遥 / 第12話

12話 4人の力

 傾きかけた日差しが、斜めに差し込む工事現場。  吹き抜ける風の中、黒い巨体の怪物が俺たち四人を見下ろしていた。  岩のように強固な両腕。  全身を激しく包み込む暴風。  そして、不気味に赤く光る目。  緊迫した空気の中、蒼太が一歩前へ出た。 「俺が前に出て、あいつを押さえるぜ!」 「蒼太。頼む!」  俺――橙真は、駆け出そうとする蒼太の肩にそっと手を置く。  手のひらから溢れ出した温かな光が、蒼太の全身を包み込んでいく。 「耐久を上げるぞ。でも、無理はするなよ」  蒼太は全身を満たす光を確かめるように、グッと拳を握りしめた。 「分かったぜ!! でも、なんか負ける気がしねぇな!」  頼もしい笑みを浮かべる蒼太を見送り、俺は続いて碧羽へ向き直った。 「碧羽には速度を乗せる!」 「ありがとう!」  光が碧羽を包み込む。  瞬く間に足元へ風が集まり、長い髪がふわりと揺れた。 「蒼太の言う通り……いけそうな気がする!」  碧羽は軽やかに空中へ浮かび上がった。  俺は最後に、隣に立つ咲を見つめる。 「咲は俺の近くにいてくれ」 「はい!」  咲が頷いた瞬間、蒼太が勢いよく地面を蹴った。 「行くぞーー!!」  怪物の巨大な腕が、頭上から振り下ろされる。  ドォォン!!  地面が豪快に砕け散った。  だが、蒼太は間一髪で横へ跳び退きながら走り、指先から水滴を飛ばす。  水滴は白い氷へと変わり、怪物の足元を一瞬で覆い尽くした。  だが――。  バキィッ!!  怪物は強靭な腕力で、氷を力任せに粉々に砕く。 「俺の氷を砕くとか……こいつ、力強すぎだろ!」  上空の碧羽は、鋭い視線で怪物の動きを見極めていた。  氷を砕いた怪物は身を低く沈めると、弾丸のような勢いで空へ跳び上がる。  強烈な風圧が、工事現場を激しく吹き抜けた。  跳び上がった怪物の身体――激しく渦巻く風の奥、その胸の中央。  咲の目には、そこにほんのわずかな赤い光が見えていた。 「……!」  咲は思わず前へ駆け出し、怪物の真下へと進む。  だが、落ちてくる巨大な影が一気に大きくなっていく。  危険に気づいたものの、咲の足が恐怖で竦んで動かなくなった。 「咲!!」  恐怖で固まる咲の腕を、俺は強い力で引き寄せた。 「危ないっ!」  咲を抱え込むようにして、後方へ引き戻す。  ドォォォン!!  直後、怪物が激しい衝撃とともに着地した。  地面が派手に砕け、鋭い瓦礫が飛散する。  俺は咲を庇うように前へ出た。 「咲、俺の後ろに下がってろ!」  俺は叫びとともに、赤々と燃える炎が地面を走る。  次の瞬間、炎の壁が立ち現れた。  飛んできた岩の破片が、すべて炎に阻まれて焼き消されていく。  咲が息を呑んだ。 「橙真先輩……ありがとうございます」 「いいって。それより、大丈夫か?」 「はい! ……あっ、でも、核は見えました! 胸の中央です!」 「……今の状態じゃ、狙うのは難しいかもな」 「……それじゃあ、転ばせればいいんじゃないですか?」 「それありだな」  咲の声を受け、俺は大声で指示を飛ばした。 「蒼太! そいつ、地面に転ばせることってできるか!」 「ああ、もちろんやってやる! 任せとけ!」 「碧羽は風で蒼太のサポートに回ってくれ!」 「分かった!」  蒼太が怪物の足元に向けて水滴を飛ばす。  水滴は冷気を纏い、足元を一瞬で凍らせる。  足を取られた怪物が、大きく体勢を崩した。  そこへ、上空の碧羽が強力な上昇気流を一気に巻き起こす。 「今だ、倒れて!!」  ドォォォン!!  ついに怪物が、仰向けに地面へ倒れ込んだ。  蒼太が両手を地面につく。  地面から伸びた氷が、怪物の全身を瞬く間に固定していく。 「碧羽、今だ!!」  上空の碧羽が弓を引き絞る。  風が矢の先端へと、一気に集まっていく。  咲が地上から叫んだ。 「核はそこです!」 「咲、ありがとう」  一瞬、吹き荒れていた風が、ぴたりと止んだ。  息を呑むような静寂。  ――ヒュッ。  放たれた矢が風を切り裂き、まっすぐに胸の中央の核を射抜く。  ――パリンッ!!  ガラスが砕けるような澄んだ音が響いた。  怪物の目から光が消える。  全身を包んでいた風が霧散し、黒い巨体が光の粒となって空へ散っていく。  そして――。  ドゴォォォン!!  怪物が倒れていた地面が、一気に崩落した。  土煙が工事現場を覆い尽くす。  やがて煙が収まると、巨大な穴が工事現場の真ん中にぽっかりと開いていた。  初夏の静かな風が、その穴の上を通り抜けていく。  蒼太が膝に手をつき、大きく息を吐き出した。 「……終わったのか?」  碧羽がゆっくりと舞い降りる。  咲は開いた穴を、不思議そうに見つめていた。  俺はみんなの元へ歩み寄る。 「みんな、怪我はないか?」 「俺は平気だぜ」 「私も大丈夫」 「はい! 大丈夫です」  橙色に染まり始めた空から、柔らかな光が降り注ぐ。  戦いを終えた俺たち四人を、夕暮れの光が静かに照らしていた。

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