エナジーコット(@EnergyCotton) / 第208話

第45話 堆肥の結果報告(7歳)

 冬、まだ冬小麦は生育中だがこれまでの結果をセドリックとエドワードに報告することにした。 「以前お伝えしたように堆肥不足が原因のため、堆肥を作ることにしました」  最初はセドリック達も状況を知っているため静かに聞いていた。  サミュエルは堆肥作りの経緯を順番に説明していく。 「~そして時間加速の術式を使って堆肥の生成時間を半分以下にしました」  段々セドリックとエドワードの表情から余裕が消えていく。  サミュエルはそのまま実験結果についても説明を続けた。 「――ということがあり、4種類の堆肥を畑に撒き、実験を行いました。その結果――」  サミュエルの報告が進むにつれ、二人は頭を抱えだした。  サミュエルはその後も検証結果を淡々と報告していった。  そのたびにセドリックは額を押さえ、エドワードは何度目かのため息を吐いていた。 「以上が、破砕魔術具と発酵魔術具、魔物素材と魔石を使った堆肥の結果です」  サミュエルからの報告を聞いてセドリックは椅子にもたれ、天を仰いだ。  あまりにも情報が多いことと、サミュエル自身がそれらの価値を理解しているようには見えなかったからだ。 「サミュエル。お前はなにをしたのかわかっているのか?」  突然の祖父からの質問にサミュエルは困惑する。 「えっと……。堆肥を作りました……。ってだけではないですよね?その言い方ですと……ヴァロワール領の収入が増えたということですか?」 「そうだ。もし領内全域で成功すればな。だがそうではない」  セドリックはため息を吐く。変わりにエドワードがサミュエルに説明をする。 「サム、君がやったことは使い道のない魔物素材を有効活用する方法を見つけた。でもこれはまだいい。ヴァロワール領のように堆肥が足りていない土地にしか意味がないからね。問題は魔石の使い道を見つけたことだよ。サムも知っている通り、現在魔石は限定的な使い道しかなく、ほとんど消費されていない」  魔石の使い道といえば、大きいものならば見栄えのため装飾用に使われるぐらいであり、ほとんど存在していない。あとは数が少ない魔術技師が魔術インクで消耗品として使うか、魔術師が自身の杖などに刷り込むぐらいだ。しかも後者は消耗品ではない。 「しかもそれの結果、収穫量は通常の畑と比べてどれくらい増えたんだい?」 「量は2割ぐらいです。ただ物も大きく、味も良くなってると言っていました。あと50日で収穫できる作物が30日時点で通常の品と変わりない品質だとも言っていました」 「……2割?」 「はい」  エドワードは思わずセドリックと顔を見合わせた。 「それが本当なら領内全体の収穫量が2割増えるということだぞ」 「つまりサムがやったことは、ほとんど使い道がなく余っている物を使って、領地の収穫量を増やしたということなんだ。しかも今のところ副作用もなく、土が痩せていくという問題も解消されている」  サミュエルはそう言われて初めて自分がどれほどのことをやってのけたのか理解した。 「えっと……どうすれば……」 「とりあえずは本当に副作用がないか回数を重ねる。その副作用がなければ辺境伯様へ報告する。今報告しても現状問題ないように見えているため、導入したいと言われたら我々では拒否できん。そして問題が後から発生しては迷惑をかけてしまう」 「あとで怒られたりしませんか?」 「不確かな物を報告するわけにはいかなかったと言う。あの方はそれで理解を示される御方だ」 「でもサムが新しく領地の収入を増やしてくれたのは助かったよ」 「そうだな。最近は改良照明具の受注依頼がほとんど無くなってしまった」  それはサミュエルも実感していた。おかげというわけではないがそれで破砕魔術具と発酵魔術具の改良に集中することができたのだ。 「なぜでしょうか?」 「物が物というのと、辺境伯様の派閥の問題だな」 「どういうことですか?」 「まず照明具の問題。これは王家の献上品に使われ、その価値を認められた。それで依頼が来るようにはなったが、金額が高いというのもある。そのような品に安い値を付けるわけにはいかんからな。そして1つの家で何台も注文するものではない」  それはサミュエルにもなんとなく理解できた。