曇りの夜空 / 第7話

第七話 和倉詠史と初川真絹

 真絹の実家である初川家というところは先祖代々探偵一家の支え続けてきた一族なんだという。血肉を少年漫画で作られた僕としてはなんともそそる話である……のだが 「詠史さん、LOVELOVELOVE。 早く結婚して、イチャイチャして一緒にお風呂入って、破瓜して、妊娠して、イチャイチャして、四苦八苦しながら子育てして、一緒のお墓に入りたいですねぇ」  末裔の1人がこんなんなんだよなぁ……見た目が普通の女子高生なのは如何にも日常に溶け込む忍者っぽくてプラスポイントではあるけれど、もう少し威厳って言うか、クールさって言うか、忍者っぽさが欲しいなと常々思っているのよ。いやまぁ、とんでもねー我がままなのは分かってんだけど。  真絹が「おっぱい揉まないんですか? キスしましょうよ。 婚姻届けで作った服、着てきましょうか?」などのいつも通りの世迷いごとを口ずさみながらキチンと手入れされた庭園を進んでいく。 「しかし立派なもんだな、誰がこの庭作ってんだ?」 「お父様の趣味がガーデニングなんですよ。とても手先が器用な方で、DIYもお手の物なんですよ」 「ほほう、お父さんの方は忍者じゃないって話だけどそれなら裏からサポートもできそうだな」 「確かにお父様はお母様達の裏方に回ることもありますが、一番の役目はそんなことではありません」 「んじゃなんだ?」  無難な返しをしたつもりだったが、にわかに真絹が僕に抱き着いてくる。子犬のようにマシュマロのように柔軟な身体を僕へと這わせていくではないか。 「お母様はお父様のことを大好きで大好きで仕方ないんですよ。お母様はお父様と一緒にいるだけで万倍の力を発揮できるとよく仰っています。  昔は意味が分からないと思っていましたが、今は途轍もなく理解しております。恋って、無限の力を産むんですよね。  と言うわけで詠史さん、私達も共に無限の力を……」 「産まんって。  いつも言ってんだろ、僕のことを好いてくれるのは嬉しいけど彼氏にはなれないって。僕はお前をそう言う目で見れないんだ」  真絹はハリセンボンのようにぷっくり頬を膨らませる。 「むむぅ。まだ好感度が足りませんか。私の身と心とついでに人権を捧げてもダメですか?」 「捧げられたら熨斗つけて返してやるよ」 「もうっ、私のハートをがっちり奪ったのにイケずなお方ですね」 「勝手に押し付けてるだけだろうが」  挨拶と同じくらいかわしているいつも通りの四方山話をすました時、的場が目に入った。桜色の髪を持つ女の子が小さな手足を必死に動かしてクナイを的へと投げているようだ。 「あっ。詠史君、真絹ちゃん!! どうしたの?」 「よぉ、琴流。ちょっと忍者体験しに来たんだよ」 「うふふ、琴流ちゃん。相変わらず可愛いですね」 「ありがとっ」  桜色の髪を持つ女の子こと、花染琴流が真絹の胸に跳び付き、真絹はそれをがっちりと捕まえた後流れるようにサラサラの髪を撫でる。2人がくっついた時から花畑のような優しい良い匂いが漂ってくるではないか。 「忍者の練習ですか? 熱心で良いことですね」 「えへへ、私は夢邦に比べて下手だからいっぱい練習しないとなの。  あっ、詠史君も頭なでなでしてくれる?」 「ほいほい」 「ズルいですよ、私もナデナデしてください!!」  差し出された琴流の頭を押しのけるように真絹が情欲を滲みだした表情と共に頭を出す。なんとも大人げない叔母である。 「さささ、どうぞどうぞどうぞ。私の髪は詠史さんに撫でられるために存在していると言って過言ではないんですから」 「教えてやるよ、それ絶対過言」  左手で真絹を、右手で琴流の頭を撫でてやる。琴流は「あははは~~」と子犬のように愛らしいものであるが、模範となるべき叔母の方は「至福です。生きててよかったです。無料でこんな体験できて良いんでしょうか」なんてほざいている。  これ僕悪くないよね、そうだよね。  腕がつりそうなほど撫でまわした後、琴流がクナイを僕に渡してきた。 「はい、詠史君。遊びに来たんでしょう。一緒にクナイ投げの練習しようよ」 「おうっ」  手渡されたクナイは思ったより暖かく、金属の冷たさはほとんど感じられなかった。しっかりと琴流から受け取り、的場へと目を向けた。改めて見て気づいたが、数十本のクナイが的から外れた場所で死屍累々を築いているではないか。  琴流、お前練習頑張ってるな。  なら大人である僕がしっかりとした手本を見せてやらなければなるまいよ。 「行くぞ!!」 「頑張ってください詠史さん!!」  僕は見様見真似でクナイを思いっきり的に向けてぶん投げた。すると一体どういうことなのか隣の的に向けて一直線に飛んでいっているではないか。 「あっ……」  その時、僕のクナイより遥かに鋭く空を裂きながら飛んできたクナイがぶつかり方向が変わった。というか、吹っ飛ばされた。弱々しい姿ながらもそれは目標にしていた的に命中したのである。 「なんで?」  後ろを向くと、真絹が満面の笑みと共にクナイを投げたポーズで残身しているじゃないか。 「クナイ同士がキスしちゃいましたね。これはもう私達自身もキスするしかないんじゃないですか?」 「真絹……お前……」  僕は真絹に向けて躊躇いなく、そして先ほどのクナイよりも、それこそ名刀と名人がタッグを組んだ剣閃よりも鋭く頭を下げた。 「やり方教えて!!」 「はい、もちろんです」 「私もお願い、真絹ちゃん!!」 「任せてください。2人ともいーっぱい教えてあげますからね」  よっしゃ、僕もスタイリッシュにクナイ使えるようになるぞ!!  そしたらすっげー面白そうだから!!!

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