エナジーコット(@EnergyCotton) / 第205話

第42話 時間加速(7歳)

 時間加速の術式……もしかしたら術式が載っているかもしれない。そう思い、手持ちの本から目的の術式を探し始めた。 しかし時間加速という、あきらかに強そうな名前の術式が陳腐化しているどうかわからない。そう思いページめくっていると、あっさりと見つけることができた。時間加速の術式が存在し、陳腐化していた。 あっさり見つかるとは驚いたが、だが読み進めるにつれ、陳腐化したのに納得がいった。  陳腐化してしまった理由も書かれていた。むしろ使われなくなったのも当然だった。空間に作用させる魔術のほとんどは、生物に効果がないためだった。理由は不明だがおそらく生物がもつ魔力が抵抗してしまうのだろうと。そうなると乾燥や熟成など、生物以外を対象とした用途に限られる。  だが乾燥目的ならば風魔術で代用できてしまう。熟成に関しても需要はあるが、自然に熟成された年代物のワインの価値には勝てず、味は良くなるものの、希少価値までは再現できない。そのため一部で利用されることはあっても需要は少なく、いつしか陳腐化した術式となっていた。 サミュエルは早速時間加速の術式を書き写した。術式自体は決して長くない。だが見慣れた照明具の術式や発熱術式とは構造がまるで違っていた。その一部は保冷箱の時間遅延術式で見たものとよく似ている。 「やっぱり同じ系統の魔術だと似てくるのかな……」 そんなことを呟きながら一つ一つ丁寧に書き写していく。 時間遅延術式を見たことはある。だがこうして本に載る理論体系として眺めるのは初めてだった。陳腐化しているとはいえ、どこか禁断の知識を覗いているような気分になる。 その作業で、あることに気づいた。 (これ……一部分を除いて時間遅延の術式と同じじゃないか?) 以前保冷箱を修理していた際に書き写した術式と見比べてみる。 (やっぱりそうだ。しかもこれ、違う部分もなんというか、鏡写しにしただけのような感じだな。時間加速と時間遅延、効果のベクトルが逆なだけで原理は同じということか?) 時間遅延と時間加速、どちらの術式の補足説明にも相関関係にあることは書かれていない。すでに常識と思われているのか、はたまた気づいていないか、サミュエルにはわからなかった。 (これは少し気になるけど、今は堆肥作りを優先だ。研究はすべて終わってからいいや) とりあえずは心のメモに気になるものとして書き込んでおいた。 まずは時間加速の術式がどれだけ効果があるか確認する必要があり、その検証からだった。いまは堆肥作りの実験で使っている発熱用の3つの容器がある。3つある発熱用の容器のうち1つに、時間加速の術式を書き足した。次に、発熱のみの容器と、時間加速を加えた容器、それぞれに同量の水をコップで量って注ぐ。魔力を流し、蒸発するのを待った。  朝起きて確認をすると、時間加速がある容器の方がほとんど蒸発しきっており、薄っすらとだけ底に水が残っていた。それから半刻経過しないうちに完全に蒸発したのが確認できたので、残った水を容器に入れる際に使ったコップへ戻す。すると大体半分の量になっているのがわかった。 (この術式はおよそ2倍の速度で進んでいると見てよさそうだな) いままでの検証から5日に1回の撹拌が良いと思ったが、時間加速をするのなら2.5日に1回になる。 (さすがにわかりにくいから2日に1回にしよう) 正確な時計がない世界だ。時間は日の高さで時間経過はどうしても体感頼りになってしまう。ならば朝起きてすぐに撹拌するようにすればブレは出にくい。 (4日に1回相当になっちゃうけど、3日でも5日でも成功してるんだ。たぶん問題ないだろう。時間加速が約2倍なら、完成までの期間も半分近くになるはず。3週間かかった堆肥が12~14日ぐらいでできれば大成功だな) そんな予測を立てて堆肥作りの新たな検証に入ることとなった。 ---------- 10日後、堆肥は完成していた。 (予想より早い……?まあ機械的な作業ではないから多少ムラが出るのはわかるけどなんでだろう?) 予測よりも2~4日も早く終わってしまった。 サミュエルは原因が気になってしまった。 (発酵や腐敗だから期間は一律にはならない……ってことかな?ああ、そうか術式を使ってるから麻痺してたけど、堆肥作りって混ぜて放置しておけば勝手に発熱するんだった。そのせいで予想より早くなったのかな?) サミュエルは早くなったのならまあ良いかと割り切ることにした。 そして堆肥作り自体は完成した。 (これなら本当に実用化できるかもしれない) あとは畑で結果を出すだけだ。 ===================================================== ※補足 作中では「時間加速は生物に効果がない」とされていますが、正確には「一定以上の魔力を持つ生物には効果が極めて薄い」が真相です。 一方で微生物のような極めて魔力の少ない生物には効果があります。 ただしこの世界ではまだ微生物の存在が認識されていないため、その事実には誰も気づいていません。 サミュエルも今回の発見で興奮しており、そこまでは考えが至っていません。

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