Sakusaku / 第96話

4: 業務について話し合うための会議を予定する

 005  目も当てられない状態で目が覚めた……正直に言うと、昨夜何を言ったのかほとんど覚えていない。 「はあ………」  目をこすりながら起き上がると、メールが届いていた。 『放課後、ジリンカフェで会いましょう……』  送り主は……菅原……サメ…… 「誰だっけ……」  昨夜、女の子に会ったような気はぼんやりとするのだが……このメッセージを送ってきた子と同じ人物かどうかも定かじゃない。 「放課後って……今何時だ……」  時計を見ると、もう午後だった。 「……そんなに酔ってたのか、俺」  階下に降りると、食卓の上にラップをかけた朝食が置いてあった。  妹のメモには「遅起きしないでくださいね、お兄ちゃん……全部食べてね……せっかく作ったんだから」と書いてあった。  彼女はいつもこうしてメモを残す……俺とはあまり話さないから。 「………はあ……」  朝食をレンジで温めて食べ、それからシャワーを浴びた。  俺は高校時代の制服に着替えた。  長袖シャツに紺色のニットベスト、黒いスラックス。黒いブルーライトカットメガネを額に乗せ、右耳だけピアスをつけた。  この格好をする理由は単純だ……もう一度10代に戻りたいだけ。高校時代に制服を着ていたのも俺だけだったが。 「ちょっと出てきます……」  菅原という女の子にどこの学校か聞いてみると、宮嶋私立女子高等学校と返ってきた。 「あれ……じゃあこの子、俺の後輩じゃないか……」  俺と妹も同じ学校に通っていた。同じ学校の子に会うとは思わなかった……  俺が通っていたのは普通の私立校で、ある程度裕福な家の子しか通えない学校だった。そこそこ整った環境のお嬢様学校だったが、どうやら共学から女子校に変わったらしい。さらに宮嶋私立芸能学校の分校もあり、学内アイドルグループのコンテストも開催されていた。  俺がそこに入れたのは青山という苗字のおかげだった……かつて商家として栄えた由緒ある家柄で、俺と妹は二人とも中学からここの入学枠をもらっていた。 「校門の前で待つのがいいか」  校門の前に立ってタバコに火をつけた。しばらく吸っていると、何かが「やめろ」と告げているような気がした。  しかし俺は気にしなかった……そのまま吸い続けた。  やがて下校のチャイムが鳴り……生徒たちが次々と出てきた。何人かが俺を、まるで変質者でも見るような目で見ていた。 「ここ女子校だったのを完全に忘れてた」  やがて一人の女の子が姿を現した。どこへ行っても忘れるはずのない、短い銀髪の女の子。 「おい……君、菅原か?」 「あ……えっと……」 「菅原さん、この人誰?」「あなた誰ですか?……怪しすぎるから通報しますよ……」 「えっ」  ただ声をかけただけで……通報されるのか。  彼女は慌てて俺の手を掴むと、その場からさっさと離れた。 「ごめんね!今日用事があって……じゃあね!!」 「あ……うん」  何なんだこれは……  ジリンカフェにて。 「聞いてください!……わたし、VTuberのことは他の人に隠してるんで……絶対に喋らないでくださいよ……」 「待って!俺はそんなこと言うつもりは全然ない」  昨夜何をしたのか、少しずつ思い出してきた……俺はこの子にVTuberにしてやると約束していたのだ。  しかも告白までしていた。 「それなら良かったです……はい、これ」  彼女がモバイルバッテリーを返してきた……そうか、昨夜別れるとき持って帰るのを忘れたんだった。 「……一つ聞いていいか?……なんでVTuberになりたいのか、だけど……」 「お答えできません……」  ……何か事情があるんだな……まあいい……他人のプライベートには踏み込まない。 「じゃあ仕事の話をしよう……頭の中にモデルのイメージはある?キャラクターは考えてるか?」  学校へ向かう道中でYouTubeのVTuberをいくつか見てきたので、多少はわかってきた。 「もうモデルのラフは描いてあります……正面、横、後ろ、衣装の各パーツも……」 「へえ……上手いな……」  描かれていたのは、サメの着ぐるみを着た小さな女の子のキャラクターだった。青い髪に青い瞳、鋭い牙。顔立ちは本人に負けず劣らず愛らしい。設定には「サメから人間に変異したため、生活費を稼ぐためにVTuberとして人間社会で暮らしている。ゲームとお絵描きが好き」と書いてあった。 「ところで……サメモデルのVTuberって、もういるんじゃないか?」  たしかかなり有名な子がいたはずだ。 「サメモデルのVTuberは31人もいるんですよ……一人増えたって別にいいじゃないですか」  苗字がサメで、サメも好き……なかなかのギャップだ。 「サメが好きなのか……」 「好きですよ……サメってかっこいいじゃないですか……自慢するわけじゃないけど、世に出たサメ映画は全部観てますから……」 「ほお……」  成田良悟先生(『デュラララ‼』『Fate/strange Fake』著者)かよこの子……もし二人が会ったらサメ映画トークで盛り上がること間違いなしだな。 「じゃあ……モデルのデザインは決まった……絵を描くのは君に任せよう……」 「わかりました……」 「次はモデルを動かせるようにする人……業界に知り合いが多少いるから……連絡してみる。安心してもらえるように、なるべく女性の人に頼んでみるよ……」 「ありがとうございます……」 「機材については……ウェブカメラ、モニター二枚、高スペックのPC……合わせると五十万円は超えるな……」  彼女はまた暗い顔になった…… 「お金のことは俺が何とかする……」 「い……いいんですか!」 「VTuberとして活動を始めたら……自分を売り込んで有名になれ……そうしたら、その時でいいから返してくれ……」 「……頑張ります!……」 「よし!」 「ここまでしてくれて……本当にありがとう」 「まあ……約束したからには……やり遂げないとな……」  彼女はしばらく黙っていた……それからぽつりと言った。 「青山……さん……」 「アキトでいいよ」 「じゃあ、アキトさん……昨夜のこと……告白してくれたじゃないですか……」  タバコが手から落ちそうになった……言い間違いだったと言い訳することもできる……でも一度言ってしまった以上、もうどうにもならない。 「その……すぐに付き合うのはちょっと早い気がするから……とりあえず……お互いのことをもっと知ってからでいいですか……」  様子を見るってことか……まるで婚約みたいだな。 「いいよ……俺は全然構わない……」 「そうですか……」  そして彼女は微笑んだ……花が咲いたように、美しい笑顔だった。
ふと自分の子供時代を振り返ることがよくあるのですが、アキトはそうした「過去を省みる自分」を体現する存在であり、一方のサメちゃんは未来へと突き進もうとする子供です。そんな対照的な二人の心が、彼らを引き合わせたのです。

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