井氷鹿 / 第39話

15.灰吹きから蛇が出る2 Out of the blue comes green.

 ……布団出すの面倒だから、一緒でいいよな。  何だと?  思わず餃子を前に大口開けたまま、亘を目で追ってしまった。 「ついでにパジャマも出しとくよ」  それは面倒じゃないん……だ。    子供の頃は、社務所で合宿みたいに雑魚寝してたよなオレたち。  夏はじーちゃんに蚊帳吊ってもらって、縁側全開で蚊取り線香焚いて。  寒くなったら|行火《あんか》作って、布団に入れて。  亘は行火知らなくて、風呂の焚口に|豆炭《まめたん》を入れて火を熾すところからやったんだよな。  帰って来てからは……、そうだった。 『一人で飯を食わすな』  まー爺が半強制で呼んでたんだ。  家に来る理由なんて必要ないのに、律儀に亘は課題を持参して一緒に勉強してた。  帰る時間になると、たまにソワソワすることがあって。  独りになる夜が、淋しく感じる日があったんだろうか。  突然、一度に家族を失う喪失感って。  紅緒の両親の時のショックとは比べ物にならないんだろうなぁ、と当時は想像するしか無かったが。  泊まる時は別に布団用意するっていっても断って、オレらの誰かの布団に潜り込んでた。  そういえば樹とよく寝てたな。 「いいけどさ」  餃子を口に放り込む。  とっくに亘は風呂へ消えてた。  翌朝は紅緒らの襲撃で起こされることになる。  連打される呼び出し音に続いて、騒がしい声が響く。  時計を見たら十時を少し回っていた。 『わーちゃん、崇ちゃーんっ。買い出し行ってきたよーーーっ』 『わーちゃん、二日酔いになってない』  スピーカーから脳天気で賑やかな声が響いてきた。  とたん亘が、変な声を上げてオレの背中をつつく。 「お゙あ゙ぁっ」 「何?」  おまえ二日酔いか?  起き上がるのも面倒で、寝返りをうったら目の前に亘の顔が。 「うわっ、びっくりした。何赤くなってんだよ」 「崇直、ベー怒ってないよね」 「なんで」 「いや、その、アレだ」  何だよ。 「自分で確かめろよ」  面倒クセェなぁ、もう。  亘を乗り越えベッドから降り、パジャマ姿のままエレベータで迎えに降りる。 「おはよう、崇ちゃん。おお、頭が爆発してる」  「おう。朝だからな」  樹もベーも両手にパンパンのスーパーのレジ袋を下げていた。  お前ら、朝から元気だな。 「ママがね、一緒にスーパーに行って買い出ししてくれたんだ」 「母さんったらべーからわーちゃんちの冷蔵庫が空だったって聞いて、ついでに見繕って買って行きなって」  ここまで車で送ってくれたらしい。  やれやれ。お袋もわーちゃんのファンだったな、そーいえば。  欠伸を噛み殺しながら、紅緒から買い出しの袋を受け取る。何買ってきたんだ? 「魚と肉と野菜とか。あと、お豆腐でしょ、納豆に卵と牛乳それと」  お袋よ、買えばいいってもんじゃねーだろう。誰が作るんだ? 「お昼はすき焼きにしようと思って」 「そりゃ豪勢だな」 「お肉が特売だったんだよ」  樹が自分の手柄のように言う。 「あ、でも僕はわーちゃんの顔見たら出かけるから、すき焼き食べられない」  なーんと、樹のくせに今日はデートだとさ。  生意気な。  部屋に戻ったら亘の野郎が、着替えて身なりをしっかり整えてやがったよ。  オレの寝癖頭とヨレヨレのパジャマ姿は、おまえの引き立て役かよ、くそっ。  買い込んだレジ袋を亘に渡し、樹は出かけていった。  昨晩作ったモヒートの詫びも兼ねて、来たようだ。  樹の彼女は紅緒の親友で、樹と紅緒とは幼稚園からの付き合いになる。  来年結婚することになっていて、オレ的にはそれがとても気に食わない。  樹のくせに。  