曇りの夜空 / 第11話

第11話 ロリっ子とのお風呂

 あたしの髪が、あたしの意思に惑わされずに梳かされていく。 「痒い所ねーか?」 「あんたの存在が痒いわね」 「どうしろってんだよてめー。ったく、本当に生意気だな」 「ロリの裸見た上に髪まで触れているのよ。その幸甚をしっかり噛みしめながらシャキシャキ手を動かしなさい。  それにしてもあんた結構上手いわね、叔母さん相手にしてあげてるの?」  床から出てくるタイプの覗き魔は大きく溜息を吐いた。 「馬鹿言え、異性の大人同士が一緒に風呂入るわけないだろうが」 「叔母さんはいつでもあんたのことを待ってると思うけど、男なら一回くらい入って上げなさいよ。言っとくけど、生で見る叔母さんの裸はあんたの貧困極まりない想像力じゃ妄想しきれないくらい官能的よ」 「だーまーれ」  洗い終わりに軽くチョップをされた。ああ、痛いわね、泣き出しちゃいましょうか。 「それよりあんた、どうして床下から来たの?」 「僕だって分かんねーよ。ただ真絹の暗号が何とか解けたから左側の扉に入って歩いてたんだけど、その途中で転んじゃってさ。そしたら偶然這いずれば入れそうな穴を見つけたんだよ」  穴……ああ、そう言うことね。 「なるほど、パパが昔ママと逢引きする為に秘密の通路を作ったとか言ってたわね。ふふふ、お風呂場に繋がってるなんてなんというか……我が両親ながら欲望に忠実ね」 「お前んところの父さん地下道作ったのか?」 「当時のパパはママ……というか花染家の部下みたいなものだったからね。堂々とイチャイチャできないのがよっぽどフラストレーション溜まってたんでしょう。その反動で頑張ったみたいよ」 「はは、流石は真絹の兄ちゃん。やることがスゲーわ」 「でしょ。初川家の人間は愛の為なら無限の力を出せるのよ」  詠史は呆れ半分尊敬半分といった様子で口をだらしなく歪ませた。 「お前もその口か?」 「さぁ? お姉ちゃんの為なら世界ぐらいは滅ぼすつもりだけどまだ見ぬ惚れた野郎の為にどこまで出来るかは自分でも分かんないわね」  浴室はいい具合に湿度が上がってきた。風呂桶を置く音が心地よく全身を撫でる。 「ところで詠史、話は変わるけどあんた銅鑼森事件のこと覚えてる?」 「銅鑼森事件?」  鏡に映る詠史は刹那の間だけ真剣極まりない顔をした。だが見る見るうちにその顔は困惑と不安に染まっていく。 「……何それ? 知らんけど」 「…………あんた、マジか」  身体にへばりついたシャツの奥に見える腹を抉った弾痕を指さした。 「あんたが誘拐された上、身体に残ってるそれがついた事件なんだけど」 「そうなの? へぇあの事件銅鑼森事件って名前だったんだ」  この野郎は……本当に。 「馬鹿なの?」 「だって、そんな事件の名前とかに興味なかったし……というかそんな名前がついていたのも初耳なんだけど。いや……よくよく考えればそんな名前聞いたことあるような……」  詠史は罰の悪そうな顔なまま、自分の中にある小さな記憶の引き出しを開けまくっているようで苦しんでいる。 「普通自分が関わった事件の名前くらい覚えてるもんでしょ。まして大怪我負った事件よ。覚える気が無くても記憶に残ってるもんだと思うんだけどね」 「そうかもしれんけど……ええ、マジでそうだった? まだ僕小さかったしなぁ。ドラえもん事件なら覚えてんだけど」 「そんな未来の青狸が出てきそうな事件なわけないでしょうが。  ったく、本当に愚かね」  ついでだから事件の仔細について聞いてみようかと思ったけど、これじゃあ望み薄だわ。 「ったく、あんたって奴はあたしの期待を悪い意味で裏切るのが上手いわね」 「ふっ。まぁ僕ほどの男を読み切るなんてテメーみたいなガキには無理ってことよ」 「何で誇らしそうなのよ。  馬鹿にする気力も失せるうつけ野郎ね」  椅子から立ち上がり風呂場の扉を開ける。 「もういいわ。さっさとお姉ちゃんたちのところに帰りましょう。ああそうだ、あんたあたしより後で来なさいよ」 「何でだよ、一緒に行けばいいじゃねーか」 「馬鹿ロリコンと仲良しだと思われたくない気分なのよ」 「誰がロリコンだ」 「馬鹿はいいのね」 「言われ慣れてるんだよ」 「そいつはなにより、あんたの服は叔母さんがお泊り用に用意していたのがあるからそれ使いなさい、そこの棚の一番下に入ってるから」  詠史が何かまだ文句を言いたげだったが、次に唇を動かす前にあたしは扉を閉めてやった。     詠史の覗きの数時間後、お姉ちゃんがスヤスヤと無邪気な寝息を立てている隣であたしは頬杖をつきながらラブレターを読んでいた。グーちゃんが花染家に投函していたものをスマホに送ってもらったのだ。 『拝啓 花染夢邦様  まず死ね。次に死ね。どうか死んでくれ。物理が許す限り最も苦しい死に方して、無様を演じそして生き返って、もう一回死ね。出来れば屈辱的な死に方で死ね。  まんまと生き残りやがったな。まぁそれはいい、あの程度のお遊びで死んでもらっても興ざめだ。  俺のことが気になるだろう、気になるよな。そんなお前にチャンスをやろう。俺は次の土曜日、葉船町最大の以下の場所で待つ。  18 19 27 48』

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