エナジーコット(@EnergyCotton) / 第3話

第3話 魔術への第一歩(1~3歳)

 今世では前世と比較にならないほどまともな家庭に生まれ、サミュエルは考える。  もう一度生を受けるという望外の機会を得られた。《《サミュエル》》には悪いことをしてしまったが。  自分は今世でなにがしたいのか。  前世ではしたいことはあったがぼんやりとしたものだった。子どもの頃はなにもさせてもらえず、大人になってからはできることをやって生活していくだけで精一杯だったからだ。  前世は酷くつまらない人生だったが、それでも楽しいと思える瞬間はあった。  子どもの頃、図工や技術の授業で何かを作っているとき。  働いている時、仕事柄家電製品を修理するために内部の構造を見ている時。  間違いなくあの瞬間は楽しいと思えた。  うっすらと気づいていた。おそらくだが自分は《《創る》》ことや、その構造を知ることが好きなんだろう。  しかしこの世界で《《創る》》仕事がどれだけあり、自分が就けるかわからない。  もしかしたら家族から反対されるかもしれないし、特殊な知識やスキルが求められるかもしれない。それがなく、前世では望んだ仕事に就くことすら難しかった。  そしてできることの幅は広いほうがいいことも経験から知っている。  魔法を使っているのを見たのは兄だけのため、需要がどれほどあるかわからないが、自分も魔法が使えるようになっておいたほうがいいだろう。そのために魔力操作と放出の訓練はできるかぎり継続すると決意をした。 =====================================================  あれから2回、季節を巡ったのちにサミュエルは屋敷の庭で遊べるぐらいにはなっていた。  そう、《《屋敷》》で《《庭》》である。  裕福な家庭だと思っていたが庭付きの屋敷だったのだ。  歩けるようになってから屋敷内を散策したら思ってたより部屋が多く、書斎まであった。 「おや?サミュエル。こんなところでなにしてるんだ?」 「あ、おじいさま」  屋敷を散策中に、恰幅の良い銀髪碧眼の男が声をかけてきた。  サミュエルの祖父であり、現当主のセドリックである。 「家の中を探検中です」 「そうかそうか。でもあんまりいたずらを……っと、サミュエルなら大丈夫か」 「はい!」  変なことをしないか心配したのだろう。だが物わかりのいい子どもでいたのでセドリックはすぐに思い直し訂正をした。  世話役の者からも手がかからなさすぎて逆に心配されてしまっているが、サミュエルはそのことに気づいていない。 「だけどこっちには面白いものなんてなにもないぞ。庭で遊んできたらどうだ?」 「見たことのないものがたくさんあって楽しいです。あと、本も読みたいです」 「そういえば本を見るのが好きだったな。だが子どもが見ても面白い本はあったかな?」  考える素振りをしながらセドリックはサミュエルに付いて回っていた世話役の使用人に目配せをする。 「サミュエル坊ちゃまは、本を開いて見ることが好きなようでございます。騎士物語や子供向けの建国記、冒険譚など読み聞かせていましたが、直接本を自らの手で開き、我々にも何度かこの文字はなんと書いてあるのか質問し、意欲的に文字を覚えようとされています」 「ほう、すでに文字を覚え始めてるのか。どれほどだ?」 「基本的な文字はすでに習得なさってるご様子です。屋敷内にある子供向けの読み聞かせ本であればすでにほぼ覚えているかと思います」 「それほどか。エドワードの奴め……儂は聞いてないぞ……」  おそらく使用人からサミュエルの様子や成長具合などは両親には報告されているが、両親から祖父母には話がいってないのだろう。 「サミュエルよ。本が読みたいといったな。どういうのが読みたいんだ」 「クロードの冒険に出てくるような、ぶわああああっとすごい魔術が使える本がいいです」 「魔術が使える……魔術書か。魔術の入門書がたしかあったな」 「はい、教育用にございます」 「それをサミュエルに読む機会を与える。まずないとは思うが、くれぐれも注意するように」 「かしこまりました。旦那様」  魔術。まだ自分が立つこともできない頃、兄であるマイケルが涼ませるために使った超常現象。あれこそがこの世界で魔術と言われるものだった。  魔法(仮称)と定義したものは魔術であり、どうやら人が使う力を魔術と呼ぶらしい。  では魔法とは何なのか。子供向けの本を読む限り、魔法とは魔物が使う力を指すようだった。  まだ読んだ本が子供向けのため、違うかもしれないが、言葉の使われ方からもそう間違っていない気がする。 「では坊ちゃま。魔術が書かれている本は別の部屋にありますので案内いたします」 「うん」  先ほどの会話で出てきた魔術の入門書というやつだろう。  兄と姉の教育で使用されている部屋に案内され、そこで一冊の本が渡された。 「どうぞ坊ちゃま」 「ありがとう」  使用人はお礼を言われ表情を崩すがすぐに戻る。 「わからない文字がありましたらお尋ねください。あとこの本の中にあることをやりたいと思ったら、私に言ってからお願いいたします」 「わかった」  要するに勝手に実践をするなということだろう。魔術というぐらいだ。入門書とはいえ危険がないわけじゃないのだろう。  ワクワクしながら本を開き、サミュエルは初めて魔術の世界に触れることになる。 =====================================================  いままで仮称していたものの正体がサミュエルが知識を得たため、作中でサミュエルが「魔法(仮称)」と呼んでいたものは、今後は世界の呼称に合わせて「魔術」と表記します。なお、この世界には別概念として「魔法」も存在します。  またサミュエルが年齢の割にはっきりとした喋り方をしていますが、読みやすさを考慮した結果こうしています。

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