⛰️終末 金剛山 / 第32話

Echo 00 『 深淵の産声 』

異世界転生ナシ x 学園日常ハーレム x 異能ファンタジーバトル x SF怪異ホラー 平成の黄金期に毒された読者大歓迎 毎日19:00に更新、ラストまで予約投稿しているためご安心ください。  * * * サントラ イメージソングはこちらからどうぞ https://open.spotify.com/playlist/6bFZdpvxKZC0kdREsooTmc?si=a1feec7479d64356 対応番号 : 1 (オープニング) / 2 (Echo 00)
 |溺《おぼ》れる。沈む。沈む、沈む……。  耳の奥で、ぼこり、と|鈍《にぶ》い水音が|弾《はじ》けた。  |奈落《ならく》の底へと引き|摺《ず》り込まれる感覚が、|濡《ぬ》れた|縄《なわ》のように全身へ|絡《から》みつく。|冷酷《れいこく》な|闇《やみ》が|皮膚《ひふ》の|隙間《すきま》から体温を|奪《うば》い、肺の奥へ冷水が|染《し》み|込《こ》んでいった。  ———  |栄光《えいこう》の|頂《いただき》を夢見たはずの|四肢《しし》は、今や冷たい床に|這《は》いつくばり、ピクリとも動かない。|抗《あらが》う|術《すべ》などなかった。|皮膚《ひふ》を|締《し》め付ける鉄の|感触《かんしょく》だけが、自ら命を絶つ自由さえ|奪《うば》われた|永遠の捕囚《ラビリンス》であることを告げていた。  指先に焼けるような痛みが走った。  |湿《しめ》った|鉄臭《てつくさ》さが鼻を刺す。ここは|牢獄《ろうごく》だ。|天井《てんじょう》の|電灯《でんとう》が白く|明滅《めいめつ》するたび、ジジッ、と|耳障《みみざわ》りなノイズが|鼓膜《こまく》を|掻《か》いた。  |拘束具《こうそくぐ》に流された電流が、何度も神経を焼いていく。|焦《こ》げた肉の匂いが|微《かす》かに|漂《ただよ》った気がした。歯を食いしばるたび、奥歯が|軋《きし》む。  それでも、声は出さない。  喉の奥まで込み上げた|絶叫《ぜっきょう》を、血の味と一緒に飲み込んだ。この|理不尽《りふじん》に|屈《くっ》した|瞬間《しゅんかん》、頭の|芯《しん》からパキリと不吉な|亀裂《きれつ》が走る予感がして、奥歯が|砕《くだ》けんばかりに|軋《きし》んだ。  裁判長が|冷酷《れいこく》に|木槌《きづち》を|掲《かか》げる。 「犯人は|国家転覆罪《こっかてんぷくざい》を|犯《おか》したとして、死刑を|宣告《せんこく》する」  |木槌《きづち》が振り下ろされるより早く、背後から|罵声《ばせい》が押し寄せた。|傍聴席《ぼうちょうせき》から一人の男が身を乗り出す。  —— 有罪は当然だ。こいつは|出来損《できそこ》ないのクズだ!  周囲の連中もそれに|同調《どうちょう》して騒ぎ立てた。  —— 証拠が足りない、死刑はやりすぎだ。  怒号とざわめきが、|濁《にご》った熱気となって背中へまとわりついた。  耳の奥で、じりじりと肉が焼けるような|幻聴《げんちょう》が|響《ひび》く。爪が手のひらに食い込み、どろりとした生温かい血が指の|隙間《すきま》から床へと|滴《したた》り落ちた。  誰一人として、俺を見ていない。  視線は皆、別の場所へ向いていた。  |隣人《りんじん》の|顔色《かおいろ》。|世論《よろん》。|保身《ほしん》。自身の未来。  全員が、自分自身の立場を守るために声を上げている。  耳を打つ|木槌《きづち》の音や|罵声《ばせい》は、すでに意味を持たないただのノイズだった。  ここにあるのは|裁《さば》きではない。  —— 処理だ。  俺は|乾《かわ》いた|喉《のど》を|震《ふる》わせて笑った。ひび割れた|唇《くちびる》の|端《はし》が切れ、鉄の味が広がる。  |家族《かぞく》に、|師《し》に、そして彼を「罪人」と呼んだ社会そのものに裏切られた。  理不尽な|憎悪《ぞうお》の|連鎖《れんさ》の中で、彼は|人類《じんるい》を|憎《にく》んだわけではない。ただ、あまりにも|純真《じゅんしん》な心で世界を|直視《ちょくし》しすぎたのだ。  その|瞳《ひとみ》に|映《うつ》ったのは、社会の|醜悪《しゅうあく》さが自身の心をも|汚染《おせん》し、人々を|地獄《じごく》へと導いてしまう|凄惨《せいさん》な未来だった。  絶望の|終焉《しゅうえん》。  弱さを認め、現実を打開しようとするほど、|巧妙《こうみょう》なシステムが彼を|絡《から》め取っていく。正義を|叫《さけ》べば、それはいつしか悪へと反転する。  歴史が証明してきた|「栄光の終わり」の再演《アンコール》。  人間は学ばない。  人々の歩みが完全に止まったのを見届けた彼の|瞳《ひとみ》から、すっと|光彩《こうさい》が失われた。小さく震えた指先が|虚空《こくう》を|掴《つか》み、そして、彼を導いていた希望の光は音もなく消え失せた。  システムに|牙《きば》を|剥《む》いた「危険人物」として、彼は存在しない人物へと|葬《ほうむ》られる。知識も、経験も、記憶も——その魂の構成要素をすべて|剥奪《はくだつ》され、彼は海へと|投棄《とうき》された。  