」  私の表情が一気に明るくなる。 「本当ですか!?」 「ああ」  橙真先輩はポケットからスマホを取り出すと、短いメッセージを打ち込んだ。 『明日の午後って、空いてるか?』  ほどなくして、橙真先輩のスマホがブブッと震える。 『午前中は無理だけど、午後からなら空いてるぞ』 「返信、すごく早いですね!」 「あいつはいつもこんな感じだな」  続いて、すぐに次の通知音が鳴った。 『私も午後からなら大丈夫だよ』  橙真先輩はスマホをポケットにしまう。 「これで決まりだな」 「全員で集まれるんですね!」  橙真先輩も、少し嬉しそうに笑ってくれた。  やがて、いつもの分かれ道に着く。  橙真先輩が足を止めた。 「じゃあ、また明日」 「はい! また明日です!」  自分の家へ向かう帰り道、私の頭の中は明日のことでいっぱいになっていた。  先輩たちが初めて経験したという、あの怪物との戦い。  そして、今の頼もしい三人になるまでに、どんな時間を過ごしてきたのか。  明日、その話を聞くことができる。  そう思うと、胸の奥がじんわりと熱くなり、高鳴る鼓動をなかなか抑えられなかった。  明日は、きっと今まで知らなかった先輩たちの一面を知ることになる。  そんな予感を胸に、私は夕暮れの道を足取り軽く歩いていった。

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