Sakusaku / 第94話

2: 少女の願いと、50万円。2

  VTuberとは、アニメーションモデルをカメラの前に立たせ、実在の人物がナレーションを担当するインフルエンサーのことです。VTuberは大きく2種類に分けられます。1つ目は、所属事務所を持つVTuberです。所属事務所は、モーションキャプチャカメラやコンピューター機器など、様々な面でサポートを提供し、規模の大きな事務所では宿泊施設を提供する場合もあります。しかし、多くの場合、非常に厳しい規則が設けられています。   2つ目は、独立系VTuberです。独立系VTuberは、コンテンツや発言内容に関して完全な自由度を持ち、所属事務所を持つVTuberほど費用はかかりません。  俺は自然と大声で笑い出した。 「でも当時のお前は本当に目を輝かせてたよ。VTuberの話になるたびに、止まらなくなってたじゃないか」  康彦は美しい所作でグラスにアルコールを注ぎながら言った。 「……夢だから話せるんだよ」  この世界には、夢は決して叶わないという現実が存在する。人の一生が、束の間の思いつきに沿って進み続けることはありえない。  夢を追いかけられない人を、何度も見てきた。それはこの世界では当たり前のことだ。  しかし、「夢を叶えたのに、思い描いた通りにはいかなかった」という人間よりは、まだましだと思う。  ……転ばぬ先の杖とはよく言ったもので、俺はずっとこう思っている。何の望みも、夢も、欲しいものさえも持たない人間は、それはそれで素晴らしいことだと。 「どうなるかわからないこと」に十数年もの時間を費やさずに済むから、幸せに生きていけるのだ。  とはいえ、今の俺には絶対に手放すことのできない大切な責任がある。唯一残った家族である妹の面倒を見ること。彼女が卒業するまで学費を出し続けること。俺みたいに苦労しなくて済む、ちゃんとした仕事に就けるようにしてやること。 「そういえば、星野が来月結婚するって知ってた?」  聞き覚えのある、もう忘れかけていた名前が浮かんだ。 「本当に?……相手は誰なの?」  その美しい名前の持ち主は、俺の中学時代の元カノだったから。 「知らないけど……大学のときに知り合ったらしいよ。相手は輸入車の営業マンで、星野は天文学の研究者をしてるって」  すごいな……今の俺と比べたら、足元にも及ばない。 「俺とは大違いだな」  俺はそう言いながら酒をひと口飲んだ。 「だってお前が岩の隙間に閉じこもってるからじゃないか。人生は残酷だってふりをして、心の中では自分が『なんでもできる』ってわかってる。それは自分を傷つけてるって言う方が近いんじゃないか」 「まあな……」  俺は手首の時計をちらりと見た。  もう夜中の二時だ。終電もとっくに終わっている。歩いて帰るか、タクシーを呼ぶしかない。俺は立ち上がって財布を取り出した。 「あれ……もう帰るの?」  康彦がやや驚いた顔で聞いた。 「ああ……今日はいろいろあったから。もう寝たい」 「そうか……あ、星野の結婚式、来月の二十日らしいよ」  俺は金を払って友人に手を振り、店を出た。  003  大通りで  俺はスマートフォンのアプリでタクシーを呼び、歩道で待った。五分ほどして車が来た。  こんな時間にまだタクシーが走っているのが不思議に思える。きっと俺みたいに終電を乗り過ごすまで飲んでいたオフィスワーカーを迎えに来ているんだろう。でもまあ、自分をしっかり保っていられるなら、少なくとも家に帰れるだけましだ。 「お客さん……今日はたくさん飲まれましたか」  ずっと黙って座っている俺を気にしてか、タクシーの運転手のおじさんが話しかけてきた。 「そこそこ飲みましたね。でも強いお酒じゃなかったんで、まだちゃんと歩けますよ」  六本木と俺の住む祖師ヶ谷は、それなりに距離がある。どうせなら時間つぶしにおじさんと話してみようか。 「ほう……そうですか。私のお客さんはだいたい、酔ってなければ後部座席を汚すかのどっちかですよ」 「それは大変ですね。でも深夜にこうして走ってて大丈夫なんですか?稼ぎもそんなに多くないでしょうに」 「誰がそう言いました?夜だけ走ってるのは確かですが、こんな大きな街じゃ、あなたみたいな夜型の人間もたくさんいますよ」 「そうですね」  とりとめのない話をしているうち、窓の防護ガラスに貼られた炭酸飲料の広告に目が止まった。キャラクターのイラストが描かれていた。 「……」  ずっと話し続けていた俺が黙ったせいか、運転手のおじさんが話しかけてきた。 「その広告が、何かありましたか」  俺は少し驚いたが、すぐに気を取り直した。 「いえ、最近キャラクターをプレゼンターに使うんだなと思って」 「ふむ……私はそういうのはよく知らないんですが、確か……VTuberって言うんでしたっけ。忘れてしまいましたが」  VTuber。今日で二日連続でこの言葉を聞いた。 「孫娘が大好きでしてね。宿題が終わったら、ずっとそれを見てますよ。私も二、三本見ましたが、そんなに刺さりはしませんでしたけど」 「すっかり全国区になりましたよね。ニュース番組によってはVTuberにニュースを読ませてるところもあるって聞きましたよ」 「へえ……そこまで来てましたか。まあ、もう私らの時代じゃないですからね。慣れていかなきゃいけないことも多いでしょうな」  今年で俺は二十五歳。新しい世代と古い世代の狭間にいる年頃だ。だから大人の考えにも、子供たちのたわごとにも、反論したことがない。 「そうですね」  できることなら、勝ち組の側についていたい。
人生とは退屈なものであり、自分の愛することをしていなければ、それは耐えがたいほど味気ないものになってしまいます。私が小説を書き続けているのは、単にそれが心から楽しいからです。小説や漫画は、私の人生に真の彩りを与えてくれました。

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