井氷鹿 / 第45話

19.入り日良ければ明日天気1Red sky at night , sailor’s delight.

「変わった人だろ」  誰がって、あ、シェフ? 「うん?」 「良い顔してたからね。あの笑顔は良いわぁ」   おお、言うねぇ紅緒くん。  誰かさん以外の男も眼中に入るようになったってことか。 「お客様は神様なんて言われてるけど、本来は対等なんだよ」  亘くん、|対等《フェアー》精神、好きだよな。  そんなこと言って、うかうかしてると鳶に持っていかれっぞ。 「デザートのイル・フロッタント塩キャラメルソースとラベンダー香るクレームブリュレでございます」  紅緒と田中がイルフロッタント(メレンゲのデザート)、オレと亘がクレームブリュレを選んだ。 「わーちゃん、それ一口ちょうだい。あたしのも取っていいよ〜」  もう食べる気で紅緒はスプーンを伸ばしながら、自分の皿を亘の方へ差し出してる。 「べー、サンキュー」  あーあ、爬虫類で仲良しに戻っちまったよ。  お互いシェアしながら、仲良くまー腹の立つ。  くそう、田中のヘタレが。ヘビくらい掴めよ、男のくせによぉ。 「笠神、俺の一口食ってもいいぞ~」 「要らんわっ」  直樹よ、お前の親友はお前の親友だったよ。  天を見上げたら、ベロを出した直樹にからかわれている様な気がした。  デザートまで堪能して、一人二千円で治まった。  田中、やるじゃん。  レジで会計をしてる間に、シェフが見送りにやって来る。  座ってたせいか気が付かなったけど、側に立ったらけっこう細いんだなぁこの人。  田中がずっとごきげんなのは、この先生の店に来たからか、オレたちと飯を食ったからか。 「今日はご来店いただき、ありがとうございました」 「ごちそうさまでした」  和やかな雰囲気で挨拶を返し、紅緒はシェフと握手までしていた。  シェフの手は温かいらしい。 「また、来ます」  目が合ったので、思わず言ってしまったぞ。 「是非」  何だ、その嬉しそうな笑顔は。ドキッとしたじゃないかよ。  「お待ちしております」  もう一回来たくなる店ではあるな。笑顔を返しとくか。  階段を登り、路地から出て明治通りに向かい歩き出す。  「田中、美味かったよ。いい店紹介してくれてありがとう」 「よせよぉ、笠神。そんなに言われたら恥ずかしくなるわ」  どっちなんだ、やっぱり分からん。  「また連れてってくださいね、ナオト先輩」 「べーちゃんまで。嬉しいなぁ、言ってくれれば何時でも連れて行くよ」  照れてやがる。たまには一緒に飯食うか、田中よ。 「さて、オレらもそろそろ帰るが」  おっとそうだった。司法研修所プチ見学ツアーするんだった。 「お前らマジで付いてくる気?」 「うん。行くよ」  と紅緒。隣で亘が頷いている。  マジかよ。 「え、司法研修所に来るの? 中は入れないよ」 「崇ちゃんから聞いたから知ってる、ね」  と隣の亘に同意を求める。 「ああ、入れなくても門から覗けるって言ってたから」 「変わった趣味してるなぁ」  覗きが趣味ってことじゃねーぞ。紅緒も亘も、たぶん。 「そう? どんなところか見るだけだから、ね。先輩」  あんな建物見て何が面白いんだ、と田中は頭を捻り紅緒に聞いていた。  建物自体に興味はないよ、流石のコイツラだって。どういう場所かが気になるんだけだろ。  ま、興味本位なのは否めないが。    亘と紅緒は司法研修所の門まで付いてきて、遠目で去年落成したばかりの庁舎を眺め帰っていった。  帰りは散歩がてらに歩いて駅まで戻るんだと。  歩けば二、三十分の距離だから散歩にはちょうどいいかもな。  それからオレは田中と寮へ戻り、明日の打ち合わせを軽くして部屋に戻った。

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