エナジーコット(@EnergyCotton) / 第19話

第19話 二人が見ているもの(5歳)

翌日、サミュエルは困っていた。 なにをすればいいかわからないからだ。 マイケルは例によってヘンリーに連れて行かれ助けはない。 (どうすればいいんだ……。) 間が保たない。 だがギルバートはあまり気にしていなかった。 ギルバートがサミュエルのことを面白い子どもだと思い始めているからだ。 本人は隠しているが今もきょどきょどとしているのが見ていておかしいと思っていた。 「もしかしてなにすればいいかわからない。って思ってる?」 「え……うん……」 「ならさ、屋敷を案内してよ」 「でもそれは昨日しました」 「それは屋敷の中だけだよね?屋敷の敷地。外を案内してよ」 それならまだ案内していない場所があると思いサミュエルは承諾した。 「じゃ、じゃあ庭は昨日出たから……こっち」 そういってサミュエルはギルバートを昨日と同じように先導しはじめた。 そうして到着した。 「ここは?」 「町が……ヴァロン全体が見渡せる場所です」 最近サミュエルもマイケルに町に行くようになってから知ったことだが、自分が住んでいるこの町はヴァロンという名前だった。 「どうしてここに?」 「ここなら町の様子を見ることができるからです。景色がいいのもありますが……見ていると色々気付くこともあります……ほらあそこ」 そういってサミュエルは畑を指差しした。 「あっちの畑は去年と違う野菜を作ってるなとか。そういうのが見えるんです」 次は町の市場を指し示した。 「市場も人が多い日と少ない日がありますし、今日は少し多いです」 「それでなんの意味があるんだ?」 「今は特にありません」 ギルバートはそれはそうだろうと思う。 「今はなにもできませんけど……。町の様子を見ていつか自分にできることが見つかればいいなと思ってます。それに様子をお祖父様に伝えればなにかやってくれるかもしれません」 ギルバートは驚いた。 自分が町へ行くときは遊ぶことしか考えていなかった。 だがサミュエルは違う。今ではなく、その先を見ていた。 「サミュエル君は変わった考えを持ってるね」 「そ、そうですか?」 サミュエルは珍しく上手く話せたと思ったのに、思わぬ評価をもらったことにショックを受ける。 「でも、僕は面白いと思うよ」 それはギルバートの本心だった。 そして次に向かったのは馬小屋だった。 「ここは馬小屋で今はエノー子爵家の馬車と馬も止めてあります」 「馬かあ。馬はいいよね」 「そうですね。人間を相手にしているより心が落ち着きます」 「あはははは!やっぱサミュエル君は変わってるね」 ギルバートが急に笑った。サミュエルにはなにが変わっているのかよく理解できなかったが、楽しそうならいいかと流した。 「そういえば今日はまだブラッシングしてあげてなかったな」 そう言ってギルバートはブラッシングの道具を手に取り、自分の家の馬に近づき、毛並みを整えてあげ始めた。 「ギルバート君がやってるんですか?」 「あ、やっと名前で呼んでくれたね」 「え?」 子どもとはいえ、貴族の子弟が馬車馬のブラッシングをすることに驚いた。 「まあいいや、僕は馬が好きだし、馬も僕のいうことをよく聞いてくれるんだ。だから可愛くて……。ここに来るときも毎日毛並みを整えてあげたからね。なっ」 馬に呼びかける。すると馬はそれに応えるようにヒヒンと気持ちよさそうにひと啼きした。 手持ち無沙汰になってしまったサミュエルは、なら自分もと思い、ヴァロワール家の馬のブラッシングを始めた。 一頭を除き一通り終わり屋敷に戻ろうとサミュエルは言う。 「待ってサミュエル君。あの馬(こ)はいいの?」 「あー、あの馬はお祖父様の馬で……気性がちょっと……お祖父様以外に触られるのが嫌みたい」 「そうなの?でもずっとこっち見てるよ?さっきから耳も動いているし」 ギルバートが妙なことを言い始めた。 「でも近づくと危ないよ」 「うーん、なんとなくだけど大丈夫だよ」 そういってブラシをもって近づく。 「いや、危ないから!やめて!」 しかしギルバートはやめない。馬が顔をギルバートに近づけ、噛みつかれるかもと思った瞬間―― 「よしよし、ここやってほしいんだね」 祖父の馬はギルバートに顔を寄せ大人しく頬を撫でられていた。 「ええ……なんで?」 エドワードですら懐かなかった馬が、初対面のギルバートにはあっさり懐いたような仕草を見せる。その光景にサミュエルは驚いた。 「じゃあ毛並みを整えてあげるね」 馬は言葉がわかったかのように大人しく毛並みを整えられていた。自分が近づこうとするとブルルと威嚇をするような仕草をするので、大人しくギルバートを見ていることにした。 「凄いや……」 「そうかな?馬丁なら誰でもできると思うよ」 「あの馬が初対面のギルバート君に大人しく従っていたことがだよ」 「サミュエル君の修理ほどじゃないよ。あとまた名前で呼んでくれたね」 「あ、ごめんなさい!」 つい出てしまったが、相手は従兄弟とはいえ子爵家の子弟。あまりにも気安い呼び方は失礼にあたる。 「ううん、別にいいよ。従兄弟だしね。これからもそう呼んでよ」 そういってギルバートは流してくれた。

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