全身を叩きつける海水の冷たさ。  肺を刺す塩水の痛み。耳の奥で水圧が|軋《きし》み、視界が青黒く|淀《よど》んでいく。  薄れゆく意識の|端《ふち》で、彼の理性が最後の一欠片を振り|絞《しぼ》って|叫《さけ》んだ。 「女神……さ……ま……」  ———  わだつみの底の真っ暗な|虚無《きょむ》の中に、一点の輝きがあった。  |誘《いざな》われるように、光がこちらに|歩《あゆ》み寄る。  すると、生暖かい何かが全身を包み込んだ。  ぬるま湯のような優しさ。|胎内《たいない》のような|静寂《せいじゃく》。  冷え切った身体が、ゆっくりと溶かされていく。  光が|喉仏《のどぼとけ》から入り、焼けた神経をなぞるように|太陽神経叢《たいようしんけいそう》へ落ちていく。  頭の先から指先まで、全身が白い光で満たされた。  彼は|深淵《しんえん》を脱し、光と一体になって再び現実の海へと|回帰《かいき》した。  だが——。  目覚めた彼の姿は、「人間」ではなかった。  ダイヤモンドのように輝く光の中から声が|降《お》り、俺は思わず身を|硬《かた》くした。 「言葉にしなくていい」  光を見上げるが、声なのに、|鼓膜《こまく》は震えなかった。  直接、意識へ流れ込んでくる。  触れる地面の|感触《かんしょく》は確かだ。ざらついた|硬《かた》さも、冷たさも分かる。  彼にはもはや、言葉を発する口も、音を聞く耳もなかった。  だが《《現実という怪物》》が、再び彼の存在を検知する。  海底から浮上しようとした瞬間、世界の底が抜けた。  氷点下の水流が狂ったように|渦巻《うずま》き、引き裂かれた|深淵《しんえん》の|裂《さ》け目から、|這《は》い出てきたのは|闇《やみ》そのものの質量だった。  息が詰まる。  どろりと|腐汁《ふじゅう》に|濡《ぬ》れた、無数の|漆黒《しっこく》の|触手《しょくしゅ》が伸びる。  それは|数多《あまた》の死者が無念の泥を|捏《こ》ね上げて作った、脈打つ|肉塊《にくかい》の群れ。  じっとりとした墓穴の|腐臭《ふしゅう》を放つ、|冷酷《れいこく》なぬめりが足首を|掴《つか》む。  絶望が走る。  ミチミチと骨を|軋《きし》ませ、肉を|爆《は》ぜさせながら、一瞬にして|顎《あご》から顔の半分までを|浸蝕《しんしょく》していく。 「あ、が……ひっ……!」  絶叫すら、肺から|搾《しぼ》り出された|血泡《けっほう》とともに|闇《やみ》へ消える。  |拒絶《きょぜつ》を許さぬ肉の|触手《しょくしゅ》が|皮膚《ひふ》をじくじくと食い破り、生きたまま神経の奥へと|潜《もぐ》り込んでいった。  脳が|爆《は》ぜる。  |頭蓋《とうがい》の裏側を変え回り、|氷結《ひょうけつ》した無数の爪が肉を|抉《えぐ》りながら記憶の|髄液《ずいえき》を|貪《むさぼ》り|喰《く》う。|抗《あらが》う|術《すべ》など爪の先ほどもなく、内臓が裏返るような|焦燥感《しょうそうかん》の中、底の知れない暗黒の|真空《しんくう》へと|墜《お》ちていった。  意識が狂う。  視界を埋め尽くすのは、|網膜《もうまく》にべっとりとこびりつく、|呪《のろ》わしい絶対的な死の|斑紋《はんもん》。|五臓六腑《ごぞうろっぷ》を震わせる水圧の|轟音《ごうおん》が|脳髄《のうずい》を|容赦《ようしゃ》なく|圧迫《あっぱく》し、|頭蓋《とうがい》ごと音を立てて|圧壊《あっかい》していく。  |最期《さいご》に映ったのは、右目にめがけて襲いかかる|触手《しょくしゅ》。彼の思考は強引に、永遠の|奈落《ならく》へと叩き落とされるようにして|途切《とぎ》れた。  ——— 「ここにいるぞ! 早く引き|揚《あ》げろ!」  遠くで誰かの|怒鳴《どな》り声が|響《ひび》く。  運命の|悪戯《いたづら》のように、彼は|掬《すく》い上げられた。  |戸籍《こせき》を奪われ、記憶を|剥《は》がされた彼に、彼は新たな名を与えられる。  —— |在原《ありわら》 |由記《ゆうき》。 <i1160790|51129>

運営おすすめ

週間ランキング

全ランキング

反応スコアランキング

もっと見る

PV・ブックマークランキング

もっと見る

更新された連載作品

すべて見る
読み込み中…

新着短編

すべて見る
読み込み中…

作品一覧

読み込み中…

作品ダッシュボード

作品全体の公開状況と、読者からの反応をひと目で確認できます。

作品パフォーマンス

選択期間のPVが多い順

上位5作品
ライブラリ

作品の公開状況と構成

最近の更新

最後に編集した作品

要チェック

公開前に確認したい項目

プレビュー
読者に表示される見た目

表示設定

文字サイズ
100%
背景色
縦書き表示
リッチモード
目次
読み込み中…

キーワードを入力して作品を探しましょう

アクセス解析
アクセス解析データは 5分おき に自動更新されます
読み込み中…
ランクイン記録
通知
通知はありません
地形ブラシ
25
スタンプ
ツール
装飾
表示
100%

世界地図

100%

REACTION SCORE

反応スコアの内訳