曇りの夜空 / 第6話

第六話 狂おしいほど頭のおかしい少年

 屠殺寸前状態なのか疑わしくなる気絶した豚汁野郎を眞守に引き渡した後、一旦あたし達は雫の愛車で帰路へとついていた。無駄に甘ったるい匂いが充満している車内では、まだ乾ききっていない服が肌をべっちょりと不快に舐めている。 「で? 今回の件あんたはどう思ってるの? グーちゃんは本当に絡んでいそう?」 「その可能性は高いと思うわよ。あの下手な字はそうそう再現できるものじゃ無いもの」  グーちゃんとはあたしに怪文書を送ってきたと思われる現在19の男である。  もともととある事件現場にいた男で、使えそうと思ったので拾ってやったのだが、どういうわけか本名を明かそうとしなかったのだ。そこでお姉ちゃんがグーちゃんと命名し、そのまま定着した。切れ長の目とこの世の全てを恨んでいそうなオーラを纏う二枚目にグーちゃんという可愛らしい名前が定着したのは流石お姉ちゃんと言わざるを得ない。 「でもグーちゃんがあんたを殺人犯にしようとしたり、ましてや殺そうとしたりする? あんたそんなに酷いことしたっけ?」 「さぁね、したような気もするし、していないような気もするわ」  グーちゃんは現在あたしの元から離反し、どこぞのテロ組織に所属している話を小耳にはさんだ。 「いくつもの凶悪な事件の捜査を押し付けたり、お姉ちゃんの可愛らしい遊び道具を買いに行かせたり、偶に罠に嵌めたりして遊んだりはしたけれど……」 「うん、考えてみると夢邦を恨むには十分な動機がありそうね」 「あらあら、そりゃ残念ね。幼い子供の可愛らしいおねだりばかりだと思っていたんだけど。  まぁあのバカがあたしに恨みを抱いていたとしてもやり方が気に食わないわ」 「気に食わないってのは?」  法定速度を少し上回ったスピードで走行をしている。速度に波があるのは先ほどからすれ違うイケメンたちをチラ見しているせいであろう。 「倉庫を水で満たして溺死させるってのはエンタメ的な見映えは良いけれど手間がかかりすぎるわ。倉庫の耐久力を上げるために木製倉庫をリフォームして金属で覆ったり、強化ガラスを設置したり、かかった手間と費用はどれほどの物かしら。ハッキリ言ってあたしを殺すだけなら夜道で強襲する方がよっぽど楽よ」 「なるほどなるほど、確かにその通りだけど。あんたに不意打ちや夜襲が通じないのは元部下のグーちゃんなら分かってるでしょう。あんたみたいな子を殺すなら手間暇かける必要はあると思うんだけど」  ったく、ガキ一匹がそんな強いわけないでしょうに。 「あたしへの過剰な評価は一旦置いておいて、もしあの間抜けもそう考えていたとしてもあまりにも回りくどいわ。あたしはさっきの仕掛けは隠しカメラの存在も踏まえて、まるで見世物用に作られたものだと感じたものよ」 「見世物って……良い気分の話じゃないわね」 「それに、あの場に大量の麻薬があったのも不可解だわ。正確には分からないけれど、あたしが発見した分だけでも10キロはあった。ざっくり計算しても末端価格5億円ってところかしら」 「5億……」  ミラーに欲望満載の面が見えているわよ。 「大量の水なんて投入したらそいつがおじゃんになるわ。札束を汗拭きシートと勘違いしている奴でもなきゃ到底しない無駄遣いよ」 「しっかりパッケージされてれば平気なんじゃない?」 「雫、あんた安物のパッケージに宝物入れていれば数トンの水に晒されても平気、だなんて思えるのかしら? ましてあたしが悪さをするかも知れない場所において置くなんてリスキー過ぎるわ」  実際あたしが発見したことで、爆発魔法を起こす種にしてやったしね。 「………なるほど、普通の精神じゃ無理ね。 なるほど、確かにおかしな話だわ。うーん……私の推理によると……」  ミラーに映る雫は百面相のように顔を変えながらも時折見える端正な男どもをしっかりと見ていた。