@ItsukiHaruma_JP / 第56話

第2章:沈黙の後の風

何これ?!マジで、息ができない。 呼吸は浅くて、途切れ途切れ…誰かに心臓を握り潰されてるみたい。叫びたくても声が出ない。 フードの男が、あたしのパニック顔を一秒一秒味わうみたいに、ゆっくり近づいてくる。そんで、病的なほど優しくあたしの顔を掴んだ。その手が尋常じゃないくらい冷たい。 あたし、金縛りにあったみたいに動けない。涙が勝手に零れ落ちるの、マジ最悪。泣くのなんて大嫌いなのに…。 頭の中じゃ、ただ逃げ出すことしか考えてなかった。まるでこれが現実じゃないみたいに、ここから消え去りたいって。 だって、彼らは今朝、あたしと一緒に朝ごはん食べたばっかりだったんだよ。笑ってた。元気だった。 それが今…今、彼らは――。 「彼らのために悲しんでいるのか、人間よ?」フードの男が、あたしを馬鹿にするみたいな声で言った。 あたし、何も答えられない。ただ、バカなガキみたいに嗚咽するだけ。 突然、男はあたしを突き飛ばして、部屋から廊下へと放り出した。あたしはつんのめって、廊下の床に叩きつけられる。 顔を上げると、あのフードの男があたしの方に向かってくるのが見えた。 殺される!絶対に殺される! 警察に行かなきゃ、逃げなきゃ! あたしはできる限り早く立ち上がって、後ろも振り返らずに走り出した。必死で…最初の段を踏み外しちゃって、階段を転げ落ちて下の階の床に激突するくらいに。 転んだせいで床に転がったままだったけど、ゆっくりとした、静かな足音が聞こえ始めた。 あいつ、恐ろしいほどの落ち着きで階段を下りてくるんだ。 あたしは叫んだ。喉が張り裂けるまで叫んだ。 「その騒音は助けにはならない。本当に手応えのある挑戦を期待していたのだが、時は皆を弱くしたな。これは私にとって好都合だ。」フードの男が、少し皮肉な口調でそう言った。 「なんであたしの両親を殺したのよ、このクソ野郎が!!」あたしの声は途切れ途切れで、息が詰まるようだった。 「お前の泣き声は私を苛立たせる…こんな良い暮らしをして。地獄のような生活を送っている者もいるというのに。お前たちの間では偽善が蔓延している。」 「そんなの、なんの言い訳にもならないだろ!なんでこんなことしたの?!答えろってば!」 あたしは震えていた。 その男はあたしの目の前に立ってて、あたしをじっと見つめてる…まるでゴミを見るかのように。 「魔王である私が、わざわざここに来て貴重な時間を無駄にしたことが情けない。お前は私の労力にも値しない。ただ私の前から消えろ。」 あいつの手があたしの腕を掴んだ。 あたしはもがいて、殴ったり、蹴ったりしたけど、あいつは微動だにしない。まるで石でも叩いてるみたいだった。 あいつはただ物置まで歩いて行って…そんでドアを蹴破った。 光があたしの目を眩ませて、そんで… ポータルらしきものが見えた。 何だあれ? あいつはあたしを見て、何も言わない。ただあたしをポータルの中に投げ込んだ。 強い光があたしを盲目にする。 体が自由落下していくのを感じて… そして、全てが一瞬にして暗くなった。 目が覚め始めたあたし。 頭がガンガンするし、風はビュービュー吹き荒れてる。 体は砂まみれ。最悪。 ふと横を見たら、海。波がザザッと打ち寄せては引いていく。そのすぐそばに、両親がくれた安物のペンダントが転がってた。これだけが、あたしに残された唯一の物。這いつくばって拾い上げて、ぎゅっと握りしめる。 ふらふらと立ち上がったけど、めまいがひどくて何も理解できない。あたし、どこにいるの?家はどこ?なんでこんなことになってるわけ? ようやく脳みそが状況を理解したみたいに、あの時の光景がフラッシュバックする。あたしは砂の上に膝から崩れ落ちた。無力で、弱くて…そして。 今朝はメイクして、大学の夢見てたのに…今、あたしどうなってんの?全部、失っちゃったじゃん。 なんでよ? ただ、パパとママがここにいてくれたら、それだけでよかったのに…。 あのクソ野郎が、あたしから全部奪ったんだ…。 無理やり体を起こした。一歩。また一歩。 ひたすら歩く。歩く。 口の中はカラカラ。足はもう棒みたいで激痛が走る。こんなに歩き慣れてないし、誰もいないし…。 やがて夜になって、遠くに光が見えた。やっと文明の兆し!あたしは狂ったみたいに、その光目指して走り出した。 そこは村だった。 正直言って…まるで中世の物語から飛び出してきたみたい。木造の家ばかりで、電線なんて一本もないし、街灯は火で照らされてる。超絶変。数時間前まで家にいたのに、ここ、あたしの知ってる通りじゃないじゃん…いや、そもそもあたしの住む街にビーチなんてなかったはずなんだけど? 通り過ぎる人を見かけた。なんか変な耳してる。あたしはすぐに駆け寄って言った。 「ねえ、助けて!お願い…両親が殺されて…」 なのに、その人はあたしを突き飛ばして、あたしはお尻からドスンと地面に倒れ込んだ。そいつはあたしを嫌悪の目で見下ろして、地面にツバを吐き捨てて行ってしまった…一体何が起こってるの? 周りをよく見たら、みんな変な格好してる。尖った耳のエルフみたいな人たちもいれば、動物の体の一部を持ってる人たちも。 マジ何これ?もしかして、コスプレイベント? あたしは何も理解できないまま歩き続けた。みんな、あたしに同じような視線を向けてくる…もしかして、あたしも仮装しなきゃいけないの? 変。本当に変。 あたし、何もわかんない…。 立ち止まって、周りを見回し、それが何なのか理解しようとしてたら、誰かが叫んだ。 「お嬢ちゃん、ここから逃げろ…早く!すぐにそこを離れるんだ!」 あたしは素早く振り返った… そしたら、あたしと同じような人たちがいた。荷馬車に鎖で繋がれてる。生気のない目で、汚れてボロボロだった。 その瞬間、あたしは悟った。 ここ、あたしにとってヤバい場所だ。 ここが、あたしの終わりになるんだ。 逃げようと振り返った時、誰かがあたしの腹の真ん中に拳を叩き込んだ。あたしは咳き込みながら倒れ込んで、息ができない。すると、一人の男が言った。 「おいおい、なんて掘り出し物だ…運が良かったな。こいつは状態も良さそうだ。いい金になるだろう。」 その瞬間、あたしは意識を失った。

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