「樹がねぇ、狭山と結婚かぁ」  買ってきた食材を冷蔵庫に入れながら、亘は感慨深げにまたため息をつく。 「いっちゃんとひろよちん、結婚したらママたちと暮らすのかな」 「さぁ。樹は神社に通えればどこでも良いんじゃね」  樹が神社の後を継いでくれるお陰で、オレは自由にさせてもらえるんだと、これでも感謝してんだよ。  惚れた相手と一緒になれるわけだから、何処に住もうとあいつは天国だろ。  さて、テーブルコンロを出して、ダイニングに持っていくか。  後は、亘と紅緒が用意してる野菜類を持ってきて、と。  テーブルセッティング、完了っと。  三人でわちゃわちゃやってるとあっという間に、すき焼きの準備ができた。  買い込んだレジ袋を亘に渡し、樹は出かけていった。  昨晩作ったモヒートの詫びも兼ねて、来たようだ。  樹の彼女は紅緒の親友で、樹と紅緒とは幼稚園からの付き合いになる。  来年結婚することになっていて、オレ的にはそれがとても気に食わない。  樹のくせに。  「樹がねぇ、狭山と結婚かぁ」  買ってきた食材を冷蔵庫に入れながら、亘は感慨深げにまたため息をつく。 「いっちゃんとひろよちん、結婚したらママたちと暮らすのかな」 「さぁ。樹は神社に通えればどこでも良いんじゃね」  樹が神社の後を継いでくれるお陰で、オレは自由にさせてもらえるんだと、これでも感謝してんだよ。  惚れた相手と一緒になれるわけだから、何処に住もうとあいつは天国だろ。  さて、テーブルコンロを出して、ダイニングに持っていくか。  後は、亘と紅緒が用意してる野菜類を持ってきて、と。  テーブルセッティング、完了っと。  三人でわちゃわちゃやってるとあっという間に、すき焼きの準備ができた。   ――――――しばらく後    あー、食った食った。  肉をたらふく食って、腹パン満足、満足。  食器を下げ、紅緒が洗いオレがすすぎ、亘が拭いてと。  これまた、あっという間に片付いた。  チームワーク抜群だな、おい。  共同生活したら巧くいきそうで、いかねーんだろうなぁ。  あー、ホントめんどくせぇ。 「崇ちゃん、そんな格好してるとここの住人みたいだね」  爆発した頭によれよれパジャマだからか?  まぁ、ある意味オレが一番寛いでるか。  亘に借りたシャツと短パン。窓に映ってる姿は、ぼさぼさ頭の冴えない男だ。  一月も待って、待ち焦がれて会いに来たとは、とても見えないな。  やれやれだ。  亘がそんなオレを見て、だなぁ~とか言って笑ってやがるぜ。  何だってんだよ、ったくよぉ。 「着替えないの?」   紅緒はそう言って、カウチから胸に大きめのクッションを抱え、床にそのまま寝そべった。  続けてリモコンでテレビのスイッチを入れ、後の亘にはいと手を伸ばす。  無邪気にまぁ膝を曲げて意味もなくバタバタさせて。あれま、見事に亘の顔にケツが向いてんじゃん。  それじゃ、オレもと亘の前に立ってカウチからクッションを失敬して。  紅緒の横にうつ伏せになる。  どうだい、オレのケツもプリチィだろ。 「着替えても良いんだが、スーツしかないんだよこれが」  そう言ったら、意外そうに紅緒が言う。 「着替え置いてないの。しょっちゅう来てんじゃなかったの」  流石にそこまで頻繁に泊りに来てないよ。  「崇直、服貸すぞ」 「いいよ、帰るときまでこの格好で」  後を見たら、腿に頬杖付いてこっちを見ていた。   「崇ちゃんいつ戻るの、あっち」 「ここを、五時には出たいんだよね」  そう言うと、紅緒がオレの肩をつついてきた。 「ねーねー、一緒についてっちゃダメ? 司法なんとかって研修所」  あ、お前連れて行ったら女よけになるかもな。

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