エナジーコット(@EnergyCotton) / 第5話

第5話 教育方針

 当主であるセドリックと次期当主であるエドワードが部下たちとともに執務室で書類仕事をしていると、部屋にノックの音が響く。 「カークでございます。サミュエル坊ちゃまのことでお話がございます」 「入れ」 「失礼します」  セドリックがカークの入室を許可すると、扉は開かれ執務室にカークが入る。 「先ほど申し上げたとおり、サミュエル坊ちゃまの件で報告がございます」 「どうした。早速魔術でも試して発動できたとかか?」  セドリックは仕事前のサミュエルとのやり取りを思い出し、冗談交じりの言葉を発した。  魔術が使えるのは10人に1人。まず魔術を使えることが珍しい。さらに我が家ではすでにマイケルが魔術が使えることがわかっている。まさか続けて当家から輩出できるとは思っていないため、出てきた冗談だった。 「はい」 「……なに?」  しかしカークの返答は予想とは違ったものだった。 「サミュエル坊ちゃまが魔術を発動されました」  作業の音が止まり、部屋中の視線がカークに集中する。 「そうか……我が家から二人も魔術を使える者が生まれるとは……よくやったエドワード」 「え?あ、はい。どういたしまして」  エドワードもまさかそんな褒められ方を父からされるとは思っていなかったため、おかしな返答をしてしまった。  父母の両方が魔術師であれば子も魔術を使える可能性が高いと言われている。しかし片方だけ、あるいは両方とも使えない場合は確率に大きな差はない。  そして、サミュエルの両親、両祖父母ともに魔術は使えなかった。マイケルだけでも運が良かったと言えるのに、続いてサミュエルまでもが使えたことがわかり、二人は興奮気味であった。 「5歳から一般的な貴族の教育をさせつつ、適正を見るつもりだったが、すでに魔術が使えるようになったとなれば今から魔術の訓練を始めてもいいかもしれないな」  セドリックは今後のサミュエルの扱いを思案する。  辺境に領地を持つ男爵家の次男として生まれたサミュエル。嫡男であるマイケルの予備であり、教育は施すが順当にいけば何も受け継ぐものもなく世間に放り出される予定だった。  そのため貴族としての教育をしつつ、どの道に進めばやっていけるかを考えていたのだ。  しかし、すでに魔術が使えるのなら話は早い。魔術師としての才能があれば中級、上級と魔術を覚えそれを伸ばしてもいいし、才能がなくても初級魔術が使えれば高位貴族の家臣や侍従にしてもらえる。  サミュエルは歳の割に聞き分けがよく聡明な子ではあるが、今からでは教育を施しても、まだ体力がないため長続きがしない。そう考えればどれか一つに絞って短い時間、やりたいことをやらせたほうがいいと結論づけた。 「少し早いが、明日からでもサミュエルに魔術の教育を施してもいいかもしれんな。勿論、本人がやる気を見せた場合に限る。本来教育を始めるには早い年齢だ。遊び感覚で学ばせてやりたいと思うが、エドワードはどう思う?」 「私もそれには賛成です。ただ魔力切れで倒れることだけは注意するべきかと。また危険な火魔術だけは使わないよう管理する必要があります。さらに属性の適性確認も兼ねて、光と闇は一度使えるか確かめさせたほうがいいと思います。あの2つの初級魔法なら特に危険はありません」 「そうだな、あの2つの適性があるかも確認しておこう、後々のことを考えると……な」  光と闇の属性に適性がある場合、神官や治療院にその力を求められる。それらの勢力は貴族にも強い影響力を持つため差し出すよう求められれば断るのは難しい。そのため適性があれば隠すようにしなければならない。 「聞いていたな。カークよ、以上が明日からのサミュエルの方針だ。サミュエルに確認し、やる気があれば貴様が教育係としてそのまま面倒を見てやってくれ」 「かしこまりました。ではこれよりサミュエル坊ちゃまに確認をしてまいります。ここへ参る前も、坊ちゃまは『まだ使いたい』と仰っておりましたが、お二人の許可が必要だとお止めして参りました。許可が下りればすぐにでも教えてほしいとも仰っていましたので、意欲的に取り組んでくださるかと思います」 「では頼んだぞ」  セドリックがそう言うと、カークは一礼をして退出した。 「しかし本当によかったな。これで将来の心配事が一つ消えた」 「そうですね。あの子にもなにか残してやれるものがあればよかったのですが……」  サミュエルの将来についてはどうなるかわからなかったため、これで少なくとも生活に苦しんだりすることはなくなりそうだと安堵する。 「魔術が使えるとなれば将来の選択肢も増えますね」 「ああ。騎士になるもよし、宮廷に仕えるもよしだ。才能次第では王都の貴族学校へ送ることもできるだろう」 「あの子は飲み込みも早い。案外大成するかもしれません」 「そうなれば嬉しい限りだ。少なくとも将来食い扶持に困ることはあるまい」  二人はそれぞれの書類に目を戻した。辺境男爵家の次男として生まれたサミュエルにも、ようやく将来へ続く道筋が見え始めたように思えた。  しかし別の心配事が増えることになるとは、このとき思いもしていなかった。

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