Sakusaku / 第97話

5:オンラインコンサルティング業務

   006 「これで完了……」  マウスをクリックすると、人生相談サイトが画面に表示された。専用のプログラムで荒らしたちを弾き出す設定も済んでいる。 「あとは待つだけだな……」  実のところ、これまでにも何人か相談に乗ったことはある……とはいえ、そう頻繁でもないが。  昨日、菅原との打ち合わせから帰ってきた後、新たに応募した会社すべてから不採用メールが届いた……本当に気が狂いそうだ。  俺はそれらの不採用通知を眺めながら考えた。 「今ここでビルから飛び降りたら、楽になれるかな……」  でも、やはり同じだ……俺にはできない。  一人だったらよかったのに……そうしたら余計な生活の重荷を背負わずに済むのに。 「待て!何を考えてるんだ!あれは俺たちの妹だぞ!……自分で生きていけるようになるまで、ちゃんと面倒を見ないといけないだろ……」 「でも考えてみれば……どうせ大学に入ったら一人暮らしをするんだろうし……」  それでも生活費は俺が出すことになるんだが…… 「……………これまでの人生、ろくなことしかなかった……生きてていいことなんて、一つもないのか」  両親が誰かも知らない……育ててくれたおじさんもおばさんも死んでしまった……面倒を見てくれる親戚も誰もいなくて、ずっと一人でやってきた……  あげく……誰かが妹を押しつけていなくなった……学校に通いながら働きながら……自分と妹の学費を必死に稼いできた。 「なんで今まで死のうとしなかったんだろう……」  でも、そうしたら妹には頼れる家族が誰もいなくなる……  考えれば考えるほど気が滅入る……もういい、どうにでもなれ。そんなことを考えていたとき、相談の申し込みが一件入った……確認してみると、荒らしではなさそうだ。 「えっと……こんにちは。僕、女子校に通ってる男子生徒なんですけど……女の子と話すのが苦手で……相談に来ました……」  それだけか……うーん……返事してみよう。 「了解……直接会えないか?……対面の方が、いろいろと話しやすいと思うんだけど……」  送信した。コーヒーを足しに行こうとしたら、もう返信が来ていた。 「じゃあ……今日の放課後……ジリンカフェで会いましょう」  こいつ、宮嶋の生徒か……世間は狭いな。  また女子校の前で変質者扱いされても困るので、先にカフェで待つことにした。  店内を見回すと……カップルばかりで埋まっている。 「俺はこの人たちを眺めるだけが関の山か……」  やがて一人の少年が店に入ってきた。左右を見渡して、俺を見つけると近づいてきた。  照れ屋そうな少年で、黒い髪が片目にかかっていた。なぜ女の子と話せないのかは、一目見ればわかった。 「あの……アキトさんですか……」 「そうだよ……君が、悠太くんか?」 「はい……」  俺はアイスコーヒーを頼み、彼にはアイスココアを注文した。 「君が相談したいのは……女の子と上手く話せるようになりたい、ってことだよな?」 「はい……」 「じゃあまず聞くけど……お母さんや先生みたいに、年上の女性とは話せるか?」  異性恐怖症はこれまでも何人か見てきた。こういうタイプの人は、年上とは普通に話せるが、同い年か少し上くらいになると話せなくなることが多い。 「はい……でも同い年だとすごく緊張してしまって……」 「なるほど……女の子には近づけるけど、緊張して話せない、って感じか?」 「はい……正直、誰かと話すのも苦手で……」 「一番手っ取り早い方法は……女友達を一人作ることだよ」 「え……」  俺は菅原に電話した。少し経って、 「もしもーし!」 「!」 「手伝ってほしいことがあるって聞いたけど……何かあった?」 「実はこの子、女の子と話すのが苦手でさ……ちょっと助けてやってくれないか?」 「え……あれ……同じクラスの……悠太くんだよね?」 「あ……え……そ……そうだけど……」  症状はかなり重そうだ…… 「なるほどね……悠太くんって、女の子に慣れてないというより、どう接すればいいかわからないんだと思う……男子校から来たんだっけ?……」  悠太がうなずいた。 「あ……女の子と男の子への接し方って、違うんだね……」 「そうなの……多分悠太くんは、女の子が何を考えてるかわからなくて緊張するんだと思う……少しずつ練習していけば、自信もついてくるんじゃないかな」 「な……なるほど……」  菅原は手を差し出して悠太と握手した。 「じゃあ今日から……友達ね」 「と……友達……そうなの……」  悠太の目に涙が浮かんだ……本当に、女の子に友達になろうと言われただけで泣くのか、こいつ。 「うん!わたしが女の子と話す練習に付き合ってあげる……」  優しくて、愛らしい……それが菅原サメという人間だ。  思えばそれが、俺が酔った勢いで迷いもなく告白した理由なのかもしれない…… 「菅原……一つ頼みがあるんだけど」 「何ですか?」 「悠太くんの問題を解決したのが俺じゃなくて菅原だったんだから……料金は半額にするよ」  言い終わると悠太が立ち上がった。 「はい……じゃ……じゃあ……先に失礼します……あの……明日また会いましょう、菅原さん……」 「うん!また明日ね」 「料金ですか……」  彼女がすかさずこちらを向いた……俺はサイトを開いて見せた。相談している間に、さらに三件の申し込みが入っていた。 「人生相談……25歳の男による……サイト名がダサすぎますよ……」 「知らないよ……SNSをあなたたちみたいに使いこなしてるわけじゃないし……」 「つまり……人に相談に乗って……お金を稼いでるんですか?」 「まあそういうことだよ……どこも雇ってくれないんだから仕方ないだろ……」  彼女は向かいの席に座った。 「アキトさんが連絡してくれたモデル制作の人と話したんですけど……きれいなモデルにするなら、制作費が二十万円くらいかかるって言ってました」 「……いいモデルにしたいんだな」  彼女がうなずいた……俺が知る限り、モデルが良ければ良いほど注目を集めやすくなる……だからこんな高い予算を組んだのだ。 「結構かかるな……でも大丈夫……二人で稼いでいけば……二ヶ月あれば集められるよ……」 「二ヶ月ですか!でもすごく大きな金額ですよ」 「そうだな……」  銀行アプリの通知音が鳴った……俺は画面を見せた。 「五千円!」 「そう……相談料は一回一万円。毎日一人ずつ一万円なら……一ヶ月もかからずに二十万円になる」 「二ヶ月っていうのは、悠太くんみたいに半額になるお客さんもいるからってことですね……」 「その通り……」  彼女は真剣に電卓を叩き始めた……かなりわくわくしている様子だ。 「菅原……一つお願いがあるんだけど……」 「何ですか?」 「バイトを増やして収入を足してくれないか……計画を少しでも早く進めるために」
カウンセリングという職業は、従業員とクライアントの相互依存の関係にあると私は考えています。日本人の仕事は、ストレスを糧に生計を立てることです。クライアントはストレスを発散し、辛い経験を誰かに打ち明けることで気分が良くなり、報酬を得る…それだけです。実に成熟した仕事だと感じます。

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