松下一成 / 第19話

7.決めていたこと

 私にとって〝ツバサ〟という言葉は、どこかで聞いたことがあるようなそんな気がした。どこか、懐かしいようなそんな気持ちになる。  そんな風に私が思っていると、彼はそれを確認するように話を続けた。 「…僕たちには、役割があります」 「役割?」  アヤカは真剣な表情で私に話しかけてくる。 「はい。それが今、この僕たちが居る世界から〝飛び立つ〟という役割です」 「飛び立つこと…」  アヤカ達の世界。その情報は私たちの世界にほとんど入って来ない。彼らはどんな生活を普段しているのか、どういう家に住んでいるのか。ということが一切わかっていない。  …でも、そうか。役割…そして、飛び立つこと。それがアヤカ達の世界では、きっと大切なことなのだろうというのは、アヤカの目を見れば直ぐにわかった。 「…それっていうのは、その、アヤカ達にとって、共通の役割なの?」 「そうですね。時期とか時間とか。そういうのも関係あると思いますが、基本的には共通です」  アヤカが言うには、役割、飛び立つこと。そのために必要なツバサを求めることは、私たちと求め合うことになるらしい。それは、アヤカ達の世界にはない物というか、彼らには出来ないことが、私達には出来るからだという。 「じゃああれだ、つまり、ずっと昔なら、私とアヤカは一緒に住んでいて、それでお互いに求め合う物を差し出し合いながら生活をしていて。それで、アヤカはツバサを、私は今の仕事みたいなのが出来る…みたいな?」 「はい、本来ならそういうことになります」  なるほど。今と昔で形は別の物になったけれど、アヤカ達と私達で求め合う物はお互いに手に入れることができる。というのは代わりないってことか。 「ツバサねぇ…」  私は腕組みをして天井を見上げる。…そんなことが出来るのだろうか。誰かに何かを与えるというか、やってあげられることがあるとすれば、物語は作れるけど。ツバサとなると…。  でも、アヤカの纏っていた白い布は、それを私に求めてきたわけで。 「…それでですね、ミカさん。僕とミカさんの関係は、まだ本来の形を取っていないんです」 「どういうこと?」 「僕はミカさんが求めるモノを渡していません。だから、渡さないといけないのです」  …なるほど、そういうことか。言っていることは理解できる。確かに私がもっているこの物語を作ることは、目の前にいるアヤカから貰ったものではない。アヤカの先輩から貰ったもの。  じゃあなるほど。確かにアヤカから貰わないと本来の関係性は成り立たない。  とは言うものの、私は既にアヤカ達から受け取っていて、それで仕事をしている。 「でもアヤカ。私はもう持っているって言うか…こうやって生活してるわけで」  部屋にある本棚、机の上に置いてある写真や絵。銀細工のペン。物語。私の生活はアヤカ達との関係性、それがあっての話になる。 「…いえ、〝それだけ〟ではないはずです」  そう言うと、アヤカは私の後ろの方を指さした。 「ここではない世界のミカさんが、求めているモノを僕が渡します」  …なんだろうか、そのここではない世界の私というのは。そんなのが居るのだろうか。別世界の私が求めているモノ…それがアヤカには見えているのだろうか。 「…なのですが」  少しアヤカは申し訳なさそうな顔をした。 「それを可能に、別の世界へ届けるためには、ミカさん達の力を借りなければ作れない…と言いますか…」 「そうなの?」 「…はい」  私はアヤカの言った「作る」という言葉が気になった。 「作るってことは、その、私が受け取ったような感じじゃなくて…物質的な物をってこと?」 「そうです」  アヤカ達から貰うモノは、使い方、見方。そんなようなものを教えて貰い、それを実体化するための媒体を一緒に見つけ出し、私たちは自分たちの世界で使うようになる。  物質的な物ではなく、考え方を受け取るような感じで。  確かに、今の世界の私であれば、こうして直接言葉とかで伝えればいいけど、ここではない世界の私に伝えるためには、物にする必要があると。そういうことらしい。  …じゃあそれを作るためには、どうすればいいのだろうか。  考えていたら、アヤカは私の手を指さした。 「必要な物は2つあって、1つは分かっているのです」  アヤカは両手を広げると、全身を見せるようにしてきた。 「それは、僕の姿を作ること」 「姿を作る?」 「はい。写真や絵などで、僕自身の姿をかたどること」  …そう言われても私は絵が描けない。写真は…まあ、スマホとかカメラがあるからそれなら可能だけれど。でもそれだと多分、きっとアヤカの望む物にはならないと直感的に思った。 「つまり…とりあえずアヤカの姿を絵にすることって言うのが、一歩目ってこと?」 「はい」  私はしばらく静かに考える。絵を描くという言葉が出て来たとき、頭の中にある人物が現れてしまった。現れてしまったのであれば、その人物の所に行くしかないだろう。 「…どうせ、お店に居るだろうから」  そう言うと、私はスマホを手に取り、電話をかけた。

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