相変わらず天晴ね、この行き遅れ確定女。 「分かんないわ」 「散々考えてそれなのね」 「仕方ないでしょ。不可思議なところは多いけれど、情報が少ないわ」 「まぁそれは同感だわ。妄想はいくつか出来るけれど根拠はないもの。ただ規模から考えて犯人は複数人ってのは間違いないでしょう。  そして考察点として残っているのは、あたし達にもそこそこ繫がりの深いあの事件」 「ああ、銅鑼森事件のことね」  ひと時だけ目を覚ました豚饅頭が言っていた。 「お、俺を誘拐した奴らは何人かいたが……銅鑼森事件と言う言葉が聞こえてきた……」  と。  10年前、まだあたしが産まれてもいない時に葉船町で同時多発的に連続誘拐事件が起こったことがある。とある無鉄砲でバカでアホなうえ間抜けな少年の機転で誘拐されていた子供たちの大半は逃げ出すことに成功し、誘拐計画は失敗したのであるが、犯人の大半には逃げられてしまっているらしい。まぁあのボケを誘拐したのが運の尽きよね。 この事件は唯一捕らえた犯人の男の名を取って銅鑼森事件と呼ばれている。 「10年も前の事件の話題を何故出したのか……今回の事件は10年前の事件に繋がっているのか、それとも全く違う理由なのか」  ふふふ。 「あら夢邦、ちょっと愉しそうな顔してるじゃない。あの二人のことでも思い返していたの?」 「気のせいよ。ちゃんと前見て運転をしておきなさい」  銅鑼森事件で誘拐された1人はあたし達のパパの妹、つまり叔母にあたる初川真絹だ。そしてもう一人あたしには事件の関係者に愉快な知り合いがいる。  銅鑼森事件で無鉄砲なことをした、狂おしいほど頭のおかしい少年の名前は ――――――――――   「詠史さーん♡♡  つきましたよ。詠史さんが来たがっていた場所です」 「くしゅんっ!!」 「詠史さん、まさかお風邪を引いちゃったんですか!!?? 大変です、治すために早く私に移してください!! 詠史さんの病魔に身を犯されるのなら本望です」 「被害拡大間違いなしの民間療法を提案するな。大丈夫だ、どっかで誰かが噂でもしてるだけだろ。  しかしここがお前の実家か。確かに雰囲気あるなぁ。如何にも忍者が居ますって感じの古き良き日本家屋だ」  僕の名前は和倉詠史、忍者の家系である真絹の実家にやってきた16の男の子である。 「さて詠史さん、我が初川家に入るにはとても厳しい試練があります」 「試練? んだそれ初耳だぞ」 「まだ言ってませんでしたからね。  しかし安心してください、詠史さんならばこの試練を必ずやクリアできると私は心の底の底のさらに底から信じております。というか、私はいつでも詠史さんをこの世の誰より何より信じております。物理法則であろうと詠史さんが否と言えばそれを信じます」 「頼むから僕の戯言より世界の理の方を信じてくれねーか」 「さて、その偉大なる試練の内容ですが」  真絹は美しく上品な、まるで絹のように白い髪の毛をたなびかせながら無邪気に笑う。 「詠史さんが私のおっぱい揉むことです。出来れば生で!!」  僕の視界にしっかりと収まるように、真絹は巨乳をたゆんっと動かした。 「ひと揉みにつき一センチ門が開いていくのでたっぷり揉んで下さらないと入れるくらいになりませんよ。もちろん全開になっても揉むのを止めてくださらないのも全然ありですけどね。というか、希望はそっちです!!」 「………そうか」 「念のためお泊りの用意もしてありますので時間を忘れて没頭しても問題ありませんよ」  大真面目なトーンでそう言った真絹を横目に、僕は木製で兎の絵が彫られている2メートルくらいの門を普通に開けて中に入っていったのであった。 「お邪魔しまーす」

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