高級品で消耗品でもない。ならば需要が頭打ちするのは当然だ。 「そして辺境伯は中立派だということだ。今この王国で最も派閥で力を持っているのは王党派、少し下がって貴族派だ。中立は極わずかで影響力がない」 「中立派で影響力がないのになぜそれが注文に影響するのでしょうか?」 「たしかにな。だが中立派は数が全体の1割もいない。そのため辺境伯様は本人が望まずとも中立派筆頭となっている。宮廷政治に興味はないのに爵位とその手腕による影響だな。中にはそれぞれの派閥に属していても気にせず注文をする者もいるし、多少の突き上げなど気にしなくていい力をもつ貴族もいる」  セドリックはそこで一度言葉を切った。 「だがそうでないものも多い。わざわざ他派閥の長の利益になるとわかっている品を買いたがらない者もいるのだ。たとえ欲しかったとしてもな」 「政治のことはよくわかりませんが……複雑な思惑があるというのはわかりました」 「安心しろ、儂もわからん。だがヴァロワール領が儲けさせてもらったのは事実だ」  それを聞いていたエドワードが苦笑いを浮かべた。当主がそれでいいのかと思ったからだ。だが儲けさせてもらっているのは事実であり、この収益にかなり助けられたのも事実である。 「そんなわけでサム。おかげで今回の件が成功すれば安定して収穫量を増やし収益が増やせるんだ。その結果を辺境伯様に報告できれば覚えもめでたくなるだろうね」 「はあ……。とりあえずこのまま続けてもいいということでいいですか?」 「サミュエル……お前は……。まあよい。ところでその魔術具の事だが、町の者にも使えるのか?」 「はい、破砕魔術具は出力は上げましたが以前と変わらない魔力量で使えるようにしました。発酵用魔術具のほうは本来なら魔力の消費量は多いのですが、これは発熱する温度が下がれば下がるほど消費魔力が減って――」 「待て待て、魔術具の細かい説明は儂にされてもわからん。町の住民でも使えるということでいいんだな?」 「え?はい……。そのとおりです」  説明させてもらえなくなりサミュエルはやや肩を落とした。 「わかった。あとで使い方と使用頻度、必要なことを書き出して持ってくるように。今日は以上だ」  セドリックはそう言ってサミュエルを退室させた。 「あいつはとんでもないことをしてくれたものだな」  セドリックがエドワードに愚痴を零す。 「そうですね。毎年、驚かされてばかりです」 「魔石の有効活用方法を見つけた。この情報は大きいぞ。どれだけ効果があるかわからないが、この事を知っている者には箝口令を敷いた方が良いな」 「そうでしょうね。問題があった場合、それが政治的に不利になる可能性がないとは言えません」 「それと運用方法はどうする?」 「そうですね。魔物の死体はサミュエルがやったように衛兵に運ばせましょう。その分の手当を出すようにすれば衛兵たちもやる気を出すでしょう。他の原料については今まで通り、農家が住民から無償で回収させるようにします。  糞尿を無償で回収する対価として堆肥も無償で使えるようにさせます。どのみち堆肥は農家しか使いませんし、無償にしたほうが早く、広く普及してくれるでしょう」  衛兵や農民を動かすために対価を提示することをエドワードは考えた。 「あと魔術具を動かす魔術使いについてですが、これは現場仕事をしなくなった魔術使いにお願いしましょう。魔術具の発動回数ごとにお金を払うことでやってくれるはずです。開拓用破砕魔術具の頃は管理している人も普段持て余してるようでしたからね」  エドワードの提案は新しく雇用を生む事も考えられていた。そしてそれはサミュエルが運用に関わらなくても回るようにする仕組みでもあった。 「それがいいだろう。幸い改良照明具のおかげで利益は出ている。農業の成果がでるまでは赤字だろうが最終的に大幅な利益になるはずだ。サミュエルが出した数字が本当なら最低でも2割は増える。費用の調整は任せたぞ」 「領地経営に携わる者なら喉から手が出る数字ですね。お任せください」  そう言うと、セドリックは今後のヴァロワール領の発展に胸を弾ませるのだった。

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